第2話 手がかり

 関東もだいぶ冷えると思っていたけど、やっぱり北国である地元は、より冷える。


 吹き付ける風が顔に当たり、寒いを通り越して痛い。


 まだ雪が降ってる方が暖かく感じるんだよなぁなんて懐かしさを覚えながら空を見上げる。


 空はすっかりと晴れ渡っていて、お日様が晴れ着姿の新成人たちを照らしている。


 おれはというと、式典が開催される町民ホールの入口付近で中学時代の友人であり、今でも時々メッセージを送り合っている阿部と雑談して開場までの時間を潰していた。


 時々女子から声をかけられたものの、おれの記憶の中の顔と、化粧を施した顔とが一致せず、「……誰だっけ」なんて失礼なことを言ってしまった。


 男子は大概スーツで顔が少し大人びたかなってくらい、髪の色が派手になってたやつもいるけど。ヤンチャしてたヤツらは袴姿で来るからめちゃくちゃ目立つし、すぐにアイツらだなって分かった。


 時間が経つにつれて、ホールの入口前は新成人たちで溢れかえり、各々写真を撮ったり思い出話に花を咲かせたりしていた。


 小学校の時にお世話になった先生が、自分の顔を見て名前を当ててきた時はびっくりしたなぁ。当時から先生が大人気だった理由が少しだけわかった気がする。



 ⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·



 やっと開場の時間になり、おれは中学時代よく一緒のグループのような感じで話していた阿部たちと並んで座席に腰を下ろした。



(そういえば、もうすぐ式典始まる時間だけど、光弥の姿が見えないな……)



 そう思ってホールの中をキョロキョロと首を動かしていると、阿部が「誰か探してんの?」と声をかけてきた。



「いや、光弥居ないなって思ってさ」


「光弥……?」



 え……なんでそんな……誰だっけ?みたいな反応するんだよ。



「坂比良 光弥って居たじゃん。学級委員長とかやっててさ……」


「あぁ〜!懐かし!!居たなぁ坂比良!!」



 いやいや、そんな目立たない感じではなかったはずだ。



「おれほとんど蘇我たちと一緒に居たからなぁ。光弥って特定の誰かと一緒に居たことあったか?」


「知らないなぁ。てかさ、坂比良って中三の後半居た?なんか居なかったと思うんだよね。だから覚えてないんじゃないかな〜」


「そうだそうだ!確かにあいつ中三の後期居なかったんだよ!」


「なんだっけ?もう一人来てなかったやつ居なかったっけ?」


「忘れた〜」



 衝撃を受けた。


 皆そのくらいの記憶しか残ってなかったんだなって。それでも、阿部たちは自分たちに関わる部分の記憶は詳細に覚えていた。


 修学旅行の時に、杉田がこっそりゲーム持ってきたのがバレて先生に怒られていたとか、阿部が授業中に好きな女子をチラチラ見てたとか……そんな何気ないことまでちゃんと覚えているのに。



「そんな感じだと、光弥の連絡先とかって」


「知ってるわけないじゃん。持ってても話すことないし……」



 その後、阿部たちの元を離れて中学時代にあまり話すことが無かった奴らにも声を掛けたけど、その誰もが「光弥……あぁ、居たっけな。でも中三の後半から来てなくなかったっけ?」と言うばかりだった。


 どうして皆がそんなことを言うのか、それ以上に、が分からなくて、胸がモヤモヤとして、気持ち悪かった。


 けど、皆が同じように言ってるなら、おれの感覚よりも皆の方が正しいのかもしれない。


 成人式に来れば分かるはずだと思っていた光弥の情報が一切掴めないまま、時間は流れ、同窓会に参加するために阿部たちと共に電車に乗り、隣町の繁華街へと向かった。


 おれたち三年四組の同窓会の会場は、この繁華街の中ほどにある居酒屋だった。


 長いテーブルが二列並び、それぞれに対面で座る形で、担任の源先生も含めて皆でお酒を飲んだり、運ばれてくるご飯に舌鼓を打った。


 時々座席交換をしながら、コース料理は全て食べ終えて、あとは皆お酒を飲んで話をするばかりとなった。


 向こうのテーブルでは、中学時代ヤンチャグループだった男子たちと、陽キャ女子たちというカースト上位と呼ばれるような人たちが、酔った勢いのままにキスをし始めたりという有様で、源先生もこれにはすっかり呆れ果てていた。



「うわ、やば……」



 その光景を見て、木村が隣でそうボソリと呟いた。


 木村 美々花みみか


 中学時代はどちらというと地味で落ち着いている雰囲気だったけど、髪の毛も緩く巻いて化粧をしている姿を見て、正直綺麗だなって思ったし、何より女子って皆一気に大人っぽくなるよな〜なんて思ったりしていた。



「皆いるのによくああいうこと出来るよな」


「いや、そこもだけど……あの二人お互いに付き合ってる人居るんだよ」



 ぜひとも聞かなかったことにしたい。


 ただまぁ、あいつらならそういうことしちゃうよなって納得してしまう奴らではある。


 引きはするけど、驚きはそこまで大きくない。



「ところでさ、木村は光弥のこと覚えてるか?」


「光弥って……坂比良くんのこと?」


「覚えてるのか!?」



 酒が入って皆大声で話しているからか、つられておれもいつの間にか声が大きくなってしまっていたらしく、突然声を上げたおれの声に、周りに座っていた奴らも会話に混ざってきた。


 ただ、相変わらずそいつらは他の奴らと同様で、光弥のことはよく覚えていないという様子だった。


 それは木村も同じだったらしく、「ウチもよく覚えてはいないんだよね……」と小さく言った。


 けど、おれはそんな木村の様子に違和感を覚えた。


 おれが光弥の名前を出した時、そして、それが「坂比良 光弥」のことだって分かった時、あいつの目が少しだけ大きく開き、そしてすぐにおれから視線を外した。


 たぶんこいつは、何か光弥に関することを覚えてるんだ。


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