三年四組の答え合わせ

夏葉緋翠

 招待

第1話 案内状

 次期寮長を決める会議で、見事に次期寮長に選ばれてしまったことに、鬱屈とした気持ちになりながら自室に戻ってくると、同部屋の相澤が揶揄うように「お疲れ様です、次期寮長さん♪」と笑ってくる。


 それを「うるさいよ」と一蹴して溜息をついていると、相澤が「話変わるけど、それ届いとったよ」とおれの机の上を指さしていた。


 なんだろうと手に取ってみると、それは成人式の出欠を確認するための葉書のようだった。



「成人式ねぇ……」


「なに、行かんの?」


「うーん、交通費がなぁ……」


「夜行バスで行ったらええやん」


「疲れるじゃん……」



 そんな愚痴を言いながらも、おれの気持ちは既に出席の方向に傾いていた。


 成人式となれば、中学時代の同級生たちが集まることになるはずだ。



(光弥は来るかな……)



 坂比良さかひら 光弥こうや


 おれの中学時代の同じクラスの友人であり、おれのでもある。


 自分で言うのもあれだけど、中学時代のおれはいじられキャラだった。


 ヤンチャグループに目をつけられて、無茶振りをされ、どうしようもなく勢いでアニメのキャラのモノマネをやってみたら、それが幸いにもウケたようで、当分はそのキャラの声で適当に喋るだけで何とかなった。


 けれど、一度いじられキャラと認識されてしまうと、最初にいじってきたヤツだけでなく、関わったことがないそいつらの友人にまで話がいつの間にか広まっていて、誰彼構わず絡んでくるようになってしまって、学校に行くのが嫌になった時期があった。


 そんな時に助けてくれたのが光弥だった。


 自分もふざけて見せたうえで、いじってきたヤツら皆に、「蘇我にだけやらせてないで、お前らも何か面白いことやってみせろよ」と言ってくれた。


 それからはおれへの絡みもほどほどに収まって、仲の良い友人たちと過ごす時間も増えて、おれは笑って過ごせるようになった。


 それ以降も、光弥は「嫌なことはちゃんと言った方がいいぞ?」とか、「まぁ言えない気持ちもわかるけどな!その時は愚痴でも何でも話聞くわ!」とか言ってくれて、だいぶ心の支えになってくれていた。


 当時は今みたいにスマホとか、そもそも携帯自体持ってなかったから、光弥の連絡先とか知らないんだよな。


 高校もおれは隣町の高校に行ったから、中学時代のヤツらとはその時点から関係が薄くなってきてたし、行ってみるのもアリか。


 皆がどんな風に変わってるかも見てみたいし、光弥と会えればそこで連絡先交換しとけばいいしな。


 そう決めて、おれは「蘇我そが まさる」と自分の名前の印字が間違えていないかを確認し、「出席」へと〇をつけた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る