第12話 予定外に仲間入りしてしまった

「アレン! アレンじゃない!? 私よ、リーナよ! 覚えてる? 小さい頃、いっぱい遊んであげたわよね、うわー、懐かしい……!」

「覚えているよ。……えーっと、彼の治癒をお願いしても?」

「あれからほんっと大変だったのよ。ここの孤児院に預けられて、まぁ色々あって今はここで聖女をやってるの! アレンは今なにやってるの?」

「すみません、どなたか彼の治癒をお願い出来ませんか?」

「ああ、いいわよいいわよ、私がやるから。はい、ちょちょっとね! ほら終わり! でね、アレン――」


 立て板に水とはこのことを言うのだろうか。こっそり気配を探ったらなんというか、想像よりずっとすごいものが聞こえてきた。ヒロイン、そういう感じの子か……。元気が良いのはいいけど、ちょっとキツいな。

 アレンの声が妙に気を張っている。明らかに身を引いて、踏みこませないようにでもしているような感じだ。ヒロインのリーナが手放しで懐かしんでいるのとは対照的だった。


 ヒロイン――リーナの母親はアレンの母の侍女でアレンの乳母だった人だ。母の差配でわざと身分の低い平民女を宛がった、的な設定がある。従ってリーナもまた平民だ。リーナの母は出戻りで、実家との縁が薄く、リーナを連れて住み込みで働いていた人だった。リーナはその都合上、アレンとは一時、姉弟のように育てられていた。

 リーナの母はアレンの母が殺された際、彼女を庇って共に殺される。それにより孤児になったリーナは街の教会に預けられ、そこで聖女として才能が開花するのだ。


 才能開花……してる……よな? 表面上だけとは言えオルガの怪我はそれなりだったから、それを即座に治癒出来るなら、その腕前は正に聖女なのだろう。たぶん。


「ほぉ、あれが聖女か……なんだ、平民の女か。まぁそこそこ見れる顔ではあるが」

「野暮ったさは隠せていないな。そこまで悪くもない顔とは言え」


 兄たちには割と好評だった。顔しか見てない。


「あんた良い腕してるなぁ。俺たちの旅についてきちゃくれないか?」

「おい、オルガ」

「いいじゃないか。必要だろ、回復役」


 なぜかオルガがリーナをパーティに誘っていた。そこはアレンが誘うはずなんだけどな……?

 誘われたリーナはまんざらでもなさそうだ。「どうしようかなー、教会のお仕事もあるしなー」と言いながらアレンをちらちら観ている。ほらほら、アレン、お前も誘えよ。誘われたがってるよ、幼馴染みが。


「ちょっと待った! その女は我等が先に目を付けたのだ! お前ごときにはもったいない!」


 中の兄が堂々と宣言しながら彼らの前に姿を現す。ばっちりタイミングです、兄上! こういうところは原作補正だろうか、すごくきちんと仕事してくれる。助かる。

 下の兄も後ろで上手に盛り上げているから、僕も習って頑張った。


「そっちのパーティにはもう回復役いるじゃねーか」

「ふん。ならばこちらのザジをそちらにやろう。それなら文句はないだろう?」

「は? 冗談じゃ――」

「そうですね、兄上。それなら何も文句はありません。ザジ、こっちへおいでよ」


 は?

 アレンがニコニコ笑顔で僕を手招く。え、ええー……?

 オルガは露骨に嫌がってるよ、アレン! 相棒をちゃんと見よう!


「ちょ、兄上、僕を売るんですか!?」

「え、いや、別に売るとかじゃなくてだな、ほら、あっちが言うのも一理あるというか、回復役ならやっぱり可愛い女の子の方が良いし、回復役ダブらせてもなんだし、お前怖いし――」

「は?」

「そういうところだ! さっきの剣だけ置いてあっちに行け!」


 いや! いやいやいや! そういうわけには行かないんだよ! ここは聖女を取り合って、騒動で出てきた教会の長がそれなら勝負して勝った方に聖女を加えましょうって宣言する流れになるのであって――ほらぁ、聖女ちゃんもポカーンとしてんじゃん!!! しっかりしろよアレン! お前が求める回復役は! 聖女ちゃん! だろぉ!?


「え、えーっと、あのぉ、私は結局、どうすれば……?」

「我らと共に来い、聖女。我がフォスティーヤ家の家名に置いて、相応の扱いをすると約束しよう」

「あ、はい。それならそれで!」

「聖女!?」


 そう言えば兄たち割とイケメンだった! 僕の横を通る時「ふふん♪」って顔する聖女がなんか可愛い。いや、顔は可愛いけど、そこでその表情はちょっと聖女っぽくなくない?


 え、えええっと、ちょっと待って、でもそれだとシナリオが――


「ザジ」

「……アレン、同行は聖女――リーナさんじゃなくちゃダメじゃないの? 僕、回復は出来るけどそれだけだよ……?」

「十分だよ。正直、良く知らない人より知ってるザジの方が気楽だし、信用出来るし」

「俺は反対なんだけど。こいつまたなんかするんじゃねぇか?」

「そうだよ、僕は嫌がらせするよ!? 君達の旅路を邪魔するよ!?」

「なんで?」

「え、なんでって……えーっと、……あ、兄上たちに命令? されてるから?」

「お前学生時代我等の命令をあれだけ棚上げしておいて今更従うのか……?」

「しー! しー!!! そのことはアレンは知らないんですから!!!」


 唐突な暴露をした下兄に言うなと言えば、僕が嫌がる様を見て嫌がらせになると勘違いしたのか(いや確かに嫌がらせにはなるけども!)、にやにやと笑いながら学生時代エピソードを暴露しだした。


 何度も呼び出して鞭打って嫌がらせを命じてたのに反故にされ続けたとか、そんなの今更暴露しないで! ただの美談になっちゃうからぁ! ほら、オルガの顔まで、変わってきちゃった! なんか思ってたのと違うって顔になっちゃった! しかもアレンの顔、だんだん修羅めいてきてるんだけど!? 顔は笑ってるのに目が全然笑ってないよ!?

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