第13話 盗賊イベント、開始……した?

 ど、どうしたらいいんだ……!


 勇者パーティに加入することになってしまった。

 いや、一応1度は加入するイベントもあるにはあるんだけど、タイミングが完全に違うし、それに聖女を仲間に入れる際、兄たちのライバルパーティとの勧誘合戦からの、ならば実力を計ろうという近隣で暴れる盗賊団の討伐競争というイベントががが。

 現状だとそれが丸ごとすっぽ抜けた形なんだけど、これもうどう修正したらいいのか分からないよ。いいからアレン、嬉しそうに僕の頭撫でるの止めてくれないか!


「不満そうだな」

「そりゃもう……兄上たちのおばか……」

「まぁなぁ、資金とか足とか段違いだろうしな。あいつらの持ってたあの武器とか、俺たちじゃとても手が届かないようなヤツだったし――」

「そういうんじゃないんだよなぁ……」


 あの武器、僕の私物だし。すでに回収済みだから手元にあるよ。

 あと資金的には兄たちの無駄遣いが過ぎてむしろ僕の費用は持ち出しが多かったから、そういう意味では多少楽になる。多分。

 何しろ老後のためにコツコツ貯めてた資金、崩しながら旅してたから……。

 あの家、長兄にはそれなりに金掛けるけど、下には本当にケチにも程があるんだよ。


 ……聖女、大丈夫だろうか。主に金銭的な意味で……。兄たち、金銭管理出来ないからな……。

 一応別れ際に伝家の宝刀まほうのことばを教えておいたから、なんとか頑張って欲しいところ。内容? ええと……「フォスティーヤ家につけといて」。いつまで通じるかちょっと怪しくはあるけどね。


「大丈夫。早く魔王を倒して旅を終わらせて、そしたら改めて一緒に旅に出ようよ。きっと楽しいよ」

「……そうだね、きっと楽しいね」


 もっとも、その時君の横にいるのは、僕じゃないけどね。でも、君の旅路人生はきっと楽しいものになるよ。だいじょうぶ。

 作品にはちゃんと君と相性の良いヒロインが何人もいて、その内の誰かが君と結婚して、支え合える良い夫婦になるんだから。


 機嫌の良くなったアレンの背中を、オルガと並んで後ろから眺めた。


 今僕たちは、盗賊討伐に向かっている。本来は聖女勧誘の競争として設定される依頼だ。先に討伐した方が――というヤツ。

 それが、兄上たちのパーティがさっさと出発してしまったことで、後からやって来た教会の長から直に依頼されてしまった。兄たちと聖女がさっさと旅だってしまったことによる弊害だ。


 本来はこの結果で、盗賊の討伐こそ先に成し遂げたものの、勇者パーティは兄たちライバルパーティにとある疑惑と濡れ衣を着せられ、聖女を奪取された上で僕を押しつけられるのだ。

 僕はこの討伐イベントの終了から少しの間、彼らと行動を共にする。そして兄たちから命じられている通り、ひたすら彼らの邪魔をする。

 最終的に、邪魔の一環として敵を呼び寄せ、その敵に殺されて死亡。その時盗賊退治の時に濡れ衣を着せたことも言動から周囲にバレて、晴れて聖女は勇者パーティに正式加入となるのだ。なお兄たちはその際断罪されて牢に入れられることになる。


 無情かも知れないけど、兄たちは入牢した方が身の安全だけは保障されるから、個人的には早くそうなって欲しいと思ってる。魔物と戦う力はゼロではないけど、あまり高くもないから……。彼らのことは好きでは無いけど、一応ザジークにとっては血の繋がった肉親だしね。戸籍の通りではないとはいえ。


 でもなぁ。競い合うまでもなく、僕は彼らに押しつけられた……これは主にアレンのせいだよ。だって僕を歓迎してしまうんだから。むしろ僕の方が良いみたいな感じで手を差し出すんだもの。頑張ってきたのが全部台無しじゃないか。


 一番の問題は、今の流れでどうやって兄たちの断罪まで持っていくかなんだよね。

 投げ文で思考誘導でもするか?


「なぁ、ザジ」

「なに、オルガ」

「さっきあいつらが言ってたの、ホントなのか」

「……………………まぁ、いちおう」

「そっか。悪かったな。誤解、してた」

「イヤ別に誤解じゃないし。僕が君らに嫌がらせしてたのはほんとだし」

「嫌がらせっつーか、構ってちゃんみたいな感じじゃなかったか?」

「へ!? いや、ちゃんとしてたよね、嫌がらせ! 連絡届けなかったりとか、教科書にらくがきしたりとか!」

「……あれ嫌がらせだったのか? うっかりとか、イタズラとかだろ?」

「嫌がらせだよ!」


 2人で話していたら、アレンがひょいと不機嫌そうな顔で振り返った。


「なんで2人で仲良くしてんの」

「仲良くなんてしてねーよ」

「仲良くなんてしてないよ」


 2人の声が揃ったことで、余計にアレンの機嫌が下がった。ひょいと腕を取られて、引き寄せられる。……なんでこんな近く歩く必要があるんだよ。と非難を込めて軽く睨めば、「守るって言ったろ」と返された。いや、そりゃ言われたけど。


「――あ」


 目の前に、傷だらけの少年がまろびでてきた。

 咄嗟に手を差し伸べると、明らかにまだ成人していない幼い子だ。思わず反射的に治癒を発動してしまった。咄嗟のことで力の制御の枷が外れた。


「……い、いたく、ない……?」

「あぁ~~……えっと、大丈夫? 転んじゃった?」


 びっくりした顔のままで自分の掌を見つめてこくんと頷く少年は可愛い。血まみれだけど。

 僕は魔術を発動するとき割と呪文省いてしまうからな……これ誤魔化しきくかな。


「あんたが治してくれたのか?」

「いやいやそんなまさ――」

「そうだよ」


 アレン。どうしてお前が答えてるんだよ。人の台詞取るな。


 改めて少年を見る。ビジュアルに変更は特になし。ちゃんと見覚えのある姿と顔――盗賊団の使いっ走りにされている少年だ。こうして傷だらけの姿で旅人の前に現れて、仲間を助けて欲しいと気の良い旅人を街道から盗賊団のアジトに釣り出す役割を担わされている。

 ……『仲間を助けて欲しい』は本当の気持ちだから、余計に救われないんだ。

 彼を初めとした数人の子が、同じように『釣り役』をやらされている。1度に出されるのは1人で、他の子は釣り役が逃げ出さないための人質だ。お互いに助けあいをさせて連帯感を強め、裏切りを防ぐ。胸くそ悪い。


「おねがい……! あんたたち強いんだろ!? 俺の仲間を助けてくれ……!」


 ボロボロと涙を流しながら僕にしがみ付く少年を、アレンは無情にも引き剥がした。


 おい勇者。

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