第2章 黒歴史確定の2日目
第10話 明松カナメの(どうでもいい)モーニングルーティーン
冒険者、明松カナメの朝は早い。
俺は朝5時にセットされたスマホのサウンド無しのアラームで目を開ける、スヌーズ機能は使わないアラーム自体も5時に一回きりというこだわりがあり何回もスヌーズを繰り返したり次のアラーム鳴ったら起きようとかそう言う甘えを自分に許さない。
これを雨の日や前日夜更かしした日以外は毎朝実行し勝率は7割半ほど、十代の普通科帰宅部にしてはまあまあな成績だろう。
それから自室のベッドの上で10分ほどスマホをいじる、ブルーライトで脳を覚醒させるためだ。
月曜発売の週刊少年誌の電子版を毎朝少しずつ読んでいき日曜に一番楽しみな人気作を読む、今日は月曜日なので後ろの方の作品や真ん中辺りに載っているバトル物じゃない作品を流し読む。
本来前の方に軒を連ねる人気作をいち早く一気に読みたいがそんな愚行はたまにしかしない。
ふと窓の方を見てカーテン越しに少し空が明るく成っていくのを感じて布団をめくり枕元に置いてあるリモコンで部屋の明かりをつける。
ここでつい先週、姉に招待特典が欲しいからと自分もダウンロードさせられたソシャゲのログインボーナスを思い出す。
だが、少し布団に戻りかけた俺は軽く深呼吸してスマホからソシャゲをアンインストールする、無課金なりにレベルも上がっていたしイベントもまあまあ勧めていたがしかし自分の行動を制限したり予定を変えそうに成ったソシャゲは消す。
この鋼の意思がなければ冒険者として生き残れないだろう、それに3日前に姉にまだそのアプリやってんの? と言われたから初期の目的は達成されている。
「よっし、っと、フッ、フッ、フッ、――」
ベッドから降りるや否やスクワットをはじめる。
下手に時間をおくと朝の筋トレがおっくうに成ってやらない事の方が多いからだ。
本来は柔軟をしてからはじめた方がいいのは解っている、しかし柔軟を先にすると満足して筋トレしない日が増える事を俺は経験で理解している。
「はあっふう」
少し早いペースでハーフスクワットを30回肌に汗がにじむ手前で止め、インターバル代わりにパジャマとして履いていたスウェットズボンを脱いで化繊のインナーシャツとトランクスパンツ姿になる。
腕立て伏せ30回、インターバル代わりにタンスから出した黒いシンプルなジャージに着替え足あげ腹筋に左右のひねりを加えた物を30回。
「あー走りたくない眠いもういやだー」
できる限り不満を口にして部屋を出る家族を起こさないようにドアを出来るだけ静かに閉めゆっくりと階段を降りて一階の洗面所に向かう、そこそこのぬるま湯で顔を軽く洗い冷水で何回か口をゆすぎ口の中の粘つきが無くなればその流れで水道水を飲む。
最近の水道水は綺麗だからそのまま飲めると言うことと台所に行くと水を飲むついでに何か食べてしまい走る気が失せるのでそれを防ぐための生活の知恵だ。
トイレを済まし、玄関でランニングシューズを履き終える頃にはもう心は折れかけていた。
「ふう、はぁーあーあ」
玄関を出てため息を吐き大通りの方に歩きながら手足をぶらぶらしたり肩を回したりして大通りに着く頃にはもう家に帰りたい気分で頭が一杯だ。
「よっし」
だけど俺は走り出す。
出来るだけ信号に引っかかるように速度を調整するしいつでも心が折れたら家に帰れるように家を中心として大通りを四角く走ってるけどそれなりのペースを維持して今日もどうにか走りきる。
「ハア゛ーア」
家に着くと俺は荒いため息を吐く、朝のトレーニングはまだ終わらないからだ。
帰ってきた勢いで庭に回り、物置から木刀を取り出し息が整うまで軽く素振りをする。
息が整ってきたら次の得物を物置から取り出す。
重さ5キロある受注生産品の鍛練棒、俺の持ち物の中で最も値の張る逸品だ。
このバカデカい木刀にお年玉とかを貯めて8万円近く払った時は、姉に白い目で見られネット注文では解らなかったデカさと想像を超える重さに俺自身も遠い目をしたが今では買って良かったと思う。
ゆっくりと振り上げゆっくりと振り下ろす、二年前に買ってから徐々に鍛えて行って最近は肩にも背中にも違和感を感じること無くちゃんと振れるようになった。
本来重すぎる木刀は足腰のひねりを使って振るった方がいいらしいが初っぱなに動画を見て真似をして腰を盛大に痛めたので俺は筋力で振るう派だ。
次は10キロの奴欲しいな。
そんな事を考えていると今の掃き出し窓が開き姉の明松 マヒメが顔を出す。
「カナメー、洗面所空いたー」
「んー」
最後に1回きっちりと素振りして鍛練棒を物置にしまう。
ポストから新聞を取って玄関から家に入る。ランニングシューズを脱ぎながら靴箱の上に新聞を置き、新聞の間から抜き取った広告の束を台所の食卓に置く。
うちは父さんしか新聞を読まず母さんは広告しか興味が無い、父さんは4コマもテレビ欄も見ない現代の若者に時代の流れを感じるとよく言っている。
洗面所に向かうとちょうど父さんが歯を磨いていて嘔吐いていた。
「うおえぇ、ああカナメ、シャワーか」
父さんは急いで口をゆすぎ歯ブラシを洗い出す。
「うん、別に急がなくて良いよ」
俺は服を脱ぎながらそう答える。
「いや、窮屈だろ顔洗ったら行くから」
よく朝にかわすやりとりをして父さんは顔を洗うと言うより濯いでそそくさと洗面所を出て行く。
洗面所にパンイチで一人になった俺は流し台の鏡を見て何となく、モストマスキュラーをする。
「いやーキレてるねー」
身体を鍛えると自動的に人はナルシズムが沸いてくるのかナルシストだから身体を鍛えるのか、答えは一生出ないだろうがやっぱ筋肉が付くと嬉しい。
「カナメ、風邪引くよ」
洗濯機に洗剤とかを入れに来た母さんは半笑いでアブドミナルアンドサイを決めていた俺にそう言った。
「パンツ入れたら洗濯機回しといてね」
「……うん」
とっとと去って行く母さんの背中にそう返事をして俺も言われたとおり洗濯機を回した。
全くもっていつも通りの朝だ。
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