第2話 これまでとこれからの人生を簡単にまとめた
――というわけで、今僕の目の前に
「大丈夫? 痛いところはない?」
勇者の手には、水に濡らされたハンカチが。それで僕の汚れた額をふいてくれてる。僕のメガネは掛かったまま……だな? 身体をあちこち触っているのは、骨が折れてないかを確認してるのかも。
幸い落ちたのはそこまで高いところからではなかったし、あちこち擦れて擦り傷をこさえているくらいだ。あいてて。
良いヤツだ、勇者。――名前は……デフォルト名、なんだな。とこいつの身体に残された記憶を辿る。……うん、記憶も無事に繋がった。こいつが生きてきた人生が頭の中をグルグルと回る。割と内容はスカスカで、あまり良い思い出がなかったことが見て取れた。言葉や地理歴史その他、兄たちの授業に付き合わされて得た座学知識が地味にありがたい。
あと、僕に報酬でくれると言っていた通り、勇者の幼い姿の記憶はめちゃくちゃあった。下手したら自分の姿よりずっといっぱい。あと、勇者のお母さんの姿も。素朴な美人さんだった。
勇者の名はアレン。アレン=ルオ=フォスティーヤ。戸籍上はフォスティーヤ辺境伯の四男で、今は亡き第二夫人の子。年齢は今年で10歳。僕と同い年。
僕の名前はザジーク=ルオ=フォスティーヤ。第一夫人の第四子でフォスティーヤ辺境伯家の五男。アレンとは同い年で2ヶ月年下。愛称というか、略称は、『ザジ』。
「大丈夫。……あ、あのね、アレン。その……ごめんね。僕、……君の大切なものに、ひどいこと、した……」
「…………。うん、そうだね。本当に酷いよ。でもザジが無事だったからそれでもういいや。今日のおやつ譲ってくれたら許してあげる」
僕の言葉に最初驚いた様に目を見張って少しだけ無言になったけど、すぐにそう言って笑いながら手を差し伸べてくれるアレンがまぶしい。良い子だ……。
彼の母親の形見は鏡だった。かなり高価で古いものなのだろう、それを綺麗に磨いて大切にしていたんだ。前にちょっとだけ見せて貰ったことがあるから知っている。寂しい時に見ると母様を思い出せてちょっとだけ寂しくなくなるんだって笑ってた。僕はそれが羨ましくて妬ましくて、だから、兄たちから唆されたとき、ついそれに乗ってしまったんだ。
……ああ、なるほど。本当は、放り投げるつもりなんてなかったのか。ちょっといじわるしたかっただけなんだ。なのに指が滑って落としてしまった。
だから落としたそれを捕まえようとしてバランスを崩して、自分も一緒に落ちちゃったのか。
あれ? そもそも、なんで一緒に鏡を見たことがあったの? 実は結構仲良し? でも兄たちと一緒にアレンのおやつを取り上げたりもして――そのあと自分のを分けてあげてる……? 食べきれないからいーらない、ってアレンの近くにフクロに入れたお菓子を放り投げたりしてる……な……?
……あれ? こいつ、やっぱりそんなに悪いやつでは、ないんでは……?
――ああ、ザジ、兄さんたちから、めちゃくちゃいじめられてたんだ……。で、第二夫人が亡くなってアレンが本宅に引き取られて来てから、その標的が彼に移って……自分がまたいじめられるのが怖くて、表立っては助けたり出来なかった……のか……そっか……。
うーん、それにしても、確か学園卒業した後は兄さん達と一緒のパーティで魔王討伐に行くんだよね。大丈夫なんだろうか? 流石にその頃には兄さんたちも大人になって少しは改心する?
一応チート(?)も貰ってきたから、いざとなったらそれで自分を救出しようかな。
実はこっちに来るにときに、流石にモブのままだと僕の身は途中で死んでしまうから、なんとかしたいよってことになった。
この後の僕の未来は、勇者と一緒に学園に入学して勉学に励んだ後卒業。勇者は学園で出来る親友の戦士と一緒にパーティを組んで、僕は治癒術士としてすぐ上の兄さんたち2人とパーティを組んで、それぞれ魔王討伐の旅に出る。
そこまではいい。問題はその後だ。
兄さんたちと一緒に旅立った僕は、旅先で兄さんたちと一緒に勇者パーティの邪魔をする。
具体的には戦って怪我を負わせるんだけど、その後怪我を癒やすために勇者たちが聖女を仲間にしようとするのを更に邪魔して、先に聖女を自パーティに加入させる。ほぼ拉致だ。
僕はそこで聖女と役割が被るからと兄さんたちにパーティから追放され、勇者パーティに押しつけられる。押しつけついでに兄さんたちから彼らの抹殺を命じられていた僕は、兄さんたちの言うなりに魔物寄せの香を焚いて魔物を呼び寄せて彼らを殺そうとする。だけど、どんくさな僕はそのどさくさのせいで運悪く命を落とす。
享年18歳くらいだろうか。なかなか酷い人生だ。
そんな人生、まっぴらだ。
なので、僕は僕の人生を改変する。
ただし。ただしだ。
僕は自分の人生を大切に思うのと同じくらい、『デモンクエスト』が大好きで大切なんだ。まだ両親が健在だった頃父と一緒に遊んだ思い出も、ゲームのプレイ時間が長くなってしまって父と一緒に母から怒られたのも大切な思い出なんだ。
だから、『
ならばどうしたら良いか。
極力、原作に忠実に
これでストーリーからすんなり離脱できるはずだ。
離脱できたらあとはもうこちらのもの。のんびりゆっくり、
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