第25話 相馬さんたらトンファーマスター

 別にモテたい訳じゃ無い。

 モテたい訳じゃ無いが御詫びでいただいた物でもあんな美味いどら焼きをもらったら感想と礼を言うのが礼儀と言う奴だ。

 それに、結果的にパクってしまったドロップアイテムの御詫びに自分が食べて美味かった物を贈る自然な流れじゃ無いか。


 決して神に誓ってモテたいなんて下心は無いが姉ちゃんの提案を頭の片隅において俺は緑守ダンジョンに向かった。


 しかし人生とはままならない物で。


「あっ、明松くんこんにちは」

「明松くんもキノコ叩き?」


 姉ちゃんの作戦だとまず青葉に会ってから相馬さんに会わなければ成立しない、ましてや2人同時に遭遇すると俺のキャパを超える。


「う、うーんそのつもりー2人は……練習?」


 まさかダンジョンの入り口横で二人してトンファーの練習をしているとは思わなかった。


「うん、チーちゃんスゴいんだよもうコツ掴んじゃった」

「そう? でもまだ左手の持ち替えがスムーズに行かなくて」


 どうやら相馬さんが青葉に教えているらしい、青葉は褒められると謙遜しながらドヤ顔で舞う。

 どれくらい練習したかは知らないが、青葉の動きから日曜日に見た拙さは消え流れるような美しい舞に昇華していた。


「完全に離して持ち直すんじゃ無くて指を滑らせるイメージだよー」


 相馬さんはまるで数学の公式を教えるかの如く自然体でアドバイスをする、その間もトンファーを止めない。

 時に打つように時に刺すように、鎌の要領で引っ掛けたと思うと足払いも交え、確実にダメージを与える攻撃の中に巧妙なフェイントを交えている。

 その全てに、気取った華やかさは無く、力んだ力強さも無く、傷つける事への躊躇も無く、あまりにも自然体だった。


 自然体のまま、おそらく想定の敵にとどめを刺していた。


 学校指定のジャージを着た小動物系文学少女が、カンフー映画のアクションスターより功夫を積んでいる。


「相馬さん達人みたいだね」


 正直他に言葉が見あたら無かった。


「えー、そんな事無いよー、両利きのおかげで振りやすいけど動画の真似っこしてるだけだもん」


 多分その動画に映ってる人は相馬さんの武を目の当たりにしたら教えを乞うだろう。


「う、ううん、う、うん?」


 相馬さんが照れながら次の想定の敵多分複数人を相手に立ち回りはじめた頃、不自然な咳払いが聞こえた。

 そちらを見ると青葉が派手に舞っていた時折ハイキックなんかも交えてド派手に。


「いやー青葉もスゴい、アクションスターみたいだ」


 同じ褒め方をするには功夫の差が開きすぎている、だが青葉はムフーと満足そうに笑顔になった。


 それにしても相馬さんの動きは凄いスキルで両利きに成ったとかでは説明の出来ないセンスを感じる。


「あっ! クレアちゃんこっちこっちー!」


 相馬さんは、ほんの数秒前までおそらく三人の敵を想定して戦っていたが突如動きを止めてダンジョンの入り口の方に手を振った。


 そちらに目線を移すと相馬さんと同じジャージを着たショートカットの女子が背中を丸めてダンジョンに入ろうとしていた。


「どーしたのー外で待ち合わせだよー」

「おいいいいー!! そんなに注目を集めて私を呼ぶなあああ!!」


 なんか見覚えのあるショートカット女子は凄い勢いで相馬さんの元に走ってきて周りを指さし吠えるようにそういった。

 つられるように周りを見渡すと俺より後ろに見物客で人だかりが出来ていた。


 まあ人通りの多いところでトンファー振り回してたらこうなるわな。

 

 しかしまあ周りにいる人間は皆冒険者なわけで、奇人変人を見る目と言うよりは皆素直に感心した様子だ。

「旋棍術Lv3って所か」と若い冒険者が言えば「いや、それにしてはあまりにも嫌味が無い自然体、信じたくは無いがあの娘にとっては出来て当たり前の事なのだろう」とか熟練っぽい冒険者が言う。


 武器系スキルのLv3といえば人間の壁と表現される事の多い一種の到達点だ。

 実際Lv4からは斬撃を飛ばしたりするわけだから当たり前といえば当たり前な話だが、度々Lv3が壁と言う表現に異論が挟まる、Lv1は努力で追いつける、Lv2は努力と才能でたどり着ける、Lv3に並ぶならそいつはもう人間じゃ無い、どこかの特殊部隊のナイフコンバットの達人スペシャリストが言ったそんな言葉がネットでしょっちゅう引用されるほどに。


「早く中入るよもー恥ずかしー」


 ショートカットの少女は相馬さんの手を取って足早にダンジョンに向かう。


 ついて行く必要は無いのだが俺もなんだか居心地が悪いのでダンジョンに向かうと、青葉が横並びに近づいてきて。


「聞いた? Lv3くらい凄いって」


 と俺にうれしそうに耳打ちする。

 真実を告げる勇気が無かった俺は愛想笑いを返す。

 俺はどうやらもっと功夫を積むべきなようだ。


 



 

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