第20話 身内からの評価

「いやあ、もはやチートじゃんスキル付与してある装備作れるとか勝った勝ちました」


 俺はさっきまで捨てようと思っていた愛しい装備品達を抱き締めながら小躍りしていた。


「あんたねえ浮かれてる場合じゃないでしょ、素材の仕入れルート確保したり、量産体制を整えたり、起業して法人化する準備とか色々することあるでしょ」


 厳しく現実的な事を言っているようで大分夢がある、姉ちゃんも相当浮かれているようだ。

 競合他社が居ないか調べると言って姉ちゃんはスマホをいじりだし。


「て言うか武装作成ってスキルで検索しても何も出てこないしあんたしか持ってないんじゃないの!?」

「マジで!?」

「もーちゃんと先に調べなさいよーあんたって子はー」

「調べる調べる、今から調べまーす」

「スキル付与された装備って基本オークション扱いで宝箱かボスのレアドロップからの入手ってもー」


 姉弟そろってこれからの明るい未来に思いをはせ、ハイテンションでポジティブな情報ばかりを集めまくった。

 そして俺がダンジョン産の高級武器や戦闘系スキルオーブの値段を調べていた時、俺のスマホに知らない番号から電話がかかってきた。


「はいー、もしもし」

「こんな時間にすいません、わたくし、冒険者組合緑守支部の三池と申します、明松さんの携帯でまちがいないでしょうか」


 電話の相手はまさかの三池さん。


「あっ、はい明松カナメですけど……」


 突然のギルド職員からのかしこまった電話に俺は出た事をちょっと後悔した。


「すいません明松さん、ちょっといま今日の事が問題になってまして」

「え!? あっ!? すいませんでした!!」

「はい?」


 俺が相馬さんの分のダッシュファンガスの素材を結果的に盗んだ事についてギルドに通報されたと思った俺はパニクってなぜか三池さんに謝っていた。


 思い返せば結局俺は何も返さず逃げ出した、もはや四捨五入せずとも犯罪者だ。


「あの、本当に悪気があった訳じゃなく――」

「明松さん、明松さん、すいません何で殴られた明松さんが謝罪を?」

「――へ?」

「あのまず、今日の夕方ダンジョンのロビーで明松さんが青葉チカゲさんに殴られた、という事はまちがいないですか?」

「え、あ、はい一応。え!? 相馬さんの話じゃないんですか?」

「相馬さん、……はその時現場にいた方ですよね相馬さんが何か?」

「いや、あのそのぉ――」


 俺は今日の自分のやらかしを出来るだけ端折らず説明した。


「それで、いたたまれなくなって帰っただけで本当に盗むつもりはなかったんです」

「……、あのー冒険者同士のダンジョン内でのそう言ったトラブルは個人間で解決していただくしか」

「……? え? じゃあ何で電話を?」

「いや、ですから明松さんは殴られたんですよね?」

「はい、一発だけ」

「えーと、単刀直入に聞きますがその件について警察に被害届を出されたり法的処置をとるつもりはありますか? 一応ダンジョンの外で起こった事で監視カメラにも移っていますが」

「えー? いや、無いです無いです、謝って貰ったし、あの、こっちがそういう勘違いされるような状態だったわけですし」

「ふぅ……、あーはいわかりましたじゃあ今回は穏便にと言う形で」

「はい、じゃあえーとよろしくお願いします」

「はい、では失礼します」

「失礼します、はい」


 俺は電話が切れるのを確認して大きなため息をはいた。


「ふうー、あー緊張した大人と電話すんの、なあなあ姉ちゃん今ちゃんと敬語使えてたよな、ってなんで怒ってんの?」


 なぜかいつも父さんが家で仕事の電話をするときのように部屋の隅に移動していた俺が振り返ると、姉ちゃんはかなり不機嫌そうにこちらを睨んでいた。 


「カナメ、あんた殴られたの?」

「え、うん」

「何処の誰に?」

「同じ学校の特進クラスの青葉って言う――」

「ちゃんと殴り返した?」

「――いや無い無い無い、え? ちゃんとの意味がわからん」

「何、あんたなんか脅されてんの? いじめ?」

「そう言うのじゃ無いって」

「…………じゃあ、何で殴られたかちゃんと細かく話してみて」

「え? 細かくって言っても、こう相馬さんにこの靴を渡そうとして」


 俺は自分の履いているダッシュファンガスプレーヌを指さしながらあまり思い出したくない1,2時間前の出来事を思い出す。


「受け取りを拒否られて、いや受け取ってくれ的な事やってたら、こうガツンと」


 思い出しても俺の印象としてはこんな感じだ。


「そんでー、えーとこの変態がみたいな事言われてー、相馬さんが間に入って説明してくれてー、で一応勘違いで殴ってごめん的な」

「あんたそれで許したの?」

「謝られたしなー、まあその後、四捨五入で犯罪者って言われたのはびっくりしたけど」

「青葉って奴全然反省してないじゃない、ちょっと今から病院行って診断書もらいにいくよ」

「いやいやいやいや、あれだよ、四捨五入で犯罪者って思ってるよりポップな言い方だったよ」

「いいカナメ、相手がやったことは立派な傷害罪、あんたは暴力振るわれた被害者」


 傷害罪、この単語で俺はなぜ電話が掛かってきて姉ちゃんが怒ってるかをやっと理解した。

 あーそっか普通人殴ったら結構な事件か、普段姉ちゃんに間接決められたり地獄突きされたりがざらだからあんま深く考えて無かった。


 逆に姉ちゃんよくここまで怒れるな自分の事棚に上げて。


「いや、でもこれで訴えるとかダサいって」

「いーや、ちゃんと学校でも問題にして青葉には罰を与えないと退学レベルの」

「やめてくれよ、青葉可哀想じゃん」

「何処が? あんたねえ女の前で態々暴力振るうような短絡的な男は――」

「青葉は女子だけど」

「――……は?」


 どうにもテンションが合わないと思ったら姉ちゃんは勘違いしていたらしい。


「んーー、もう一回もっと細かく説明して」


 姉ちゃんはこめかみに指を当てながらそう言った。


「えーと、この靴を受け取り拒否されて」

「相馬さんはどんな感じで拒否してた?」

「ああー、大分引いてたなんか先に作った盾が嫌だったみたいな流れで後ずさりしてて」

「あんたはどんな感じちょっと再現して」

「こうなんて言うか靴作るのにすごい体力持ってかれてゼイゼイ言いながらこう」

「相馬さんって小柄な方?」

「うん結構小さい」


「要するに、カナメはハアハア言いながら変な靴を小柄な女の子に渡そうとしてたら、青葉さんが横から殴ってきたのね?」


 客観的に言われるとやっぱり俺が変質者だよなと思いながらうなずく。


「あんた、四捨五入で犯罪者じゃない」

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