第12話 熱血教師はもういない
よく考えたら父さん剣いらねーよな。
いつもより早く登校して自分の席に座りスクールバックからバナナを取り出した所で気づいた。
て言うか武器欲しがるサラリーマンって事件性出てくるよな。
しかし、あのサブスクで新しいアニメや古い映画をみて少量の酒でご機嫌になれる父さんが上司を斬り殺す姿は想像出来ない。
多分剣を作って渡しても物置の肥やしになるだろう。
「おはよー、明松ー朝飯?」
バナナを食いながら物置の空きスペースに思いをはせていると、まだスクールバックを肩にかけている高林が教室の前の方から声をかけてきた。
「ああ、おはよ。朝飯第二部」
「何だよそれ」
「出来れば朝は食べたくない派だから分けて食べてんだよ」
「それ身体にいいのか?」
「しらね」
「ハハ、て言うかさ昨日聞きそびれたけどさ――」
高林が喋りながら俺の左斜め前に座る。
思ったより席が近かった事に驚いたが出来るだけ顔に出さないように注意する。
「――明松って昨日どんなスキル取れた? ってあー言いたくないなら別に……」
俺は今自分がどんな顔をしているか解らないが俺のスキルに対するコンプレックスが前面に出ているだろう。
しかし姉ちゃん曰く俺はふてくされてるだけらしいのでこのまま高林に気を使わせるのはあまりにダサい。
「生産系だよ生産系、装備とか作れる奴」
「え? 当たりの部類じゃん。 そんな顔するから特技系でも取ったかと思った」
高林は拍子抜けした様子であっさりとそう言った。
特技系とは昨日相馬さんの取った両利きとかのスキル絡まずとも出来る人がまあまあ居るスキルの俗称だ。
「当たりかー?」
「いや、だって生産系ってラーニングで手に入れるよりすっげえ高いオーブ買うために働いた方が簡単っていうくらい取りにくいって話しだろ?」
「その話しは知らん」
マジかこいつという目で高林が見てくるが、戦闘系スキル以外を調べる男子高校生の方がマイノリティーだろう。
「まあ普通に稼ぎやすいし、ダンジョン関連企業に就職しやすいじゃん」
「それは姉ちゃんに言われた、最強じゃ無くて日本の平均年収ちょい上を目指せってさ」
夢の無い話しだよなー、と続ける俺に高林が食い気味に質問してくる。
「明松ってお姉さん居んの?」
「え? うん居る居る三つ上の大学生」
「いーなー、俺んち男3人兄弟でむさくてむさくて」
男兄弟の家の奴はなぜか女姉妹が居る奴をうらやむがこいつらは現実が見えちゃいない。
「そんな良いもんじゃねーぞ」
俺は2本目のバナナに手をかけながら率直に答える。
「いーや、年子で兄貴と弟に挟まれてる俺とくらべたら天国だね」
高林は俺の何を知ってるのか、とか確かにこいつ真ん中っぽいなとか思うことはあるが俺からすればそっちの方が楽しそうだ。
「えー、そっちの方が協力系のゲームとかはかどりそうじゃん」
「うるせー、逆に他に長所ねーんだぞ」
「プロレスとかやると盛りあがりそう」
「2人とも俺より文化系だからケンカすらない」
「平和で何より、多分俺の姉ちゃん高林家三兄弟全員分よりケンカっぱやいぞ説教もしてくるし」
「ただのご褒美じゃねーか」
「どこがだよ」
そんな益体の無い雑談をしていると教室の席があらかた埋まり担任の体育教師がジャージ姿で教室に入ってきた。
俺は急いでバナナを口に詰め込み皮をジッパー付きの袋に入れてスクールバックにしまう。
担任はチラリと俺を見たが特に言及せず皆が席に座るのを待っている。
「はいーじゃあ出席を取りますー」
生徒が全員席に着いたかより自分の腕時計を見ながら担任がそう言うと、皆が急いで席に着き出す。
「足立ー、ん? 今日は――」
「すいませーん、おくれましたー」
教室の最前列の右端を見て担任が何か言おうとした時、同じ方向にある前の方の扉が開き足立が声を張りながら教室に入ってきた。
「え?」「うわぁ……」
ほんの少しだけ教室がざわついた。
「足立……」
「はーい、出席でーす」
「お前その髪どうした?」
足立の髪は昨日の黒くて長くも短くも無い名前のない髪型から、金髪のツーブロックになっていた。
何か普通に似合ってないな。
「なんすか、何か問題っすか?」
足立は担任にイキった感じで絡んでいく。
「染髪とツーブロックは校則違反ー、基本停学でー態度によっては退学、今から床屋行ってどうにかしてきたら遅刻ですむな」
担任はすごくどうでも良さそうにそう言うと、ふたたび出席を取り始めた。
「へ?」
足立はスベった、多分もっと教室がざわついたり教師に反抗するオレをやりたかったようだがもう誰も足立を見ちゃ居ない。
まだ入学したてで皆キャラが固まりきっていない時期とはいえ、こういうのは上手い下手があるのだろう。
足立は呆然と担任を見るが、担任は足立の方を一瞥もしない。
これが今時の学校教育か。
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