第3話 青葉チカゲは度肝を抜く

 青葉チカゲは強かった。

 まずもって整った顔立ちが彼女の立ち振る舞いに説得力を強め、女性にしては長身な170センチはある均整の取れたシルエットが存在感を放つ。

 一つにまとめられた長髪の黒い艶が凡人と見分ける印のようで、少しキツく見える切れ長な目は意志の強さを宿らせる。

 身につけているのは冒険者向けの蛍光色のウェアで派手な色の割に落ち着いた印象で高級で有ることが伺える、何よりもピンと伸びた背筋とバランスの取れた歩き方から育ちの良さが溢れ出ている。


 その上で、さっきまで寝こけていてすまし顔できるってメンタル強いな、俺ならヘラヘラペコペコするのにとしみじみ思った。


「なあ高林、俺余っててよかったよ」

「ああ、俺も地味でよかった」

 

 青葉がすまし顔でスタスタ歩いてくるまでに高林と足立がすがすがしい笑顔でそんな事を言っていた、余り物として俺たちと組まされる他の女子2人組がゴミを見るような目で2人を見ていたので俺はスマホの通知を確認するフリをして話しに混ざらないようにする、ちなみに通知は実際来ていて母からスタンプが届いていた。

 

「すいません、少し考え事をしていて」


 スタンプに既読をつけてスマホをポケットにしまった時、青葉が発した第一声はそれだった、大きくないのによく通る声だなと思ったがそれよりも寝てた事をごまかしきるつもりな事に驚いた。


「ああはい、ううんいやーこれから入るのは危険度が低いとは言えダンジョンなので皆さん気を抜かないように、では出発します」


 疲れた顔のおっさん職員は少し決め顔でそう言うとマイクとタブレットを受付の職員に渡し歩き出す。

 どうやら美人の言い訳はどんな物でも通るらしい。


 国営緑守ダンジョンのロビーは凸のような形をしていて右奥角は受付、左奥角は買い取りカウンターになっていて、真ん中の出っ張りの手前に改札のような物とずいぶん奥に高さの割に幅の広い自動ドアが二つ並んでいた。


「なあ、チカゲちゃんに声かけに行かね?」


 改札に冒険者免許をタッチしておっさん職員の後ろを青葉、女子2人、俺達3人のフォーメーションで歩いていると足立がそんな事を言い出した。


「ど、どうする明松」


 俺はまず初対面で名前呼びは男が思ってるより気味悪がられるからやめた方が良いと言おうとしたが、その前に高林が期待した目を向けてくる。


「俺はやめとく行きたきゃ2人で行ってこい」


 ノリが悪いと言われても別に良い、足立はどれだけ自分に自信があるのか知れないがなぜここまではしゃげるのだろうか? 

 今まで美人と同じ班やグループに一回も入った事がないのか? 否、あったはずだ。

 じゃあ今までそれで美人と上手くいった事が有るか? 否、あったらここは1人で勝手に行くはずだ。

 これは姉に聞いた話だが初対面で声をかけるなら相手と人数を合わせた方が良いらしい、しかも俺達のような地味な男子が声をかけるなら共通の知り合いとかを通して身元をしっかりさせないともはや怖いそうだ。


 足立は露骨に舌打ちして高林を見る。


「俺も、いいや遊びに来たわけじゃないし」


 高林は前を行く地味目な女子2人のチラ見で向ける白い目を感じたのかはっきり目の声でそう言った。

 

「チッ、腰抜け」

 

 足立はそう言って1人歩く速度を上げ青葉に近づいて行った。

 うんそりゃあいつ余るよ、並みの地味男子を凌駕してるもの。


「あ、あれ、青葉さんあんま名前で呼ばれんの恥ずかしいみたい」


 自動ドアの手前で逃げ帰ってきた足立はそう言い残し俺たちより後ろに回り込んだ、武士の情けだ振り返らないでおいてやろう。


 自動ドアをくぐるとそこには大きな洞の開いた歪な一本の木と四角い空しかなかった。

 窓のない高い壁に四方が囲まれていて地面は歪な木に向かってピラミッドを逆さにしたようにくぼんでいる、真ん中の一部分の土以外全面コンクリート覆われていて、何だか閉じ込められているような息苦しさを覚える。


「はい、ではダンジョンに入る前に改めましてギルド職員を務めます私は三池と申します、皆さん順番に前に出て名字だけでも良いので自己紹介をお願いします」


 近づいてみると歪な木は思っていたより大きかった、三池さんは洞から少し離れた所に俺たちを誘導するとそう言って誰か動き出すのを待った。


 こういうとき変に時間がかかるのはよくあることだ、だから俺は子供の頃からこういう膠着状態では真っ先に動くと決めている。 

 皆が動き出せない時真っ先に動く方が冒険者っぽいからだ。


しかし


 俺が前に出ようとするより早く、動いた奴がいた。


「鴨ヶ浜高校1年8組、青葉チカゲ、夢は最強の冒険者に成ることです」


 度肝を抜かれた、同じ高校だった事や小学生みたいな夢を堂々と宣言した事も驚いたが、名字だけでいい自己紹介の難易度を引き上げられた事に心底驚いた。


「聖礼女子高等学校1年Aクラス、相馬カヤコです、えっと夢は回復魔法を覚えて医療に関われたら良いなと思ってます」


 自分の夢が冒険者に成ることで一応それは叶ってしまった俺が新しい夢を考えるか名字だけでごまかそうか迷っていると地味な女子のお下げ髪の方に二番手を取られた。


「同じく聖礼女子高等学校1年A組、杵島クレア、将来の選択肢をひろげるために来ました」


 何か女子から自己紹介する感じに成ってる、しかもショートカットの女子は夢の部分を無難な言葉でかわしている。


「えーっと、鴨ヶ浜高校1年2組、足立ダイキっす、自分の限界を試したくてきました」


 足立回復早っ。


「えーと高校もクラスも同じで、高林シュウト、子供の頃からダンジョンに憧れてました」


 畜生、一番ちょうど良い言葉を高林に取られた。

 

 皆の視線が集まる、どうする少しおどけてごまかすか? 

 駄目だ絶対滑る、でも時間が経てばどうしたって変な空気に成る。

 ああ、惨めだ、ただ冒険者に成りたかっただけか俺は?


「えーと次かが――」

「明松カナメです、最高の冒険者に成りました!!」











 


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