第22話 発動、ブレイブソウル

 俺の失敗は、句点を使う時って怒ってるよな? とか馬鹿な事を二人に聞いてしまった事だ。


「くてん?」

「ほら、文章の最後につける丸」

「ああ、句読点、な。つける奴はつけるだろ」

 

 なんか間違っては無いのに間違えてる足立は無視する。


「文章によるだろ」

「昼休み昨日のバルコニーで待ってます、で丸」

「…………青葉さんから?」


 正直、高林に聞いたのが一番の失敗だったと思う。


「なあ高林、良いじゃねえかそっとしといてやれ」

 

 高林の目が虚無に飲まれていくその時まさかの足立から――


「どうせ、フラれるんだから、カッカッカッ」


 ――腹立つ勘違いと腹立つ高笑いが出た。


「いや、告白とかしてねーから! こら高林ガッツポーズすんな! 仮に告白の返事でも結果まだ出てねーだろうが!」

「なあ明松ー、告白って一発逆転の博打じゃねーんだぜ?」

「知った口聞くな、このギャンブラーが!」


「ウ、ウンッ!」


 突然聞こえたおっさんの咳払いに俺たちは一瞬ビクリとなる。


「あ、おはようございまーす」


 担任の体育教師がすごく不機嫌そうに俺の真横に立っていた。


「あんま出入り口で騒ぐな」

「あ、はい、すいません」

「席着けよ」


 担任は疲れた感じでそう言うと教卓に立ち腕時計を眺める。


 俺と高林はそそくさと自分の席に向かう。


「はいーじゃあ出席を取りますー」


 今日は誰も遅刻することなく出席を取った後つつがなくホームルームが始まった。




「なあ明松、絶対弁当食うより先に行くべきだと思うわ」


 昼休み、昨日と同じように高林と机を合わせ足立がやって来た時高林は意を決した様子でそう言った。

 

「……、やっぱ行かなきゃ駄目だよな、はー行きたくねー」

「潔くフラれて来いよ」

「だーかーら、告白してねえって」

「告ってもないのにフラれるパターンか」


 足立にダル絡みされるより青葉にもう一度殴られた方がマシだと気付いた俺は弁当をスクールバッグに仕舞い席を立った。


 しっかしまあ実際、もう一度殴られる事は無いだろう。

 昨日俺が帰ってからどうなったかは知らないが青葉の家にも電話くらいあっただろう、むしろもう一回謝られるとかそんなのに違いない。


 すまし顔でクールに謝る青葉を想像しながら昨日のバルコニーに向かうと、バルコニーの出入り口で菓子折のような物を持った青葉がキョロキョロ辺りを見渡していた。


「あ!」


 青葉は俺を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。


「良かった、来ないかと思った……」


 青葉は安心したように明るく喋っていたが途中で表情が曇り出す。

 俺はそこでメッセージの返信を忘れていたのを思い出した。


「あの! その、昨日は急に暴力振るってごめんなさい」


 あげくその後開き直ちゃって、と続く青葉の謝罪の言葉にはクールさや力強さという物は感じられず、ただただ湿っぽく弱々しい物だった。


「い、いや大丈夫だから、昨日は俺も勘違いされる感じだったし疲れてたから転けただけで怪我もしてないから」


 俺は出来るだけ早く謝罪に答えなければと思い言い訳のように言葉を並べる。


「グスッ、あのこれ家のお店のどら焼き」


 青葉がギリギリ涙をこらえ差し出した菓子折のような物は本当に菓子折だった。


「あ、ありがとう、いやー嬉しいめっちゃ嬉しい」


 俺は菓子折を差しだした青葉の右手に施されているテーピングを見つけあまりに痛々しく感じて受け取りながら過剰に喜んでみせる。


「て言うかあのー、手大丈夫?」

 

 俺が心配しても何も出来ないが聞かずに居られない。


「あ、あのごめんなさい、ウウごめんなさい――」


 青葉は手を後ろに隠してさらに謝り、涙を流してさらに謝る。


「ごめんごめんごめん、あの皮肉とかじゃなくて本当に心配で、……って言うか昨日と違いすぎるってー」


 周りのを行く生徒達の目が痛い、俺は何を弁解したら良いか解らなくなって最後の方はぼやいてしまった。


「ヒッグッ、昨日、は、スキル、ヒッヒ、使ってた、から、気が大きくなってあんなことを」


 そこそこ本格的に泣き出しそうな青葉にもはやどうしていいか解らない。

 学校で泣くのが、強いスキルに振りまわされた末路だと思うと大けがしたり死んでしまうより可愛く感じるがこのままでは俺が社会的に死んでしまう。


「あの、いったん落ち着こうぜ、スキル使えば落ち着くなら使ってさ」

「でも、また私調子に乗るから」

「でも、このままじゃ、な?」

「……うん」


 青葉は少し息を整え、ブレイブソウルと小さくつぶやいた。

 すると途端に青葉の目は碧く輝きさっきまでメソメソしていた目に力が宿る。


「取り乱してごめんなさい」


 背筋が伸び堂々とした様子のすまし顔、俺が初め予想していた青葉の姿だった。


「いやーすげースキルだな」


 俺は安心して素直な感想をつぶやいた。


「ええ、ブレイブソウルは私の心に勇気と自信をくれるの」


 青葉はクールに力強くそう言った。


「え? それだけ?」


 俺は思わず口を滑らせた。

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