第22話

 正直な感想が思わず声に出ていた。


「は?」

「い、いや、なんでもない」


「ど、どうでもいいから早くあんたの正体を教えなさい!」


 ど、どうする……ここでバラすか? いや、まだだ。ここまで来たら舞子が俺の要求にギブアップしてからの方がいいだろう。ここで正体を明かしたらなんとなく負けた気がして悔しいし……。


「そのまま、女豹のポーズを取れ……」


 アホな命令に固まる舞子、さすがに悪乗りし過ぎたと思う俺。


「め、メヒョウ……。な、何言っての!? そんなこと出来るわけないじゃない! こんな服でそんなポーズ取ったらパ、パンツが見えちゃうわよ!」


 よ、よかったこの反応なら拒否するだろう……。


「ふっふっふ、出来ないと? ならば仕方ない。貴様の正体をバラして――」


「くっ、やればいいんでしょ!」

「え?」


「だからやるって言ってるのよ!」


 えええーーーーーっ! やるのぉぉおおおおっ!


 舞子は保健室の床に膝を付いて、次いで両手を付いた。いわゆる四つん這いの姿である。震える唇をキュッと噛み締め、赤面しながらこちらを睨み付いている。


 やばい、やばいぞ、マジやばい! これはすごい攻撃力だ……だが――、


「ちがーう! 真の女豹のポーズとはこうやるんだ!」


 椅子から立ち上がった俺は床に両膝と両手を付いた。そして背中をグッと逸らせてお尻を突き出し可能な限り肩を床に近づけて首を逸らせて持ち上げた。


「どうだ! こんなポーズ貴様には出来まい! ヒップをいかに欲情的に突き出すかがポイントだぞ! 発情期のメスの様にな! 上目遣いならなお良し!」


「くぅ~~~……やればいいんでしょうやればっ!」


 舞子は四つん這いの状態から背中を逸らせ可能な限りお尻を突き出した。グググッと徐々にタイトスカートが上に捲れ上がっていく。特定の角度的であれば完全に下尻が見えているだろう。

 そして遂に涙目になりながらも舞子は上目遣いで俺を見上げた。


 ウオオオオオオッ! これはすごい! な、なんという征服感! そして背徳感!  素晴らしい! ま、舞子……、ついこの前やっとブラジャーを付け始めたと思っていたらいつの間にこんな女として成長を遂げていたなんて!


「も、もういいわよね……」

 さっと立ち上がった舞子はナース服の裾を直し始めた。


「ま、まだまだ! ぱ、パンツを抜いで俺によ、よこすのだぁっ!」


 もう自分でも何を言っているのか分からなくない。もはや考えるな、ただ突き進めばいい。考えるな、感じろ!


「は、はあああああっ!?」

「くっくっく、さすがにこれは出来まい……」


 くやしそうに唇を噛みしめてしばらく逡巡していた舞子は、これ以上朱く染まらないほど赤らめた顔で、キュッと手を握り小さく頷いた。

 何度か躊躇いながらも手を後に回して、おもむろにナース服の裾の中に手を入れる。


 うえええええぇぇッェエッェッ! やるんですか!? やるんですかい!?

 マジで!? どうしちゃったんだよ舞子! お前、こんな可愛くて素直なキャラだったっけ!?  

 やばいやばいよ! これはもう後に引けない! 絶対俺の正体なんか明かせない! もう明かしたら殺される! 行くところまで行くしかない!


 俺の立位置から見えないようにガーターベルトのホックを外した舞子の腰からガーターベルトがはらりと床に落ちる。そしてパンツに親指を掛け、ゆっくりと下着を脱いでいく舞子。パンツは両の太股を通過し、遂に足首を潜った。今、正に、舞子の右手は自身のパンティーを握りしめている。その手は羞恥心と怒りで震えていた。


 プルプルと震える手を伸ばし、舞子は脱ぎたてのパンティーを俺に差し出してきた。俺は震える手でそれを受け取る。


 生温かい! しかも水色と白の横縞パンティーだとぉ! 伝説の縞パンではないか! 


 舞子の顔は沸騰するように顔全体から耳の先まで真っ赤に染まっている。

 縞パンを握りしめたまま固まる俺、思考がオーバーヒートしたまま立ち尽くす舞子。

 世界が静止したそのとき、ガラガラっと無慈悲に保健室の戸が開いた。

 沈黙を破ったのは桃色髪の少女、ニーナである。


「に――ッ!」


 俺がヤツの名前を呼ぶよりも早く、ニーナは俺の名を呼んでいた。


「もう、探しましたよフヒト様、こんなところで何やってるんですか? あれれ? 舞子さんもそんな格好で何してるんですかぁ?」


「な……、なななんあっ、なにを言ってるのかねチミは! 俺は夜剱不比人なる人物ではないぞよ!」


「えーっ? でも上履きに名前が書いてありますよ。ほら〝夜剱〟って」


「……あっ」


 アホ面で下を向く俺。上履きには確かに油性マジックで〝夜剱〟と書いてあった。間違いなく俺が書いたモノである。


 おそるおそる視線を上げると、舞子はうつむいたまま全身をふるふると震わせている。髪が逆立つような怒りのオーラが迸っていた。


「ちが! 違うぞ! 舞子! これには深い事情がっ!」

「《ローディング/セイバー》ッ!」


 詠唱と同時に舞子の髪がスカイブルーに染まり長く伸びる。一瞬でセイバーへと変貌した舞子は具現化したレイピアを抜いて振りかぶった。

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