第13話 アドベンチャーズハイと思春期と中二病を混ぜた何か
足立が教室を出て行き、次に戻ってきたのは3時間目の休み時間が終わる頃だった。
俺はまさか今日中に戻ってくるとは思わなかった。
登校拒否とまではいかずとも俺なら今日のところは帰って、髪を黒く染め直すとか髪型はスポーツ刈りでごまかすとかするだろう。
何よりあれほどスベったのだ少しは心を癒やす時間が欲しい。
しかし足立は違った、奴は何時だって並みの地味男子を凌駕する。
「いやー、まいったまいった」
教室に入るや否や足立はまたもや声を張り自分のほぼスキンヘッドな丸刈り頭をペチーンと叩いて音を響かせた。
教室が静まりかえる。
皆まだ高校に入学してから日が浅くお互いの事をまだあまり知らない、その上で今まで碌に目立った所の無い奴が朝に続いてこれ程のかっ飛ばし方をしてくるともはや目をそらすしか無い。
足立は明らかにリアクションもしくは話しかけられる待ちをしている、だが誰もからかいにすら行かない。
皆バスや電車で変わり者を見た時の如く空気が静かにピリついている。
このクラス静かにしてれば過ごしやすそうだな、と俺は出来るだけ窓の外を見ながらそう思うことにした。
「はいー、そろそろチャイム鳴るからすーわーれーよー」
ピリついた空気を四時間目の歴史を担当する初老教師が打ち破ってくれた。
「んーえーとー、足立ー?」
初老教師は手元の出席簿を見ながら足立に話しかける、すると自分の席に着こうとしていた足立は嬉しそうに反応する。
「なんすか? 言われた通りにしましたけど?」
どんだけ教師に反抗するオレをやりたいんだ?
「何て言われたか知らんがー、遅刻なら職員室で遅刻届書いて来いよー」
初老教師も興味なさげに足立をあしらった。
学校指定のリュックサックを席において足立はとぼとぼ教室を出て行く。
「いやー、にしても基本足立が悪いけど今日は大人の真の怖さを見たなそもそも相手にされないとは」
足立が職員室から帰ってこないまま四時間目が終わり昼休みになった。
高林が示し合わせる事も無く席をくっ付け足立を話題にあげながら菓子パンをひろげ出す。
「まあ、向こうもモンスターペアレントだとかキレる若者とかあるからあんま関わりたく無いんだろ」
俺も弁当をひろげ話しに乗っかる。
「教師がそれでいいのかね?」
「高校は最悪辞めれるから、向こうも最悪辞めさせりゃいいや的な?」
「うわー、怖ー」
「中学ってぬるま湯だったな」
高林は確かになー、と言いながら除菌ティッシュを制服の内ポケットから出して,
1枚くれた。
「え、あっありがと」
一瞬何が起きたか解らなかった俺は少し遅れて受け取る、デオドラントシートを持ってる奴なら中学にもいたが除菌ティッシュを持ち歩く高校生男子がいるとは思わなかった。
「しかし足立の奴わかりやすいアドベンチャーズハイだな」
除菌ティッシュで手を拭きながらしみじみと語る高林。
アドベンチャーズハイとはネットでよく見かける、冒険者になって強めのスキルを取ったりレベルが上がって調子に乗る初心者の蔑称だ。
「あれアドベンチャーズハイなのか? 何か色々混ざってるだろ」
「ハハ確かに、まあでも最後のスキンヘッドはある意味潔いよな」
「俺なら普通に黒染めで髪ももうちょい残すわ」
「いやー、たにもっちゃんの説教なげーわー」
またもや足立は教室に舞い戻り声を張る、一体何が彼をそうさせるのかそしてたにもっちゃんとは誰なのか。
「放課後も職員室来いとかマジ勘弁して欲しー」
誰にも聞かれてない事を喋りながら弁当片手にこっちに近づいてくる。
「せっかくダンジョンに入れるようになったのに、な? な?」
もはや恐怖。
足立は俺と高林を交互に見ながら俺たちの机に弁当箱をドンッと置いた。
「え? 足立今日からダンジョン潜る気だったのか? 装備とか買ったりは?」
高林は特に驚く様子も無く喋っている。
え? 驚いてるの俺だけ?
「防具類はもう買ってあるし、武器は昨日レンタルのサブスク申し込んだ」
「タケチョーの?
「DDDのとこ」
「へー、あのどこの店舗でも借りれるって奴?」
「そーそー、持ち運ばなくて良いし国営のレンタルより強いのそろってるし」
「え? ダンジョン産の武器借りれるコース? あれめっちゃ高いだろ」
「初めの三ヶ月は親が払ってくれるから、それまでに武器買えるくらい稼げば問題なし」
「いーなー俺んち小遣いでどうにかするかバイトしろってさー、俺の場合矢が要るからそこがなー」
「明松の家は?」
俺は2人の会話を聞きながら黙々と弁当を食った、聞いた感想はと言えば足立甘やかされてるなーとか、弁当も冷食とかじゃ無しに手が込んでるしこいつお坊ちゃんか? 程度だ。
俺は足立の問いかけを受け口の中の冷食の魚のフライと米をゆっくり飲みこんだ。
「明松の家は? じゃねーよ、大剣持ってたらぶった切るような相手とナチュラルに食卓囲むな」
俺がそう言うと、足立はきょとんとした顔で。
「ん? 何の話し?」
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