第3話 獲得チートをざっくりとまとめた
さてチート(?)だ。
具体的な内容は、割と地味だ。だって別に神様関係ないし、所詮は僕を入れたモブ――もとい一般人4人が持ち寄った程度のチートだもの。……うーんこれチート詐欺? いやいやいや、一応チートだよ、一般人よりは大分能力増なんだし。
魔力量×4人分。他の能力値は無理だったけど、魔力だけはなぜか足し込めたので全員分をぶっこんだ。具体的な数値は見えないから知らない。なんとなく、体感で、全員分がぶっこめたことだけは分かったのでヨシ。
それに魔法の才能を全員分。
ザジ――元々の身体の持ち主は治癒術の才能だけを持っていた。採用。
両親と僕にはなぜか魔法の才があった。魔法がない世界だったのにね、不思議。
魔法がない世界だったから才はあっても意味がなくて、その分のリソースをそっちに持って行かれていた分、平凡よりやや下だったらしい。しらんがな。全採用。
というわけで、母は風火光属性、父は水土闇属性、そして僕は無・空間属性の才があったから取りあえずそれを全部ぶっ込んだ。全属性になった。
残念ながらそれ以上は特記すべき才能は持ってなかったので、これでお終い。割とあっさり統合は終わった。
「よく天は二物も三物も与える……なんて人は、こうして数人分の才能を集めてる人かもしれない……」
「いや普通に授かっただけでしょ」
それっぽく呟いた父にザジ君がツッコんだ。
ザジ君は多少ツッコミ気質なのかな。うちの両親は割とボケ気質だから1人心を強く持ってがんばって欲しい。……優しい人達だから、ザジ君はきっと幸せになれるよ。だから君も僕の両親を幸せにしてあげてくれ。代わりに僕は勇者を幸せにするから。
と言ったら、小さく頷いた後、顔を真っ赤にして僕を睨んだ。
「ぼ、ぼくは別に、あんなヤツどーだっていいんだから! 全然好きじゃないし! 良いヤツだとも思ってないし! 友達になれるかもとかだって、ちょっとしか思ったことないんだからな!」
そこまで言わなくても良いのに……。勇者が少しだけ可哀想だ。勇者――アレンはきっとザジのことをそこまで嫌っていないと思う。崖下にだって助けに来てくれたし。その手を払うのがザジなんだけど。「助けに来てくれなんて頼んでない!」って。
「……助けに来てくれるの、あいつ」
「そうだよ。危ないのに、形見の手鏡を探すより前に君を探して助けてくれるんだよ。アレンってそういう子だろう?」
「だ、だって、ぼくは――あいつにひどいこと、して……!」
泣き出してしまった。母の腹に顔を埋めて、ザジは声もなく喉を引きつらせて、目からボロボロと涙をこぼした。声を堪えなくて良いのよと母に促されて、ようやく彼は声を出して泣き出した。呻くような声の合間に幾度もごめんなさいと繰り返す声が聞こえた気がした。
アレンは僕が幸せにするよ、きっとだ。……とは言え、彼は勇者だから、強い力を持った人だから、手助けなんていらないかもしれないけど。それでも、僕が手を貸したいと思うのだから、助けたって良いだろう。邪魔にはならないように気をつけないとだけどね。
静かに語れば、ザジは泣きながら頷いた。
その時、ザジ君の姿が奇妙にぼやけて歪んだ。焦る彼に理由を尋ねれば、「魂が身体から引っ張られてるみたい」だって。どうやらここがタイムリミットらしい。
……折角両親と再会出来たのだからもう少しゆっくり話をしたりしたかったけど、時間ならばしょうがない。
「じゃ、僕はもう行くね」
「ええ。あなたがザジ君の人生を生き終えてまたここへ戻ってくるのを待っているわ。のんびりとね。無理せず、幸せになりなさい。自分にとって何が大切なのか、幸せなのかを見失わないようにね」
「うん、母さんも元気で」
「1回終わった後の人生だ、サービス回だとでも思って気楽に楽しんできなさい。人として大切なものを見失わなければ、どう生きたって良いさ。伊知郎の人生だ」
「うん、父さん。ありがとう」
「……ありがと。頼んだ」
「うん。出来るだけのことはするよ」
3人に挨拶を終えると、僕はザジの頭の天辺から伸びている魂のヒモをぐいと握りしめて、それを辿るように、彼が生きていた世界へと下りていった。
……――そして今。
崖下落下事件からすでに3日が過ぎていた。怪我は自分の力もあってすっかり癒えた。元からちょっと打ったり擦ったり程度の怪我だったのもある。
3日過ぎた――とは言っても、事態が特別進展したということはない。
次に大きな進展があるのはおよそ4年後、学園に入学するときだ。
この家の子供達の日常は割と型にはまっている。
朝6時に起床、7時までに身支度を終え朝食、9時から12時までは座学、12時から昼食代わりに軽いおやつを食べ、13時から16時までは魔法と剣術の稽古。17時までに身支度を終えて夕食、19時からは自室で自由時間の後、就寝だ。
最も、座学の時間も教師が付いているのは10時から12時までの2時間だけだし、午後の稽古は15時から16時まで騎士団の人が顔を覗かせるくらいであとは自主鍛錬だ。
長兄の時はもう少し厳しかったらしい。教師が付く時間が僕らよりずっと長かったと聞いている。教師も次男と三男に付けられたもので、四男のアレンと五男の僕とはただのおまけだ。授業を聞く許可は得られているけど、教師に質問することは許されていないし私語も勿論許されない。教師のいない時間は一応使用人が1人ついているけれど、こちらのやっていることに干渉はしてこないから、放置されているに等しい。脱走しないように見張っているだけ、というか。
そういうわけだから、アレンと僕は授業でいつだって兄たちから虐められていた。以前は主に僕が。今は主にアレンが。
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