第34話
俺に気付いたリクオは躊躇しながらも手を上げて、「よ、よう……」バツが悪そうに不自然な笑顔を作った。
リクオ……、まさか助けたときに顔を見られたとか? もしそうだとしたらかなりマズいな……。
「その、朝早くからすまねえ」
「な、なんの用だ?」
すぐに追い返してやりたいが、もし正体がバレていた場合は面倒なことになりそうだから追い返すにも追い返さない。
「いや、その……、すまなかった!」
直立したリクオは深々と頭を下げた。
「は?」
頭を下げたままリクオは声を張り上げる。
「この前のこと本当に申し訳なかった。許してもらおうとは思ってない。でも訊いてほしいんだ。実はな、ホントはストコレ好きなんだ、俺……。でも上手く攻略できなくて、途中で投げ出したんだ。フヒトがストコレやってるって知った時は嬉しかったけど、自分の好きなモノに一途なお前が眩しかった反面妬ましくて……それに、あんな可愛い子と一緒に暮らしているお前が羨ましくて嫉妬していたんだ……」
懸念が杞憂となり、俺は安堵の息を吐き出していた。
「なんだそんなことかよ……もういいよ。過ぎたことだし」
俺の言葉を聞いたリクオはガバッと顔を上げる。その表情は緊張から解放された喜びと未だ燻る不安が入り混じっていた。
「そ、そうか? あ、あのさ、それで、こんなこと言える立場じゃないけど……、俺と友達になってくれるか? もっとストコレのこと教えてくれよ」
「あ、ああ……、うん、と、友達にな、なるか?」
あれ、友達ってこんな風に作るんだっけ? なんだかスゲー気恥ずかしいというかそこはかとなくこそばゆい。
「ありがとうフヒト! おお、心の友よ!」
「距離縮めるの早えぇな、おい!」
「じゃあ、またな!」
「お? おお……。なんだよ、ちょっとくらい上がっていけよ」
「いや、俺はそんな無粋な男じゃないんだぜ? ニーナちゃんとお前のラブリーなストロベリータイムを邪魔するのは良くないからな。正直俺はあのときのお前に痺れたぜ。一人の女の子を守るために『ニーナは俺のものだ!』なんてなかなか言えるセリフじゃないぞ。お前は男の中の男だぜフヒト。だから今度は俺んちに遊びに来てくれよ。そんじゃお前のニーナちゃんにヨロシク! さらば!」
サムズアップしたリクオはウインクを噛まして帰っていった。
くそ、リクオのヤツめ。思い出すだけでも恥ずかしくなることを思い出させやがって……。だいたいあれは売り言葉に買い言葉であってだな……。
「早くそんな妄言忘れて……はうっ!」
何者かが俺の後ろにピタリとくっ付いていることに今更ながら気付く。どうやらリクオは俺の後ろにいるニーナに向かってウインクしていたらしい。
「うふふふっ」
ニーナはニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んできた。
「な、なんだよ……。その顔は……」
「えー、別にー、なんでもないですよー。ただぁ、フヒト様があの時なんて言ったのかなーって思いましてー、教えてくださいよぉ、直接聴かせてくださいよぉ、耳元でウイスパーしてくださいよフヒトさまぁん」
上目遣いのニーナは猫なで声で琥珀色の瞳を瞬かせる。
「くっ……」
クソうぜえ……。
耳の先まで熱を帯びていく。それが怒りなのかトキメキなのかは考えたくもないが、一つハッキリしたことがある。
こいつ……、絶対聞こえてやがった……。
「ええいうるさい! 桜でんぶにすんぞこのポンコツ異世界人!」
「ひぃぃぃいいん! 微妙な食材なのです!」
なにはともあれ、俺はこの街、いやこの世界のヒーローになったのだ。
力ある者はそれを弱き者のために使わなければならない――なんて、そこまで殊勝な気持ちがあるわけではないけれど……、俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
あれ? そういえばニーナとロゼッタはどういう関係なんだろ? ニーナの仲間ってことでいいのかな?
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