第15話 眼鏡=賢いとも思ってそう

 青葉は紅茶を片手に俺の横にやってきて手すりにもたれ掛かる。

 青葉の雰囲気に紅茶という物はすごく調和するように思えるが、青葉が手にしている紅茶はコンビニで売ってる中くらいの紙パックに入った甘いミルクティーだった。

 だがむしろそこいらの中高生と同じような味覚だと思うと何だか親近感がわく。


 しかし。


 青葉は俺の手元をチラリと見ると突然ミルクティーを一気飲みして自販機の方に向かう、ちゃんと自販機横のゴミ箱にストローと紙パックを分けて捨て自販機で何か買って戻ってきた。


「隣良い?」


 さっきは普通に隣でしゃべり出そうとしていたのに今度は俺が飲んでるのと同じブラックコーヒーを見せるように振りながら青葉は仕切り直してくる。

 一連の行動には違和感しかないが最後の最後でなぜか様になってる。


「ああ、どうぞ」


 幸いミルクティーの親近感とブラックコーヒーの違和感で俺はキョドらずにいい感じ渋い返事が出来た。


「明松くん、だったかしらまさか同じ学校だった何て、何組?」


 なぜか青葉は缶コーヒーを開けながらさっきとほぼ同じことを言う、しかし妙にハードボイルドな空気のせいでそこを指摘する気にはなれない。


「言ってなかったか? 2組だよ昨日の男子2人と同じ」

「そうだったの、昨日は明松くんが最高の冒険者になった事しか聞いてなかったから」


 クスリと笑いながら俺の昨日できたてホヤホヤの黒歴史をいじって来るが全然嫌みな感じがしない、これが足立とかなら俺は手すりの向こうに落とそうとしていただろう。

 やはり言葉とは何を言うかではなく誰が言うかだな。


「所で明松くんはパーティーとかもう決まった?」


 青葉の流れるような質問に俺の脳味噌はフル回転する。


「いやー、今足立に誘われてるけど考えてる所」


 俺の脳は結構優秀でそんなに間を置かずいい感じの答えが出せた。

 別に元々足立と組むつもりはないがこう言うと誰かと組むつもりはある事が伝わるだろう。


「足立……、あの眼鏡の?」


 残念だったな高林、青葉さん名前覚えてないってさ自己紹介でミスらないから。


「いや、そっちじゃなくてほらえーと大剣スキルとってえーキノコにやられた奴」


 青葉は大剣の部分で首をかしげキノコのくだりで思い出し、その前に下の名前で声をかけられた事を思い出したのか青葉は顔をしかめた。


「でもまあ、足立とは組まないと思う。俺スキルが武装作成って生産系でさ武器とか防具作れるけどあいつとは攻略ペース合わないと思うから」


 さらば足立、達者でな。

 俺は足立と同類だと思われ好感度が下がる前に組まない事を決定した、さらに俺のスキルを説明することで今後装備を作って欲しいと頼まれる布石打っておく。

 ちなみに足立は多分調子に乗ってたかってくるだろうから絶対に教えない、高林は素材を持ってくるなら矢とか作ってやろう。


 俺のスキルが生産系だと知ることであの目が碧く光る強そうな戦闘系スキルを手に入れた青葉とすぐにパーティーを組める可能性は低くなるが、ここで焦ってウソや隠し事をして信用されなくなるよりずっと良いはずだ。

 この先レベルを上げるよりスキルを増やすより装備をそろえるより、一度失った信用を取りもどす方が難しいだろうから。


「攻略ペース、そっかそういうのも大事ね」


 青葉は缶コーヒーに口をつける。


「青葉は誰と組むとか決めてんの?」


 決まった、流れなら青葉の方から誘って貰えるかも知れない。


 しかし、青葉から返事はなかった。

 え? 急に怒った? もしかして名字も呼び捨てにされるの嫌がるタイプ?


 恐る恐る、青葉の方を見ると彼女は目を見開き頬を膨らませていた。


 え? どう言う感情?


 頬を膨らせ怒っているという感じでもないどっちかというと驚いているような表情。


「あ、あのどうかした?」


 頭に疑問符しか浮かばなかった俺はとりあえず声をかけて様子を見た、すると青葉はこちらを制すように右手の平を向け缶を持ってる左手で口元を押さえながらそっぽを向いた。


 しばらく間が空いて振り返った青葉の頬は元に戻っていた。


「コーヒー苦かったのか?」

「は、はあ!? そんなわけないじゃない、ただ初めてコーヒーを飲んで甘くなかっただけ」


 それは苦かったんじゃないのか?

 

「あ、ああごめん」

「何で謝るの? 何か勘違いしてない? 私は別にコーヒーが苦かったとしても普通に飲めるから、子供じゃあるまいし」


 軽く聞いたつもりだったがどうやら俺は地雷を踏んだようだ。


「ちゃんと見てなさい、飲みきるから!」

 

 青葉がよく通る声でそう宣言すると周りに居た生徒達が皆こっちを見ている。


 3、2、1、今! とカウントする青葉の目が碧く光ったかと思うと彼女は一気に上を向いてコーヒーを呷った。

 

 ただコーヒーを飲み干す姿がここまで栄える人間はなかなか居ないだろう、均整の取れた身体にぶれない体幹も相まってまるで彫刻なんかの美術品の用だ。


 そして缶の中身をほっぺたパンパンに詰めてる姿は欲張りハムスターの用だった。


 「ム~~~~!!」


 青葉はまさに声にならない声を上げ俺の前から走り去って行った、途中で空き缶をちゃんとゴミ箱に捨てて行った所が育ちの良さが感じ取れる。


 追いかけた方がいいか迷ったが多分コーヒー吐くところは誰にも見られたくないだろう。


 青葉が戻ってくるかも知れないそしたら何について謝れば正解か解らないがとりあえず謝ろう、そう思い昼休みの終わりまでバルコニーで待ってみたが先に五時間目のチャイムが鳴った。


 教室に帰る道すがら、まさか青葉がブラックコーヒー飲むことをカッコイイとか大人だとか思ってるタイプだったとは、というどうでも良いことが頭をかすめた。

 


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