第3章 じんわり動き出す3日目

第21話 ガッカリだけが人生さ

 冒険者、明松カナメの朝は今日は遅い。

 いつも通りスマホは朝5時に震えだして一応目は覚めた、眠気覚ましにスマホをいじりだして脳ももう覚醒している。


 しかし。


「学校行きたくねー」


 そんな思いが俺をベッドに縛り付ける。

 

 もし昨日の事が学校で噂になっていたらどうしよう、あの時は気にしなかったがロビーには結構人が居た同じ学校の奴もいたかもしれない。


「変な靴履かせフェチ」


 そんなキャラになったらまずいじめられるだろう、良くて虐げられるイジられキャラだ下手すりゃ誰も関わらないんじゃないか?


 だがどうにも出来ない。


「カナメー、洗面所空いたぞーそろそろ起きろー」


 ドアがノックされ父さんの声が響いてくる。


「んー今起きるー」


 どれ程憂鬱な朝でもいつか人は起きなければならないし、学校には基本行った方がいい、そう言う常識と言う奴が俺の中に深く根付いている事をこう言う時に思い知らされる。


 制服に着替え歯を磨き食卓に座る。


「おはよう」


「おはよ」

「おはよー」

「おはよう、カナメ、サンドイッチ? プロテイン?」

「あーサンドイッチで」


 プロテインは毎日接種した方が良いのは頭では理解しているがどうにも今日はそんな気になれない。


 サンドイッチを待ってる間、姉ちゃんがスマホをいじりながらしゃべり出す。


「ねえ、カナメ残念なお知らせと、虚しいお知らせと、どーでも良いお知らせがあるんだけどどれから聞きたい?」

「良いお知らせは?」

「ない、まあ残念なお知らせから、端的に言うとあんたの作った装備だけどえーとスキル付与以外ザコみたい」

「ん? そりゃあ一番弱いモンスターの奴だから」

「まあ、あんたの作った装備はネットに乗ってなかったから何ともいえないけど、防具作成のスキル持ちが作れる一番低コストな靴系の装備品でAGI+10以上みたい」

「……まあ生産系って幅狭い方が良いの作れるって言うし、それはしゃーないって」

「じゃあ虚しいお知らせ、世の中って広いのねスキルオーブがあれば装備にスキルを付与出来るスキルを持ってる子供がアメリカに居て荒稼ぎしてるみたい」

「え? 夢あるじゃん、荒稼ぎの部分が特に」

「あんたの作る装備は性能が低くて、好きなスキルを付与出来る訳じゃなくて、見た目がダサい」

「……完全下位互換?」

「完全下位互換、まあもうどーでもいい話だけど装備品を売ろうと思えば冒険者組合か大手の企業からの鑑定証明が必要みたい一件最低数十万円、で逃走のスキルオーブの値段が最高取引額5万6000円、普通に逃げまわってたらラーニングで手に入るから……、まあ昨日は楽しい夢見れたでしょあんたは日本の平均年収を目指しなさい」


 サンドイッチが出来るまでの間に現実にしばき倒された。


「いただきます…………、あー学校行きたくねー」


 黙って朝食を食べようと思ったが、ここの所の色んな物が凝縮された学校行きたくねーが飛び出した。


「関係ないでしょそれとこれとは」

「姉ちゃんがテンション下がる事言うからー」

「あのね、私だって昨日寝る前もっとガッカリしたのふて寝するぐらい」

「こっちは朝だぞ、ふて寝も出来ず学校だよ」


 俺と姉ちゃんが言い合っていると父さんが靴下を穿きながら口を開く。


「カナメ、大人になると毎朝もっとテンション下がるぞ」

 

 父さんは立ちあがり行ってきますとつぶやいた。


「おいおいおい、嫌な事だけ言って行くなよ!」


 俺は思わず立ちあがる。


「いやーいい感じの事言おうと思ったけど何も思いつかなかった」


 父さんはヘラヘラしながら頭を掻く。

 

「お父さん、何か悩みでもあるの?」

「いや、まあいつもいつも昨日の酒で朝しんどいけどそれ言うとバカみたいだし」


 母さんは心配して質問したが答えを聞いた瞬間興味をなくしていた。


「まあ、カナメ人生って多分きっと真面目にやってればどん底に行く確率下がるからがんばんなさい、行ってきます」

 

 姉ちゃんはエールにも成らないエールを残し大学に向かう、俺も早く学校に行くためにサンドイッチを食べることにした。

 父さんはしばらくヘラヘラした後、寂しそうに会社に向かう。


 


 昨日より遅く登校して教室に着くといきなり足立に呼び止められた。


「明松ー、連絡先教えてー」


 なぜか足立はすごくフレンドリーな内容を苦虫を噛み潰したような顔で言ってくる。


「ちょっと待ってくれ適当に捨てアカ作るから」

「最底辺の連絡窓口、それならいっそ断ってやれよ」


 とっさの機転で切り抜けようとした所で高林が横からツッコんでくる。


「別に俺は知りたくねーけど、カヤに聞いてくれって頼まれたんだ早く教えろ」

「カヤ?」

「あーほら相馬のこと」

「あっ相馬さんか先言えよ、まず電話番号が――」

「チャットのQRコードで良いだろ」


 俺がチャットアプリのQRコードを表示すると足立は写真を撮り相馬さんに送った、どうやら本当に足立は俺の連絡先に興味がないらしい。


「俺も登録して良い?」

「うん」

「てかさ、なんで足立はそんな怒ってんの?」


 俺のQRコードを読み取った後、流れるように足立に自分のQRコードを差し出した高林は質問する。

 

「……青葉さんが明松の連絡先知りたいんだってよ」

「「は?」」


 その時俺のスマホから通知音がなった。


 青葉チカゲ

 昼休み昨日のバルコニーで待ってます。


 ロック画面にはそんなメッセージが届いていた。






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