第7話 足立は大剣使い(仮)

 洞窟を歩きながら佐々木さんに聞いた話では俺が背中を向けた時ゴブリンは立ちあがり手に隠し持っていた石を俺の頭に投げつけたらしい、おそらく両手に一つずつ持っていたのだろう。


「あー、ぶっちゃけ初めに蹴りが入った時に足で踏みつけまくった方が勝てたと思いますよ」

「ええぇー」

「あー、気持ちはわかりますけど武器に振りまわされたんですよ、中堅ぐらいまでの冒険者はよくやりますよ強くなった気がすると人間そんなもんです」


 武器に振りまわされた。

 確かにそうだ俺は使った事も無いトンファーをそれっぽく構えてみた時点で飲まれていたんだろう。


「あー、けどアレですよ、だからって強い武器やスキル出し惜しみしたり素手で戦うとかあり得ませんからね」


 俺が渋い顔でいわれた事を反芻していると、佐々木さんはすかさず補足した。


「すいません、佐々木さん勉強になります」

「あー、いえいえ、正直明松さんもっと怒ると思ってましたよ」

「いや、自分が弱かっただけですから」

「あー、大事な考え方ですね、いやー正直な話し皆をビビらせるための見せしめにされて怒る人多いんですよ」


 え?


「三池さんってね丁寧に仕事する人で、地獄に仏の三池なんて呼ばれててこのダンジョンでしかも三池さんのツアー体験した人は死亡率めちゃくちゃ低いんですよ」


 佐々木さんが嬉しそうに三池さんについて語り出すしかし俺の脳内では、見せしめの部分に未だ引っかかっていた。


「正直、パーティー決めるとき最後まで余る子達は冒険者に向いてないって言う職員もいるんですけど逆に三池さんはそこを上手くコントロールするんですよ」


 大丈夫? 佐々木さん? 多分言っちゃ駄目な事言ってるよ?


「戦えそうな子に敗北を経験させて、そうでもない子には実戦の厳しさを見せる、見極めがむずいんですよこれが」


 うん、大分種明かしされて逆に落ち着いてきたまあ戦えそうな子という評価は素直にプラスに受け取っておこう。


「やったー!! うっしゃー、イエスイエスイエース」


「あー、皆向こうにいるみたいですねじゃあ俺はこの辺で」


 前の方からおそらく足立の物であろう大歓声が響いて来ると佐々木さんはそう言った。


「ありがとうございました、回復魔法まで」

「あー、気にしないでください仕事ですし」


 お礼に対する返答が案外ドライだなと思った矢先、佐々木さんは続けた。


「ただ明松さんも強くなったらできるだけ人に優しくしてください」


 佐々木さんは少し照れくさそうにそう言うと踵を返して去って行く。


「頑張ります」


 俺は佐々木さんの背中に頭を下げると佐々木さんは振り返らず片手をあげた。


 いやーいい人だった佐々木さん。

 言っちゃいけない事バラすし、最後言いたかったんだろうなってセリフ言ってたけど様になってた。

 

 俺はそんな事を思いながら洞窟を進むと三池さんの背中とその向こうでいまだに歓声を上げて小躍りしている足立が見えた。

 俺は足立を視界からはずし、三池さんに声をかけた。


「あの、戻りました」

「ああ、明松さん怪我は直してもらいましたか?」

「はい、回復魔法かけてもらいました」

「このダンジョンで怪我をした時は佐々木くんが居た場所に回復魔法が使える職員が在中していますのでお金はかかりますが頭に入れておいてください」

「え!? い、いくらですか?」


 普通に無料で治してもらったつもりでいた俺は取り乱す。


「今回はダンジョンツアーに申し込みの時に強制的に保険に入っているので無料ですから安心してください、今後については怪我の程度によるとしか」

「は、はあ、良かったぁいやあ回復魔法は高いって聞いてたんで」

「その場合、今後は任意保険に入ることをお勧めします」

「は、はい」


 まず任意保険がいくらするのかが気になるがあまり金の話しで取り乱していると思われたくない。


「ところで、今日のご自身の敗因は何かわかりますか?」

 

 三池さんは俺の目を見据えそう問うてきた。


「武器に振りまわされて他の戦略を考えなかった事、ですかね?」

「ええ、それだけ考て居るなら十分ですね。 皆さんキノコ叩きでスキル獲得を目指していますんで明松さんも、踏み潰すのは危ないのでトンファーを使ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 佐々木さんの受け売りで答えたが多分俺は受けた物をちゃんと咀嚼出来たと思う。

 キノコを踏み潰さない方がいいのは、失敗してダッシュファンガスが飛び出す時バランスを崩しやすいからだろう。

 多分ちゃんと考えれている。


 俺はトンファーを棒のように持ち壁際のキノコに向かった。


「なあ、明松ぃー何、怒られてたんだぁー?」


 横から訳のわからん事を言う足立を思わずトンファーで殴りかけた。


「怒られてねーよ、何怒られんだよ逆に」 

「お前油断してゴブリンにやられてたじゃん」


 いやーやな奴だな足立のヤロウ。

 運動部達にハブられ、青葉に袖にされ、キノコにやられてた癖にめっちゃ調子乗ってる。


「別に怒られてない、そういえば足立は謝られたか?」 

「はあ?」

「キノコ危ないって教えてなくてごめんね~とか色々あったろ、きょ・う・は」


 たっぷりバカにした口調で言い返すと、足立は下ぶくれな顔を真っ赤にしてぶわつい唇を震わせた。


「何? お前舐めてんの?」

「いやいや、心配してんだって」


 足立が精一杯すごんでくるが正直ゴブリンの方が手強そうだ。


「くぅいっ、お前マジ後悔するからな大剣あったら切ってし」


 小学生か?


「おう頑張ってまず持ち上げろよ」

 

 正直口ゲンカする意味はないのだが、足立みたいなのはこっちが黙るとますますウザい。


「舐めてんのかコラ、大剣スキル取ったんだよ俺は」


「へっ?」


 武器系スキル"大剣術"初めに取りたいスキルランキング3位。

 















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る