第24話 黒糖の香る生地と甘すぎないあんこの上品な味わい

 まあ一食抜いただけで死ぬなら人類はダンジョンが出来る前に滅んでいる訳で、いくら食べ盛りでもせいぜい腹が鳴るくらいで、他の昼飯にありつけたクラスメイト達が5時間目の古文でうつらうつらしてるのがやたら気になるくらいだ。


 だけど眠気が無いからと言って大昔の文章が理解出来るかと言えばまた別の話、正直高校に上がってから急に理解出来ない授業がちらほら出てきた。

 て言うかノートの取り方を指定してきてそこで個性を出してくる教師の授業について行けそうに無い。


 だが、ノートを取る手を止める訳でも無く理解するために集中する訳でもなく授業をやり過ごし、そして普通に次の休み時間に弁当をかきこんで眠たい6時間目を過ごす。


 授業の終わり頃にはもう夢か現か解らなくなって居たが授業が終わった瞬間意識が覚醒する、もう今日は家に帰って寝るしかないダンジョンに行けないと思っていたがさっきまでの眠気を思い出せないくらい目が覚めて身体の調子が良い。


 そして迎えた放課後。


 駅に向かう俺と高林に自転車を押しながら付いてくる足立と益体の無い雑談をかわす。


「えー、じゃあしばらく高林はバイトで明松はキノコ叩きかよ」

「うーんまあ弓とか良いの買いたいし矢とかも消耗品らしいから」

「えー、てか明松は? キノコ叩きってずっとするもんじゃねーだろ?」

「ずっとする気はねーよ、レベル上がるまでだ」

「何? 明松スキル外れだったん?」

「ちげーよ、むしろアタリの部類だ戦闘系じゃ無いだけで」

「戦闘系以外でアタリってあるのか?」


 戦闘系以外全部ハズレだと思っている幼稚な足立を笑ってやりたいが、昨日まで俺も同じような認識だし下手な事は言えない。


「明松は生産系だよ、装備とか作れる奴」


 俺がいかに自分のスキルについて明言を避けつつハズレでは無い事を証明しようか悩んでいると高林があっさりバラした。


 めんどくせー、足立の奴、絶対装備たかってきそう。


「へー、生産系ってラーニング難いらしいしな、まあアタリか」


 俺の内心とは裏腹に足立は興味なさそうだった。


「まあ自分で作った方が節約になりそうじゃん」


 そういえばこいつダンジョン産の武器のサブスク申し込めるくらいボンボンだった。


 俺の想像よりは足立の人格は真面で俺の心に虚しい風が吹く。


「あ、じゃあ俺ん家あっちだから、また明日ー」


 足立とは駅と学校の真ん中辺りで解散して高林とは駅の上りと下りで分かれた。



 「ただいまー」

 「おかえりー」

 

 家に帰ると姉ちゃんが先に帰ってきており部屋着でソファーの上でくつろいでいた。

 

「姉ちゃん今日早くない?」

「大学生ってこんなもんよ、ん? 何その箱」


 姉ちゃんは俺が手に持つ菓子折を指差し首をかしげた、どうやらどんな立派な菓子折でもコンビニ袋でパッツパツに成ると何か解らないらしい。


「あー、青葉が昨日殴ってごめん的な、御詫び、って書いてある」

「菓子折か何か?」

「どら焼きだって、何か青葉の家がやってる店の奴らしい」


 俺が喋りながら菓子折の箱をソファー前のローテーブルに置くと姉ちゃんは当然のように包み紙を綺麗に剥がしだした、昔から俺の家は包み紙を綺麗に置いておく風習があるがその包み紙を使っている所を見たことがない。


「あおば堂……かなり老舗ねこのどら焼き結構良い値段するみたい」


 姉ちゃんは包みを開けるや否やスマホで色々検索しだした。


「姉ちゃん、いきなりもらい物の値段調べるなよ」

「あんたねえ、もらった物は値段調べておけば次何か返すときの目安になるでしょ」


 次があるのかと首をかしげていると姉ちゃんは俺にどら焼きを1つ差し出した。


「青葉さんも同じダンジョン潜ってるんでしょ、食べて行って味の感想伝える感じで話しかけなさい」

「感想?」

「そう、それで相馬さんだっけ? その娘にも昨日のやらかしの分のお詫びしたいから何所で買えるかって青葉さんに聞きなさい」


 姉ちゃんはどら焼きを一つかじりながらにやりと笑う。


「そしたら青葉さんと気まずさを薄める事が出来て、相馬さんとも疎遠にならずにすむでしょ、2人ともあんたの口ぶりからして美人さんみたいだし逃す手は無いわ」


 姉ちゃんの前で一度も2人の外見について言及した事は無いのだが、姉ちゃんは何かを察知したようだ。


 俺は別にモテたいわけじゃ無い相馬さんに関しては尊敬の対象だ。


 そう啖呵を切ろうとした時、気付けば俺はどら焼きにかじり付いていた。


 

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