when 1 month later
ここまで高校に入学して、1ヶ月が経つ。
良くも悪くも、我々新入生は高校の雰囲気に慣れた。第一ボタンどころか第二ボタンまで開ける
新天地で0から努力をしている者達なのだから。さっさと、中学生の残り香を捨て去ることができる者達だ。
この日は、夜中に人と会う約束をしている。家の前で待てばいいのだが、俺たちはブランコのしかない公園で話すことにしている。ベンチに座り、捨てられているワインの空き瓶を足で転がして待つ。5月に入ったのに、今日の夜は妙に寒い。一応、上に羽織ってよかった。マスクせずに外に出たせいで、鼻はズルズル。もうティッシュがない。
早く帰りたい。
朝倉は俺にアイスを投げてきた。コントロールが下手なのか、わざとなのか分からないが、俺の足元に落ちた。中身がシャーベット状になっていて、チューチュー吸えるタイプのアイスだ。こんなに寒いのに、アイスとは気が利いている。
「酒のほうがよかったか?」
ようやく来やがった。携帯を付けて、時刻を確認。当たり前のように20分遅刻してきた。ムカつくから、アイスを拾わず、奴の顔からそっぽを向く。
当の本人は発泡酒をビニール袋から出し、俺の横に座ったのちに、缶の封を空けて、
「とりあえず、乾杯。 CHEERS!」
「そういうのいいから、早く本題から話せよ」
この人に呼び出されたってことは、また何か厄介ごとを持ってきたに違いない。しかも、絶対にロボ関連だ。試験の合否の結果を見るのに躊躇する時間は惜しむタイプだから、さっさと言い放ってほしい。
「おいサム、お前そんなんじゃモテないだろ? 学校も仕事も、とどのつまり人と人とのコミュニケーションが最も大事な要素なのだから……」
何だかんだで昔からこの人はブレない。後、モテないどうのこうのは関係ない。
「いいから、早く」
朝倉は酒を一口飲み、さらにタバコを一口味わってから、
「恵のことだが、アイツのことはやっぱり回収しようと考えている」
え。
俺は朝倉のほうを思わず向いてしまった。
どうせ、また何かロボの世話に関わる任務が増えるとばかり思っていた。回収?
「高校の教員って意外と忙しいんだな。俺が高校生の時は、ずっと寝ているじいさんだったから、暇だとばかり思っていたんだがな~」
根拠が薄すぎるだろ。本当に学者だったのか?
「恵のメインの世話は俺がやって、サブ的なポジションにお前を用意するつもりだっただが。今はもうほぼお前が世話してるだろ? しんどいだろうと思うからさ、もう明日の正午頃までにはシャットダウンさせるつもりだ」
朝倉は自分の顎を触りながら、風で揺れるブランコを眺めて話す。
「右腕の設計がね、腕の設計書をパソコンのファイルのどこに保存したかが思い出せなくて、全然進まないんだよ」
また、俺抜きで事が進むのか?
いつだってそうだ。
この親父も、コイツの娘も。
俺という存在は、コイツらに影響を与えるパラメータにはなりえないというのか。
転がしていた酒の瓶をブランコのほうに蹴った。
今回の場合、事に振り回されているのは俺だけじゃない。
「アイツには……」
いや、俺は何言っているのだ。アイツはロボットなんだから、何も思うはずがない。
じゃあ、この状況で俺はどうすればいいんだ?
どうすればいいんだ、
「Are you okay with that? 」
朝倉は最終的な選択権を俺に渡してきた。一々、英語で言ってくるのが本当に気持ち悪い。
いや、どうなんだよ、俺?
回答する前に、何か質問をすべきか?
そんなに簡単に学校に行かせることを辞めさせると、色々調べられてロボットってことがバレるんじゃないのか?
せっかく、あんたが一所懸命に制作したロボットを一ヵ月で停止させていいのか?
違う。聞くべきは、そういうことじゃないはずだ。
俺は、あのロボットが
アレがいなくなれば、友達とも普通に遊べて、美咲とだって付き合えるような、そんな絵に描いたような高校生になれるって思っていたんじゃないのか?
じゃあ、俺が返すべき回答は単純明快で、選択の余地はないほどに、たった一つしかないんじゃないのか?
「ああ、それでいいよ」
こんな簡単な答えを導き出すのに、なんでこんなに自分の気持ちを確認しているんだ。
気づけば、朝倉のタバコはもう吸えないまでに短くなっていて、朝倉は吸い殻を携帯灰皿にしまっていた。
「Ok! じゃあ、話はこれで終わりだ。明日も学校サボるなよ。Gooood, night!」
今日は妙にムカつくな。俺の心理状態のせいか?
朝倉は自分の飲み終わった空の缶と、俺が蹴り飛ばした瓶をビニール袋にまとめた。
ワインの瓶が見えなくなるくらい大きいビニール袋だった。朝倉はその袋を公園のごみ箱に捨てて、帰っていた。
俺は朝倉から貰ったアイスを拾う。触ると砂糖水になっている。
キャップを開けて、試しにひっくり返してみると、足元に大量の融されたアイスが滝のように流れた。
そのアイスは一口も食べられずに、公園のごみ箱に放り投げられた。
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