第26話 明松カナメの初勝利

「あれ? せんこん術? が取得出来てスキルLv2に成ったみたい」

「え? せんこんって何?」

「えーと、あ! トンファーの事みたい」


 ダンジョンに入ると先に入っていた相馬さんとショートカットの女子がそんな会話をしていた。

 どうやら相馬さんは一応人間の枠に収まったようだ、両利きスキルのブーストがあるとは言え2、3日で努力と才能をクリアしている点を除けば。


「っ、はっ、え?」


 俺の隣で青葉がスゴく何かを期待した表情でトンファーを振っていた、しかし途中で気付いたのかトンファーを下ろし顔を赤らめて俺の方をチラ見してくる。


 俺は顔をそらし見てみぬふりをする事しかできなかった、神様が決めるのかダンジョン様が決めるのか知らないがラーニングの条件は相当厳しいらしい。

 正直、青葉もLv1くらい取ると思っていた。

 かける言葉が見つからない。

 俺がゴブリンに負けたとき下手に励まさなかった三池さんの気持ちが少し分かったような気がした。


「や、やっぱり左手の持ち替えがなー」


 青葉は強がりと自分への慰めを口にして壁際のキノコを叩きはじめた、俺も反対側の壁際でキノコを叩く事にする。

 

 戦闘系スキルも無く両利きでも無い俺たちに出来るのはキノコ叩きくらいだ、頑張ろう青葉いつかレベルが上がるその日まで。


「て言うか何で皆トンファー持ってんの? 流行ってんの?」


 よく考えたらトンファー両手で使える青葉の方が俺より強いよなーとか考えているとショートカットの女子が一石を投じた。


「自前でバッドとか持ってきた方がそれ借りるより安くない?」


 ショートカットの女子は相馬さんに続けて問いかける。


 別に俺が聞かれた訳じゃ無い、だけど俺は考えてしまったなぜ俺は1回500円も払ってトンファーを借りてるんだ? しかも無くしたり壊したら追加で1000円取られるのに。

 どう考えてもこのまま1円にもならないキノコ叩きだけじゃ破産だ。


 冒険者ギルドで借りれる武器で一番安くて予約が要らないからと何も考えず借りていた、昨日に関してはキノコ叩きを頑張れば賄えると思っていたけれど今日に関してはただの癖だ。


 何よりもなぜ俺は自前の武器を手に入れるという発想に至らなかったのか、冒険者なのに。


 冒険者なのに。


「んー私はスキルが両利きだし職員さんがはじめに薦めてくれた武器だし頑張ってみようかなって」


 確か三池さんがトンファー配ったの安いからだったような気が。


「せめて両手で回したかったから」


 青木の動機はしょぼかっただけど何の動機も無い俺よりずいぶんましだった。


 青木と相馬さんが俺の番だと言わんばかりにこちらに目線を向ける。


「えっと、……特になんとなく武器持ってくるって発想が無くって、へへ」


 とりあえず笑ってごまかそうとした。


「え、あ、はい、そうなんですねー」


 しかし、ショートカットの女子は俺と目を合わせない様に棒読みで応える。


「ねえカヨ、あれ誰? 何で着いてきてんの?」


 おっとー、どうやら俺は急に話に混ざって来たヤベー奴に成ったみたいだ。


「えっとー、ダイちゃんとパーティー組んでるー明松くんって人でー」


 一応相馬さんはフォローしようとしてくれているが誤情報が含まれている。

 そもそも俺は相馬さんと喋ったのは昨日が初めてだ、しかも土下座したり変な靴履かせようとしたり碌な印象は持たれて無いだろう。


「じゃあ足立の友達?」

「たしか、攻略ペースが合わないから組まないって聞いたけど?」

「え? そうだったの?」


 ショートカットの女子、青葉、相馬さんの順に俺への疑問が増えていく。

 

 確かに俺なんで着いて来たんだろう…………ああ、どら焼きの感想を青葉に伝える為か、今の空気でどら焼き美味しかったですとか言ったら本当に頭おかしいよな。


「あ、うん、俺ソロでやって行く感じなんでじゃあお邪魔しましたー」


 俺は自分でもっと上手く切り抜けられ無い物かと思いながら洞窟の奥へと早歩きで逃げる。


 俺は3人からそれなりに離れたあたりで適当にキノコを叩きだす。

 

 ブレイブソウルが羨ましいもっと自分に勇気があればと思ったが、多分勇気があると自信満々な変な奴に成るとすぐに答えが出た。


「あー畜生」


 自分のダサさに怒りを覚え一際大きく一際明るく光っているキノコに思いっきりトンファーを振り下ろす。


「フンガーーーー!!」

「うわっ、痛っ!?」


 そのキノコが飛び出して俺の眼前に迫った瞬間俺は確かにキノコの傘をよけた、しかしそのキノコには柄の部分左右にさらにキノコが生えていて右側の部分が俺の鼻を打ち抜いた。


 俺は思わず鼻を押さえうつむいた。

 次は下から顎に衝撃が走り仰向けに倒れた。


 揺れる視界で胸のあたりに乗っかて来たキノコを見て、派手なキノコに触るなダッシュファンガスより危ないと三池さんが言っていたことを思い出したのは、キノコにマウントポジションからのパウンドを2発くらった時だった。


「キノコにまで負けられるかーーーー!!」


 左右のキノコで殴られる痛みより、胸を潰すキノコのイメージを超える重さより、これ以上ダサい感じに成りたくないという恥と意地が俺に力を与えた。


 ブリッジの要領でキノコをひっくり返し、そのままマウントを取り返し仕返しの様に右手で鉄槌を繰り返す。


 キノコは俺にのしかかっていた時に感じた程は大きくなく、ゴブリンと似たようなサイズだった。


 いまいち打撃が効かない事とゴブリンとの共通点にいらだち、俺はもっとダメージを与えようと落としてしまったトンファーを探す。

 

 手の届く範囲に落ちていたトンファーに手を伸ばした時から左の反撃をくらう。

 体重も回転も乗ってない苦し紛れの一撃、しかしその一撃が俺をぶち切れさせた。


 俺は怒りのまま左のキノコを引きちぎる、キノコにしては丈夫な感触でもたやすくちぎれる事を覚えた俺はキノコの柄の真ん中に両手の親指を突き刺す。


「びぎゃああああーーーー!!」


 ダッシュファンガスの悲鳴を野太くした様な断末魔をあげるキノコを俺は力の限り引き裂いた。


 俺は立ち上がり二股に裂けたキノコを執拗に踏みつける。


『明松 カナメはレベルが1上がりました』


 俺が息を荒げキノコが青い光の塵に成った時、ダンジョンアナウンスが聞こえた。

 だが俺が勝ったと自覚したのはドロップアイテムの小さなキノコを踏みつけかけた時だった。


「勝ったぞーーーー!!」


 俺は思わず勝利の雄叫びを上げる。


 一人だと思ってたから。


「あ、ゴブリンに負けてた人か」


 何時の間にかそばに来ていた、青葉と相馬さんを引き連れたショートカットの女子が俺のガッツポーズに見覚えがあったのか嫌な思い出し方をされた。

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