第10話 兄たちのパーティに加わった

 僕自身の望みではない。当然だ。兄たちと共に行動なんてしたくもない。

 しかし実家から命じられれば、僕にはそれに抗う術はないのだ。


 ……と、アレンには説明した。実際は違う。割と抗うし逆らってきた。アレンを害せよと、この6年でどれだけの回数命じられてどれだけ適当に失敗したふりをし続けてきたと思ってるんだ。ほぼ3日に1度だぞ。ふざけんな。なおこのことはアレンは知らない。

 あまりにも呼び出され授業を強制的にサボらされたお陰で、学業関係の成績の悪さは特になにかの細工をせずとも成ってしまったほどだ。テストはそこそこでも出席がボロボロだったから。


 嫌がらせは、まぁ、ぼちぼち。おかげさまで、卒業式の頃にはすっかりオルガには嫌われた。アレンは何というか、……変わらないんだよなぁ。困ったことに。最後の方は割と頑張って嫌がらせしたのに、全然ちっとも変わらなかった。それが嬉しいと思ってしまうから、僕も大概なんだけど。


 兄たちに付いていくことを選択した一番の理由は、それがシナリオの指し示す道だからだ。ちなみに別に兄たちも好きで僕を仲間に入れようというのではない。それが実家の命令だからだ。多分母が主導している。主な目的はアレンの孤立だろうな。割と他家にも圧力をかけていたらしい。

 ……だから、アレンは物語が開始する学園卒業時、パーティを組める人が親友のオルガだけだったんだな……。オルガは平民だし、実技はともかく学業の成績はふるわなかったから、ノーマークだったんだ。

 改めて、そんなことに気付いた。


 ザジークはアレンとオルガのパーティを邪魔するライバルパーティの一員というのが、この物語で担う役割だ。彼らの行く道を妨害し、数々のトラブルへと導かなくてはならない。それを経ることで彼らは更に成長してゆくので、一応必要不可欠な要素なのだ。心は痛むが。


 特に最序盤。アレンとオルガは僕らのパーティから妨害されて戦い、初の負けイベを経験する。魔物相手には順当に勝ってきたから、僕もゲームで最初に僕らと戦ったときは、まさかこれが負けイベだなんて思わなかった。余裕で楽勝だと思ったものだ。

 ところが僕らの僕以外の2人は兄だけあって上級生で、数年年上というアドバンテージは侮れなかった。落第して卒業年が僕らと同じになるという体たらくであっても。彼らは実家の財力で強力な魔道具を所持していた。それらを駆使して戦う彼らは最序盤の2人よりは強かった。


 アレンたちは負け、そして大怪我を負う。その治療の為立ち寄った教会で、アレンはかつての幼馴染みで今は聖女となった少女と再会するのだ。


 だからこれは、とても大切なイベントで、そして僕はこのイベントを必ず成功させるために兄たちのパワーアップと闘いにおける2人の怪我の程度の調整を行う予定だった。


 ……恥ずかしいことだが、僕はやっぱりアレンが好きで、そんな好きな子と一緒に居たら勉強も戦闘訓練も捗るんだよ。こればっかりはしょうがない! そしてアレンは流石勇者だけあって大変ポテンシャルが高く、しかも負けず嫌いな上、必ず僕に勝とうとする上に僕が手を抜くのを心底嫌う!

 というわけで、学生時代の僕らは非常に良質な切磋琢磨が成立してしまっていた。僕は試験では手を抜いていたから程々だったが、アレンは歴代最高の成績を毎年更新していた。卒業時点であまりにも強くて、彼こそが魔王を打ち倒す勇者だと、周囲からの期待の寄せられ方も凄かった。


 実家の目をかいくぐって寄せられる釣書や絵姿の数は年々バカに出来ない件数になっていった。アレンは全部丁重にお断りしていたみたいだったけどね。やっぱり幼馴染みのことを今もちゃんと思ってるんだろうな。


 僕なんかにも、釣書がいくつか届いていた。アレンと繋ぎを取りたい家とか、兄たちと繋ぎを取りたい家とかだろうなと推測は付く。ハブられてても片隅に追いやられていても顔が微妙でも一応名家の一員なので。

 そういうのがあけすけに見えるからだろう、アレンの目に止まると彼が途端に不機嫌になるから、それらは彼の目には入らないように内々に処分した。


 どちらにしろ、僕は自分の出番が終わったら、表舞台からは退場する予定だ。

 僕の出番は、


1 旅立って間もないアレンたちを妨害し怪我を負わせて聖女との再会を促す

2 兄たちが聖女を奪いさるのを手助けする

3 聖女を守りつつ、アレンたちと兄たちが盗賊団の討伐競争をするのを手助けする

4 兄たちが討伐競争で勝利したアレンたちに八百長疑惑を押しつけるのを補佐しつつ、兄たちから首を言い渡されてアレンたちのパーティに加わる

5 アレンたちの旅路(主に戦闘)を邪魔する、足を引っ張る

6 兄たちに言いつけられた魔物寄せの香を焚き魔物を寄せる

7 6のとき、大量過ぎるほどに寄せて焦ってアレンに助けを求めつつ、彼を魔物へと突き飛ばす


 となる。そして7の突き飛ばしの際、運悪く僕の方へ魔物が押し寄せ、圧死するのだ。


 退場するならここだと思っている。死ぬのは嫌なのでそこはうまいこと誤魔化すつもりだ。

 後は影から彼らを見守りつつ、魔王が無事に討伐されたら隣国にでも出てしまおうと思っている。アレンが真エンドで聖女と魔界に国を作るなら、そちらに移住してもよいかもしれない。


 貴族として生まれ育ちはしたが、一応異世界とは言え社会人として生きた経験も記憶も持っている。家事は一通り出来るし、食べ物の好き嫌いなども少ないからどうにでもなるだろう。治癒の力を使って治療院でもやれば食いっぱぐれることはない。たぶん。


 目指せ、無事のパーティ脱出! そしてまずは最初の関門!


「ですからね、兄上。そんなに弱くては困るのですよ」


 足下には叩きのめした兄たちが転がっていた。


 いやぁ、弱い。びっくりするほど弱かった。

 威勢だけは良いのだが、威勢しかないのは頂けない。少しは実力を伴っていなくては。兄たちは分かっているのだろうか。手も足も出ないでいる僕よりも、アレンは更に強いのだと言うことが。

 ずっと学年が違ったから直接対決することは基本的にはなかったし、仕方ないのかもしれないが――仕方ないとどれだけ言おうと、アレンが弱体化するわけじゃないんだよなぁ。これじゃ彼らの負けイベが成立しない。それはだ。


「しょうがないなぁ」


 溜息を吐いただけでビクつくの止めてもらって良いですか、兄上?


「タイムリミットぎりぎりまで、ちょーっとだけ、特訓、しましょうかスパルタしますね?」

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