第4話 やっとダンジョンに

 冒険者に成った今日という日を俺は絶対に忘れないだろう。

 なんたって最高の冒険者に成ったのだからハッハッハ。


 盛大に言い間違えた俺は自分でもよくわからないが三池さんにすがるように視線を向けた。


「はい、じゃあ皆さん今から武器を貸し出します」


 三池さんはあっさり俺から視線を外し、腰につけたポーチから明らかに入らないサイズの黒いトンファーを次から次に引っ張り出し1人1本配って行った。


 俺はさっきの失敗は忘れることにして生まれて初めて見るおそらくアイテムボックスだろうポーチを観察した、ちなみに隣でまだクスクス言ってる足立は今度しばく。


「トンファーがもう一本欲しい方は――」

「はい」


 多分アメリカの警察が持っているのと同じようなプラスチックっぽいトンファーを握って見たりしていると、三池さんが説明する感じでしゃべり出しそれを遮って青葉が元気よく手を挙げた。


「――お配りしますが、いきなり武器の2つ持ちはお勧めしません」

「もう一本ください」


 三池さんは遮られても強引に説明をつづけたが青葉には響かなかった。

 三池さんはため息をこらえるようなそぶりを見せ、トンファーをもう一本青葉に差し出した。


「このトンファーは帰るとき受付の方に返却してください、ちなみに料金が掛かったり予約が必要だったりしますが当施設では他の武器も貸し出していますので詳しくは受付で」


 流れるように三池さんはセールストークを挟んだが、俺には一つ疑問が残った。


 なぜにトンファー?


「すいません、なんでトンファーなんですか? 俺使った事ないんすけど」


 トンファー使った事あるやつ日本にあんまいねーだろ、足立のセリフはなぜか毎度引っかかりがあるしかし質問自体はちょうどいい。


 「軽くて安いからです手入れもいりませんし」


 三池さんは素っ気ない感じで答えると、それではダンジョンに入って行きますと続けて歪な木の洞へと歩き出した。


 なんか三池さん男子に冷たい感じするな。

 まあ軽くて安いならあんまり気にせず使えるからいいかと俺はなんとなく納得したが、足立は安物かよとか文句を言いながら三池さんの後をついて行く。

 

 三池さん、足立、女子二人組、と洞をくぐって行ったところで高林が洞の前で軽く深呼吸して行きよいよく一歩を踏み出すと目の前から高林の背中が消える。

 高林も子供の頃からダンジョンに憧れていたと言うから感慨深い物があったのだろう、俺も目の前で人が消える瞬間を見てダンジョンが摩訶不思議な物なのだと改めて実感した。

 俺は今が人生を変える瞬間なのだと改めて実感し少し名残惜しいような気がして後ろを振り返るすると。

 

 青葉が右手ではトンファーをクルクル回せるが左手は上手く回せず、左手を意識すると右手が上手く回らないみたいな状態で首を傾げていた。


「…………おーい」


 なんと声をかけていいかわからずとりあえず声を出してみた。


「うん、よく手になじむみたい」


 青葉はすまし顔でそういった、そりゃ良かった。

 俺は青葉がこっちに向かってくるのを見届けて、ダンジョンに飛び込んだ。


『明松カナメは「森林砦」の攻略を開始します』


 男か女かわからない声が頭の中に響く、これが俗に言うダンジョンアナウンスだ。


「え? うわぁ」


 ダンジョンの中は森林砦という名前の割に目に映る景色は洞窟の中のようだった。

 洞窟の中は車がすれ違えるかどうかといった程の道幅で両脇に所狭しと生える巨大なキノコが青白く光っていてなんだか幻想的だ。


 やっとダンジョンに来れた、そんな感動が胸にこみ上げそうに成った。


「ぴぎゃあああぁーー」

「ぶべぇああ」


 しかし目の前でキノコが悲鳴を上げながら飛び上がりそれを顔面に食らった足立が倒れる光景を見て、なんか俺の心はスンッと成った。


「大丈夫か足立」


 高林が足立を心配した時、俺はキノコが二足歩行で悲鳴を上げながら走って行く方を目で追ってしまった。

 こう言う時に人間性が出るのだろう、でも高林以外は皆走りゆくキノコを見ていた。


「何があったの?」


 俺の後ろに突然現れた青葉が、キノコがあたった顔より倒れた時にぶつけた後頭部を押さえ転がっている足立を指さしそう聞いてきた。


「なんかキノコが飛び上がってあいつの顔に頭突きかまして悲鳴上げながら逃げてったんだよ、キノコが」


 俺は今目の前で起きたわけの分からない夢みたいな話をできるだけそのまま伝える事にした、ダンジョンの神秘を共有したいのともう一つ他に説明のしようがなかった。


 青葉は少し考え込むように顎に手を当てた。

 

 こんな時に出る青葉の人間性はどんな物だろうか。


「良いとこ見逃したってことね」

 

 青葉は真剣な表情で俺の目を見ていた。



 

 















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