第5話 戦闘準備
「えーと見たとおり、このダンジョンに生えるキノコにはモンスターのダッシュファンガスも混ざっていますので注意してください、触ると飛び出してきますので」
痛みが引いたのか思ったより皆が心配してくれなくて居心地が悪かったのか足立が結構早めに立ちあがると、三池さんは疲れた目をより澱ませてそう言うとさらに続けた。
「一応、このキノコを順番に叩き潰して行ってダッシュファンガスに当たれば初回討伐報酬のスキルは貰えますが……まあ、皆さんキノコ叩きよりちゃんとしたモンスター退治したいですよね」
これが一番安全なんですけどね、とボソボソ続けながら三池さんは肩を落とした。
皆キノコを叩いて行く話しを聞いた時みるみる嫌そうな顔をした多分俺も相当嫌そうな顔をしたんだろう、だってキノコ叩くだけって冒険じゃなくて作業だもの。
「では、草原エリアまで移動します特別派手に光るキノコを見つけても触らないでくださいねダッシュファンガスより危ないので」
洞窟を抜けるまで足立は小声で文句を言っていた。
「てかよう、危ないなら先に言えよな」
ダッシュファンガスが触らないと動かないなら触った足立が悪いだろうに。
「まあ、全員そろうまで待機って言われてたし」
高林が少したしなめるが足立は止まらない。
「いや、説明くらいあってもいいだろ」
こいつはこれからダンジョンに入るとき全部説明してもらうつもりだろうか。
「お前、この先全部説明してもらうつもりか? それか説明してもらえる範囲しか行かないのか?」
とりあえず聞いてみた。
限界知りたいって言ってたけどもう見えてんじゃん、と続けるか迷ったが最高の冒険者のくだりをカウンターでイジられそうなのでここらで抑える。
「はぁ、ウザ」
足立は顔をしかめてそう言うと俺からフイと顔をそらし黙って歩き出す。
足立には嫌われたかもしれないが黙らせれたので良しとしよう。
洞窟はそんなに長くなく数百メートルの曲がりくねった一本道で、出口の光が見えると誰かが感嘆の声を漏らした。
洞窟を出ると、澄んだ空気を心地良い風が運んでくる、本物ではないとわかって居ても日の光は安らぐ物で皆一様に広い空を見あげた。
三池さんをのぞいて。
「お疲れ様でーす」
「ああ三池さんお疲れ様でーす、今日ツアー最後ですね」
「はい、ちょっとゴブリン行ってきますんで新人お願いします」
「今日は……一往復くらいですか?」
「……ですね」
三池さんの洞窟の出口横に立っていた革鎧と十字槍を装備して首からパスケースをさげた二十代後半くらいの男性との業務的な会話を聞いて感動はすぐに引いていった。
「ではこれからモンスターを捕まえてきますので順番に戦っていただきます、えーっと明松さんから準備しておいてください」
「え? 俺?」
「はい、ストレッチとかしといてください、大体5、6分で戻ってきますんでその間何かあったらこの佐々木に相談してください」
三池さんはそう言うとスーツの上着を脱ぎアイテムボックスにしまい入れ替わりでカーキ色のレインコートを取り出して羽織った。
では行ってきます、そう言い終わるかどうかのタイミングで三池さんはその場から居なくなった。
どこに行ったかとあたりを見渡すと遠くの方にカーキ色の塊が走っていた。
だだっ広い草原の向こうに見える森に入るとカーキ色すら見失った。
「えーえーっとかがりさん? アキレス腱は伸ばしといた方が良いですよ」
佐々木と呼ばれた職員さんが声をかけてきて俺はボーっとしてる場合じゃない事に気がついた。
言われたとおりアキレス腱を伸ばし肩を回したり、トンファーの振り心地を確かめたりスニーカーの靴紐を固く結び直したりして準備をしたが準備をした分だけ胸がざわついてくる。
何だか緊張してきて、昼飯がすくなくてちょっと腹が減ってる事や自分の服装がデニムに長袖Tシャツな事を後悔しだす。
口の中が乾いてきて咳払いをした頃に三池さんは帰ってきた。
左手に緑の小鬼を携えて。
「これがただのゴブリンです、あの森で一番弱く対処しやすい亜人モンスターで普段は群れで活動しますが今は一匹で武器も持っていません。正直大人の人間より弱いです」
そう説明する三池さんの目は俺が人生で初めて向けられた、覚悟を問う視線だった。
ゴブリン、案外でかいな、小学生ぐらい?
三池さんに首捕まれてるけど暴れてるし、めっちゃ目つき悪い。
でも手足細いし行けそう、て言うか臭いな。
緊張すると変に頭が回るがそこまで自分がビビっていない事に少し安堵した。
「明松さん準備は良いですか?」
「……はい!」
俺は右手でトンファーを固く握り突き出すように構えた。
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