第17話 カツジ兄ちゃんもこれよくやってたな。

 一体前世でどんな徳を積めば優しくてしっかり者の幼馴染みが朝迎えに来てくれるなんて甘酸っぱい贅沢が許されるんだ?

 

 なあ神様よ、別に俺にそんな甘酸っぱい奇跡を与えろなんて言わねえでも与える奴は選ぶべきだ。

 なぜに足立だ? おい神様答えろ! 

 なぜ俺の優しくてしっかり者の幼馴染みは男で3つ上でさらに今年から浪人生なんだ!? あげくなぜそのカツジ兄ちゃんの同い年で隣に住んでる異性の幼馴染みが姉ちゃんなんだ!? 渋すぎる! しょっぱすぎる!


 カツジ兄ちゃん可哀想だろ!!

 俺の一番古い記憶のカツジ兄ちゃん俺の姉ちゃんにボストンクラブかけられて泣いてんだぞ。

 中高の頃は登下校の時、姉ちゃんの荷物持たされてたし…………まさか逆に姉ちゃんが前世で徳を!?


「あの! 大丈夫? 明松くん泣いてる!? すっごく遠い目したままだし、ねえしっかりして!!」

「わかったよ神様これからは世界のためより善く生きるよ、ああごめん大丈夫」

「第一声に不安しかない!? 本当に大丈夫!? どこかで頭とか打ってない?」


 神様と和解して再起動した俺を相馬さんは心配そうに見つめてくる。


「昨日頭に石当たってたよね!? 吐き気とかしてない!?」

「いや、本当に大丈夫、昨日回復魔法かけてもらったからさっきのはふざけただけだから」


 しかし急に神様と和解した奴にドン引きせず心配するあたり相馬さんは本当に善い人なのだろう、ああどうか相馬さんとカツジ兄ちゃんの来世が恵まれた物でありますように。


「て言うか、相馬さんドロップの量すごいね何時間くらいキノコ叩いてたの?」


 相馬さんの優しさから来る真剣な眼差しが痛いので俺は話題を変える。


「いえまだ30分位しか、明松くんはこれからですか?」


 30分で抱えきれないほどのドロップを手に入れる相馬さん、10分でキノコの傘一枚な俺。

 ドロップ率は運で決まると言うがここまで差が出る物なのか。


「ウン、イマキタバッカリー」


 俺はちっぽけなプライドのためにちっぽけな嘘をついた。


「多分ですけど奥の方がモンスターな確率高い気がします、頑張ってくださいね」


 俺の嘘を知ってか知らずか相馬さんはアドバイスまでしてくれる。


「相馬さんは今日もう終わり?」

「いえ、荷物が一杯に成ったので買取カウンターに」


 大きい袋とか持ってくるべきでしたね、とはにかむ相馬さん。


「俺、素材系のアイテムならスキルで収納出来るから預かろうか?」

「え? 迷惑じゃないですか?」

「大丈夫、大丈夫、俺もどれくらい収納出来るか試したいし」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 俺は武装作成を発動して画面を出す。


「うわあ、そんなの出るんですね!」


 これ俺以外にも見えるんだという驚きはあったがそれは顔に出さず、キノコのパーツを抱え全て収納を二回繰り返すと辺りに散らばっていた素材はあっという間に片付いた。


「すごいスキルですね!」

「まあ、収納の部分はオマケだけどね」


 ストレートに褒められて少しイキってしまう自分がいる。


「良いなー、やっぱりスキルってアタリハズレ大きいですね」


 そういえば相馬さんのスキルは両利きだった、俺はマウントを取る形になってしまったのをどう言いつくろえば良いか言葉を探す。


「でも私のスキルも負けてませんよ、お手玉だって5つくらい出来るように成りましたもん」


 相馬さんは即座におどけて場を和ませる、この人スゲー大人だな。


「トンファーだってほら」


 相馬さんは背負っていたリュックサックからトンファーを2本取り出して、得意げに左右でクルクル回す。

 

「こんな感じで」


 相馬さんは通路の端に生えてるキノコを回るトンファーですごい早さで叩いて行く。

 あっという間に5体のダッシュファンガスを倒しアイテムは3つもドロップしている。


「スゲー」


 手際もさることながらダッシュファンガス率とドロップ率がスゲー。


「フフ、昨日動画で予習したんですよ」


 大人しい見た目の相馬さんがトンファー振りまわす動画を観ていたと思うとシュールに感じる、まあ俺も昨日トンファーの使い方調べたけど多分青葉も家で練習とかしてそう。


「ハハ、俺も予習しとけば良かった」


 俺は右手に持ったトンファーをわざと不器用に回してみせる。

 しょうもない嘘だが場が和むなら俺は何だってする。


 そこから俺と相馬さんは30分ほどキノコを叩き続けた。

 相馬さんとくらべて俺は半分くらいしかダッシュファンガスを倒せてないしドロップはもっと少ないけれど、ドロップアイテムを仕舞っていくことによっていい感じに達成感がある。


「はあはあ、叩くだけだけど結構疲れますね」

「じゃあそろそろ買い取りカウンターに」


 そんな会話をしてダンジョンを出てロビーに向かう、俺は特に疲れてないがそれをいうほど野暮じゃない。


「すいません買い取りお願いします、スキルで収納してるんですけど何所に出せば良いですか?」


「はいー、結構量多めですか?」


 買い取りカウンターに立っていた50代くらいの女性職員に声をかけるとカウンターの出入り口から出てきながらそう返してくる。


「はい、カウンターには乗り切らないと思います、あっそれとすいませんこの娘の分と僕の分で分けて買い取ってください」

「はいはい、こちらで承ります」


 買い取りカウンター横の小部屋に通される。


「じゃあこちらに」

「はい」


 俺は武装作成を発動して素材ボックスを押す。


 とりあえず表示されているダッシュファンガスの傘×24を押してみる。


 何も反応がないので長押しして見るとメニューが出てきた。

 『レシピ検索』『並び替え』『削除』


「え!? 取り出しは?」


 俺は思わず声に出した。


「ど、どうしたの明松くん?」

「え、いや仕舞った素材の出し方わかんなくて」


 とりあえず焦って画面の押せるとこを色々押してみている俺に女性職員が話しかける。


「あの、どう言うスキルで仕舞いました?」


「えっと、武装作成ってスキルです」

「あー、生産系はスキルによりますけど一度仕舞うとそのままは出せませんね」

「え? ……出せない?」

「はい、出せません」

「絶対に?」

「はい、絶対に」


 女性職員は困ったように笑う、相馬さんの顔は見れない。


「あの明松く――」


 俺は相馬さんが何か言い切る前に速やかに土下座した。

 





 



 

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