第29話

 静かな朝の食卓は急きょ作戦会議の舞台になる。しかし悠長にはしていられない。こうしている間にも被害は拡大している。世界で唯一モンスターと闘える俺たちに求められているのは即断即決即行動だ。 


「よし、挟み撃ちにしよう」


 俺は椅子に座る各人を見回した。


「ミノタウロスと戦ったときみたいに舞子さんか志津さんに囮になってもらって誘き出す方がいいんじゃないですか?」


 いつになく真剣にニーナが意見した。俺は彼女を見て反論する。


「それは相方が無能なときしか有効じゃない。舞子は俺よりレベルが高いし攻撃力も高いから俺が敵との間にいたら有効な攻撃ができなくなる。レベルこそ低いがスペックの高い志津もそうだ。それにあれは俺が仕留められなかった場合のリスクもデカい。だから舞子と志津には全力で戦ってもらって、俺はその隙を付いてヤツに近づき仕留める」


「わ、わかった」

「……了解」

 舞子と志津が頷いた。


「さらっと無能って罵られました!」


「舞子、ヤツを足止めできる魔法とかあるか?」


「私はまだ攻撃魔法しか使えないから、中距離魔法で足止めするしかないかも」


「十分だ。二人とも近接戦で戦ってイケそうならそのまま倒してくれ。もし無理そうなら距離をとって舞子が中距離魔法の連打で足止めだ。志津はベヒモスの攻撃から舞子を守ってやってくれ。上手く足止めできたら俺が直接やる。十回目の魔法攻撃を合図にトドメを刺しにいく」


 再び舞子と志津が頷き、

「打倒ベヒモスにゃ!」

 ロゼッタが肉球を高く掲げた。


「「おおッ!」」


「おー……」

 俺、舞子、続いて志津が拳を掲げる。


「ニーナ、ロシナンテを準備しろ!」

「はい!」


 指示を受けたニーナは玄関に向かって走り出した。


「ロシナンテ?」


 そんで――。


 玄関の外ではニーナが用意していた二人の自転車を見て舞子があんぐりと口を開いた。言いたいことは良く分かる。だが今は非常事態だ。体裁や格好を気にしている場合ではない。


「これがロシナンテ?」


 若干呆れながらロシナンテを指差す舞子。


「ああ、今回は俺と舞子で漕ぐから相当な速度が出るはずだ。志津は……前のカゴに入ってくれ。さあ、行くぞ舞子、志津、変身だ!」


「変身って言わないでよ恥ずかしい」


「ニーナと吾輩は後から追うニャ!」


「頑張ってくださいフヒト様!」


 胸の前で手を握り心配そうに見つめるニーナに俺は頷いた。



◇◇◇



 ベヒモスは街を破壊しながら少しずつ西へ移動しているらしい。

 主に俺がロシナンテを駆り、自転車の前カゴに収まる志津が配信されるベヒモスの最新情報をスマホでチェックしながら街道を爆走する。


 自動車やバイクをガンガン追い越していく二人乗り自転車の姿に街の誰もが刮目していた。しかも自転車を漕ぐのは漆黒ローブを纏う死神、一躍時の人となった魔法少女、純白の衣を纏った金髪の美少女である。誰も彼も俺たちにスマホを向けていた。ハッキリ言ってしまえば完全に晒し者だろう。しかし今はそんなことを気にしてはいられない。


 スマホを確認する志津から伝えられる状況は悲惨なものだった。


 自衛隊は一個師団を投入し、銃火器や戦車で後退しながら攻撃を続けているが足止めも出来ず、もはや時間稼ぎにすらなっていない。戦車は薙ぎ払われ、戦闘機や武装ヘリコプターはことごとく撃墜され、装甲車を並べて作ったバリケードはあっけなく吹き飛ばされてしまった。


 このまま西に向かわれるのはマズい……。なぜなら、市街地を抜ければ多くの住宅が立ち並ぶ住宅地であり、その中に俺の家も含まれているからだ。


 親父が三十五年のフルローンを組んで建てた家(でも現在の所有者はニーナだけど)を、そして俺のスト娘たちが宿る俺の部屋を壊されてたまるかッ!


 俺はさらに強くペダルを踏み込んだ。




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