金魚 駿
第1話 嫌な記憶
おれは確か同窓会に来てて、その後……?
そこから先の記憶がものすごく曖昧になってる。
直前の記憶が朧気なこともそうだけど、それ以上に今自分の見に起きている状況にも頭が混乱していた。
なんでおれ学ラン着てんだ?
それに心做しか、身体も縮んでるような気もするし。
両手を開いて閉じてを繰り返すことを意識すれば、目の前で手の平がグーパーを繰り返す。
どうやらこれがおれの身体らしいんだけど、どうも実際に動かしているような感覚もなければ、触ってるような感覚もない。
なんか、目の前で映像を見せられているだけのような気分だ。
それから少しして、その感覚にも慣れてきたところだったのに、突然おれの身体らしきその視点が勝手に動きだした。
最初はパニクったけど、そこでハッとした。
これはきっと夢だ!
やっと頭が回ってきた。
きっと記憶が無くなるまで酒を飲んだんだろうな。それだけ飲むのも久しぶりだな。
自分のことながら、相当浮かれていたらしい。
まぁでもそれも仕方ないだろ。
中学時代の奴らに久しぶりに会って、当時を思い出して、今もあの時と同じようにまた話せたことに舞い上がって、普段よりも飲み進めるペースが速くなってしまった。
それに加えて、中学を卒業して以来何度か開かれたクラス会――とは言っても来てたのはいつも一緒に騒いでたメンバーだけで、真面目ぶってたヤツらは来てなかった――にも滅多に顔を出さなかった工藤さんが参加していたんだ。
中学時代から男子よりも身長が高くて、スラリとした手足に整った顔立ち。
それにサバサバとした性格も相まって、女子からも人気が高かった。つうか、たぶん女子たちの憧れの女子みたいな感じだった。
高山がアイドルみたいな感じであれば、工藤さんはモデルか女優さんみたいな雰囲気があった。
おれはそんな工藤さんに正直一目惚れしていた。
けど、当時ちんちくりんだったおれは女子たちから「かわいい」って言われる方で、「かっこいい」とは程遠かった。
それに女子と話すこともなんだか気恥ずかしくて、向こうから話しかけられても無愛想に返事をするか、悪態をつくことしか出来なかった。
自分から女子に話しかけるなんて、夢のまた夢って感じ。
それが高校に入ると、それまでチャージしてたのかってくらい一気に身長が伸び始めて、髪のセットの仕方を覚えたりして身なりを整えるようにしたら、こっちから声をかけなくても女子たちの方から話しかけてくるようになった。
正直めっちゃモテてたと思う。
おかげで女子に対する苦手意識はあっという間に克服出来て、それから遊び相手には困らなかった。
気に入った子に声をかけたりかけられたり、そして飽きたら別れを告げた。
おれもやっと勝ち組になれたって思ってた。
剛義くんみたいな勝ち組に。
そう思うとたまらなく満たされる気がした。おれと居ると女子と話せる。そうやって近づいてくる奴らがおれの周りには何時もついてまわっていたし、そいつらはおれの言うことをよく聞いてくれた。
そうして、やっと工藤さんにも話しかけられるような自信をつけるまでになったおれは、同窓会で少しは意識してくれるんじゃないかって勝手に期待して、勇気を出して工藤さんの隣に腰掛けた。
けど、工藤さんはおれのことなんか全く視界になんて入ってなかった。
「今日、光弥くんは来てないんだね」
それだけ言って工藤さんは真面目なヤツらが肩を並べているテーブルの方に移動してしまった。
今思い出せるのはここまでだ。
きっと、その言葉に……比べられたその対象にものすごくムカついたから、こんな夢を見てるんだ。
おれの意識を乗せたまま、視界はどんどんその景色の中を進んでいく。
見覚えのある廊下は日中は電気をつけることがなくて薄暗く、奥に広がる多目的スペースに入る陽の光だけが小さく見える。
その光に向かって廊下を進んでいけば、オープンスペースのような形状の多目的スペースと、そこに面した一年一組の教室があり、その奥に細く続く通路を奥に進むにつれて、二組、三組……六組と教室が配置されている。
おれの身体は一年四組の教室に入った。
黒板には白のチョークで、6月15日という日付と、須田、華部と日直の名前が書かれている。
夢にしてはやけに細かい情報まで頭に入ってくるなぁ、なんて違和感を覚えながらも、その日何かあったっけ……?と、過去に意識を向けながら、おれは席に着いた。
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