第11話 姉って基本現実的

 シャワーで汗を流し歯を磨き最近濃くなってきた髭を剃り、自室で学校の制服に着替え高校に入ってから毎朝苦戦しているネクタイを結び方の動画を観ながら結ぶ。

 先週はそこそこ結べるように成っていたが土日を挟んで忘れていて2回結び直した。


「おはよ」

「おはよー」


 スクールバックを玄関に放り、台所に入ると姉ちゃんと父さんから挨拶をされ母さんはサンドイッチを食べながらタブレットでドラマに夢中だ。


「おはよう」

「ん? あっカナメ、何食べる? 今日もプロテイン?」


 急にタブレットから顔を上げた母さんは矢継ぎ早に質問する。


「あーうん、あとバナナ2本くらい持ってく」


 俺がそう答えると、母さんは冷蔵庫からバナナを2本取り出しジッパー付きの袋に入れてキッチンのカウンターに置いてある俺の弁当の包みの上に置き流れるようにタブレットの前に戻る。


 棚からプロテインを出して大きめのグラスに裏に書いてる分量よりスプーン1杯多めに入れて牛乳と混ぜる、粉の中で行方不明になりがちな計量スプーンも洗いにくいシェイカーも使わずに作った塊が浮いている濃いめのプロテインを一気飲みするとちょっと嘔きそうに成る。

 これで朝食は終了。


 筋肉をつけたければ朝からちゃんとした食事を取るべきだが、筋トレやランニングをして縮んだ胃でちゃんとした食事を取れるほど俺のトレニーレベルは高くない。


「そう言えばカナメ、昨日冒険者免許取ってスキルは取らなかったのか?」


 まだ家をでるには早いから食卓でスマホをいじろうとした俺に父さんが問いかけた。


「え? 取ったよ武装作成」

「おお、剣とか創るのか?」


 昨日教えたような気がするが父さんは感心した様子で聞いてくる。


「まあ、剣でも槍でも一通り作れるらしいけど」

「そんなにすごいスキルなのか!?」


 ジェネレーションギャップという奴だろうか父さんには俺の新しいコンプレックスに成りかねない生産系スキルが特別な物に思えるらしい。


「すごいって言っても別に強いスキルじゃないし」

「いやあ、それは使いようだろ色々応用きくと思うぞ」

「そうかな?」

「今度父さんに見せてくれ」


 父さんはすごく嬉しそうにはしゃいでる。

 ダンジョンに一般人が合法的に入れるように成ったのは俺の生まれるすこし前で父さんはその頃には家庭を持っていて無茶できる立場じゃ無かった。

 案外父さんもダンジョンに憧れていたのかと俺はしみじみ思った。


「ねえ、カナメ父さん多分あんたのスキル攻撃魔法か何かだと思ってる」

「「え?」」


 カフェラテを片手にスマホをいじっていた姉ちゃんが急に口を開くと、俺も父さんも同じように驚いた。


「こう、剣とか槍とかを創るって言うか召喚して操ったり」


 父さんはうろたえた様子で夢のある話しをし出した。


「え? お母さんもそう思ってた」

 

 突如母さんまで参加してきた。

 ここで思い出したが昨日家に帰ってスキルの話しは母さんに軽くして、父さんは日曜日の早めの晩酌ですでにできあがっていたので無視したのだった。


「何だよ召喚って、普通に材料集めて剣とか作るスキルだよ」

「あ、えっとそうかそれは……あれだなえーと」


 父さんはさっきより大分テンションを下げて言葉を選ぶ、しかし絶対ハズレスキルだと思ってる顔だ。


「へーまあカナメ武器好きだし良かったじゃない」


 母さんは普通に受け入れてまたタブレットに視線を落とす。


 畜生この夫婦俺の反抗期をくすぐりやがる。


「カナメ、言っとくけどあんた大当たり引いてるからね」

「へ?」


 新しいコンプレックスに触れられていっそグレてやろうかと思っていると、姉ちゃんが説教するときのトーンでしゃべり出す。


「あんたの事だからどうせ、すぐ戦えるスキルじゃ無かったーってふてくされてるだろうけど、昨日一日で物作りの技術覚えたと考えてみなさい剣振りまわしたり火の玉打ち出すより絶対役に立つから」

「ええ? うーん?」

「金になるの、金が手に入ればオーブでも何でも買って自分で作った剣振りまわすなり魔法の杖振りますなり好きに出来るでしょ」

「でも戦える冒険者ってすっごい稼ぐし」

「あんた世界の富豪番付で専業冒険者が1位になったの見たことある?」

「な、ない」

「別にあんたのスキルで大富豪に成れるなんて言わないけど、そのスキル伸ばせばそこらの冒険者より安全で楽に稼げる用には成れるでしょ場合によったらダンジョン関連の企業に就職もしやすくなるし」

「う、うん」

「安全第一、ダンジョンに潜ってもあんたは最強になるんじゃ無くて日本の平均年収のちょっと上を狙いなさい」


 そう言って姉ちゃんは説教を締めくくった。


「あ、ダンジョンには行って良いんだ」

「駄目って言ってもどうせ行くでしょお父さんもお母さんも止めないし、それにスキルはダンジョンの中の方が伸びるってネットに書いてあるし」


 どうやら姉ちゃんはスマホで調べながら説教していたらしい。


「冒険者向けの装備鑑定して買い取ってくれる所も結構あるみたいだからチェックしときなさいURL送っとくから、そろそろ行ってきまーす」


 俺のスマホに通知が来たかと思うと、姉ちゃんは立ちあがりカフェラテを飲み干し台所を後にする。


「あ、父さんも仕事だ」


 続いて父さんもホットミルクを飲み干し靴下を履き出す。


「じゃあ、俺も行ってきまーす」


 普段なら学校に早く着きすぎないようにもう少しゆっくりする所だが、俺も学校に出かける事にする。


 玄関で靴を履いていると、父さんが後ろから声をかけてきた。


「おい、カナメ弁当忘れてるぞ」 

「ごめんありがとう」


 弁当とバナナ入りの袋を受け取りスクールバックにしまっていると父さんはタイミングを計りかねたようにこう言った。


「なあカナメ、剣作るの上手くなったら父さんにも作ってくれな」

「う、うん、期待しといて」


 俺は少し照れてそう言った。

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