第18話 初めての武装作成

 土下座って親しい人間にやるから謝罪として意味があるのだと知った高一の春を俺は生涯忘れないだろう。


「ほんとイキがってすいませんでした、盗もうとかそう言うつもりは無かったんです」

「うん、わかってるよ親切で言ってくれたんだもんね怒ってないから大丈夫だよ」


 俺の土下座のせいで空気が地獄と化した小部屋から出て俺がもう一度、相馬さんに頭を下げると相馬さんは何時の間にか完全に敬語がとれて幼児に接するような穏やかな声に成っていた。


「でも、もう土下座はやめようね、ね?」


 優しい口調で念押しされた。


「はい、もう二度としません」


 何時の間にか俺の口から敬語しか出なくなっていた。


「あのすいません、今から言うドロップアイテムの買い取り価格教えて貰えますか? ちゃんと弁償したいんで」

「え!? いいよそこまでしなくて」

「お嬢さん、こう言う時は弁償させてあげてけじめがつくから」


 俺の申し出を相馬さんが断ろうとしたとき職員さんが助け船を出してくれた。


「いっぺんには返せなくてもちゃんと返させてください」


 俺がもう一度頭を下げると相馬さんは渋々うなずいた。


「じゃあまず数の多い順に行きましょうか」

「はい! まずダッシュファンガスの――」

「あ、ダッシュファンガスの素材は引き取りはしてるけど買い取りはしてないのよ」

「「え?」」


 他のは? と聞いてくる職員さんを前に固まる俺、何か察する職員さん。


「あーあの、ちょうど良かったね」


 相馬さんはすぐフォローに入ろうとする。


「キノコ叩きで手に入るし作れる物限られるからどうしても需要がね」

  

 職員さんも理由を説明して場の空気をどうにかしようとした、しかし俺はそこで最善策にたどり着いた。


「じゃあ、相馬さんの分の素材で装備作ってそれをお返しします」


 俺は自分のスキルの真価を思い出し武装作成を発動して作成を押す。


 ファンガスシールド ファンガス系の傘+ファンガス系の粘菌×2

 ファンガスハット ファンガス系の傘+ファンガス系の柄

 ダッシュファンガスプレーヌ ダッシュファンガスの傘×2+ダッシュファンガスの石突き×10+ダッシュファンガスの幼菌×2

 ファンガスハンマー ファンガス系の傘+ファンガス系の柄+ファンガス系の石突き×2+???


「よっしゃ、盾と帽子とプレーヌ? って奴作れます」

「ああ、じゃあ、うん、お願い」

「じゃあまず盾で」


 ファンガスシールドを押すと『作成しますか? はい/いいえ』と出たので俺は迷うことなくはいを押すすると『手動/自動』の2つの選択肢が出た。

 どうやら手動は頭に設計図が浮かび自力で作る分時間が掛かり、自動は魔力や体力を消費して完成品が出てくるようだ。

 ここで時間をかけて手作りするほど強いメンタルは持ってないので速やかに自動を選択。


 すると画面からキノコの傘とあまり触りたく無かったが頑張って回収した光るベタベタが出てくると空中で青い光の粒に成り混ざり合う、そのとき少しクラッときた。

 まだレベルアップしていないから体力を持って行かれたんだろう少し呼吸が大きく成る程度に体が疲れる。


「きれい…………え?うわぁ」


 相馬さんは青い光の粒が舞う姿に感嘆をこぼした。

 しかし光の粒がだんだん一塊になり、なんかベタベタのついたキノコの傘に成ったころちょっと引いてた。


 ベチャっと言う音を立てて多分ファンガスシールドであろう物体がリノリウムの床に落ちる。

 勇気を出して拾ってみると幸い床は汚れていなかった。

 

 チラリと相馬さんを見るが目をそらされた。


「次、帽子作ります」

「ええ!?」


 相馬さんは驚いていたが、俺だって引くに引けない。


 ファンガスハットを自動で作るとまたちょっと疲れた。


 そして出来たのは多分顔が入るように柄の部分をくりぬかれたでかいキノコ。


 パーティーグッズみたい。


「次プレーヌ、今度こそ」

「…………」


 もう相馬さんは諦めた表情してるし職員さんは買い取りカウンターの向こうに帰ってる、正直俺も帰りたいけどまだ終われない。


 プレーヌ、はい、自動、今までで一番多く素材を消費するだけあって光の粒の量が段違いだ。


「いける」


 俺は何か確信めいた物を感じてそうつぶやいたしかし次の瞬間、目の前が一瞬真っ暗になり膝をつく。

 体中に鉛を巻き付けたような不自由さと肺が焼けるような熱しか知覚出来なくなる。

 死にそうになりながらも俺は完成したダッシュファンガスプレーヌに手を伸ばす。


 命を削るような体力を消費して出来たのは……ダサい靴だった。


 プレーヌって靴だったんだ。


 形としてはピエロが履くようなつま先が長く反り返った靴で、色は青い蛍光色に継ぎ目が白い線として入って模様みたいに成っている。

 まずこの時点で普段使い出来る要素は無いがつま先のてっぺんに小さいキノコがぴょこんとついていてより一層履くのに勇気を要求してくる。


「はぁはぁ、あの、一応出来ました」

「ヒッ」


 もはや相馬さんは小さな悲鳴を上げて後ずさった。


「多分、この靴は、強いから、靴だけでも、ほら、お願い、します」

「いや、ちょっと、それは」

「頼みますよ、今の俺のスキル、じゃ、キモいのと、パーティーグッズとダサいのしか作れないんすよ」 

「そんな事言われても」


 ベタベタの盾や明らかにおかしなかぶり物を受け取れとは言わない、でも死ぬほど疲れて作った靴は受け取ってほしい。


「一回、一回履くだけで、ぶべら」


 死ぬほどダサい靴を手に相馬さんににじりよると横から頬をグーで殴られた。


「見損なったこの変態」


 殴り飛ばされながら聞こえたのは吐き捨てるような罵倒で、床に倒れながら見たのは軽蔑しきった青葉チカゲの碧く光る冷たい眼差しだった。




 


 



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