第14話 高林壊れる、足立との決別、青葉との再会

「ごめんごめん、明松お前引きずるタイプか? そんなんじゃモテねえぞー」


 足立は昨日俺に仕掛けてきた口論についてなぜか高林に説明を受け、思い出したか思い出すのを諦めたかは知らないが初めに口をついたのはこんな戯れ言だ。


「お前がモテを語るな、お前が」


 しかし自分からケンカ売っといてすぐに忘れた奴に俺が黙ってられなかったのはこの部分だった。


「いやいや――」

「やめよーぜ、モテるモテないの話しは」


 このメンバーでそんな話ししても皆惨めなだけだ、足立の反論を遮り高林が強い語気でそう続けパックの豆乳をすする。

 その姿はどこか愁いをおびていてモテるモテないひいては世の中の恋愛という物に対する卑屈さを漂わせていた。


 「大体足立、明松はお姉さんいるんだしかも女子大生、俺たちに勝ち目なんかねーよ」


 高林にとって姉とは一体何なのか、姉が居ることとモテにどういう関係が有るのか。


「あのな、高林別に姉ちゃん居るからってモテねえぞ、何か恋愛経験は学生の内に積めとか言って色々うるさく言うけど結局モテた覚えねーし」

「……色々って例えば?」


 若干の間を挟んで高林がこっちを見据える、何か目が怖い。


「えっと、髭は小まめに剃れとか」

「他には?」

「あと眉毛は自分で整えないと引っこ抜かれるな」


 俺的に一番鬱陶しいエピソードで場を和ませる。


「続けて」


 場は和まなかった、高林の目が碁石みたいに真っ黒になっていく。


「えっとああ、そうだ3ヶ月に1回持ってる服チェックされて着心地の良い奴容赦なく捨てられたり小遣いで高い服買いかえさせられたりする」


 これでどおだ、中学辺りからこの習慣のせいで欲しいものをいくつ諦めた事か。


「明松の姉ちゃんって過保護だな、うち2人居るけどそこまでうるさく言ってこねえや、でも学生のうちに彼女作っとけってよく言われる」

 

 笑いどころで全く笑わずどんどん虚無に飲まれていく高林の目に恐怖を覚えだした頃、まさかの足立から助け船が出たそれにしてもこいつの姉ちゃん達ぜんぜん現実見えてねーな。


「へー、どこの姉も似たようなもんか、でも上に2人居ちゃ肩身狭いだろ?」

「別に年離れてるからなー」


「くっ、いっそ、殺せ!」


 足立を巻きこんで姉という存在のネガキャンをしようとした矢先、高林が壊れた。


「何なんだよ、兄貴は俺に冒険者になっても先に彼女作らないでくれって土下座するし弟はバレンタインデーのチョコ偽造してマウント取ろうとしてくるし、一体俺が何したっていうんだ!!」


 誰に向けたか解らない慟哭は少なくとも昼休みの教室で出して良い声量とテンションでは無かった。


 一瞬それはそれで男兄弟って楽しそうだなと思ったが、冷静に話しをかみ砕くと全然うらやましくない事に気づいた。


「でも結局モテてねーから、な、足立?」

「俺、小学校低学年まで結構モテてたぜ?」

「ほら高林、見ろ虚しい過去の栄光だ」

「何とでも言え非モテ共」


 足立が勝ち誇る中、高林は目に涙を浮かべ静かに笑い出した。

 昨日高林って接しやすいなと思ったけどそうでもなかった。


「はは、俺の親父ってさ23でハゲ出したんだ」


 高林は少しくせっ毛な前髪をかき上げる。


「見ろよ俺の額、指4本ちょい入るんだぞまだ高校生なのに」


 少なくとも高林この高校でモテることはもう無いだろうな、高林が壊れてから教室から何人か女子出て行ったもの多分噂まわるもの。


「それまでに老化しないスキル手に入れたり髪増やすアイテム手に入れりゃ良いじゃねえか、俺たち冒険者だろ」


 とりあえず、俺までモテなくなる前に高林を落ち着かせるため適当な慰めをこしらえてる途中、足立はそう言って弁当をかきこんだ。


「て言うかさ、俺たちでパーティー組まね?」


 足立は口を拭いながら結構な決め顔で俺たちに問いかける。


「「いや、それはいいわ」」


 自分でもびっくりするほど冷めた声で高林の気づかいを感じさせる対照的な声と重なった。


「な!? 何でだよ!?」


 足立は心底驚いた様子で米粒を飛ばす。


「いやー、俺は週末だけダンジョン潜る予定だから平日はバイトとかして早く装備そろえたいし」


 飛び散った米粒を使い差しの除菌ティッシュで拾いつつ高林は昨日喋ってた時と同じようなテンションで答えた。

 

 正気に戻ったか。


「ええー週末だけかー、明松はー?」


 俺も渋々高林の真似をして米粒を拾っていると矛先がこちらに向く。

 なぜ一々理由まで言わなきゃいけないのだろうか。


「何となく、もうちょい色々考えたい」


 俺は生産系スキルで足立は戦闘系スキルだからダンジョンに潜ってもペースが違うと言えば簡単だが、多分そう言うと足立は滅茶苦茶マウントを取ってまた忘れるだろう。

 こっちには損しかない。


「ちょっとトイレ」


 俺は話しを切り上げるように弁当箱をしまい席を立った。


 実際は催して居ないので適当に学校内をぶらつく事にする。

 

 まだ慣れて居ない校舎を適当に歩いていると中庭に面するバルコニーで自販機を見つけたのでコーヒーを買った。


 端っこの手すりに背中でもたれ掛かりコーヒーをちびちび飲みながらこれからの事を考える。


 俺の武装作成はダンジョンで手に入るアイテムで武器や防具を作るスキルだ、つまりスキルを使いたければモンスターが残すドロップアイテムやダンジョン内で拾えるフィールドアイテムを手に入れる必要がある。

 前者はモンスターを倒す戦闘力が必要だし、後者だってモンスターに出くわさない訳じゃない。

 そうなってくるとゴブリンにすら負ける俺が出来ることは……


「しばらくキノコ叩いてレベル上げかー」


「あっ! え? えーと、か、か、か、ああ。 こんにちは明松くん同じ学校だったのね」


 俺を見かけてそこそこの声を上げ、目の前までよってきてから俺の名前をやっと思い出した青葉チカゲがすまし顔で声をかけてきた。

 

 

 


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