第2話 ロビーにて
初心者向けダンジョンツアーの目的は二つある。
主催者である冒険者ギルドは新人たちの死亡率や引退率を下げるため、そして参加する新人は安全に最初のスキルを得るためだ。
スキルの獲得方法は現在判明している時点で四種類。
ダンジョン内での行動によって身につく、ラーニング。
生まれ持った素質、ギフト。
誰にでも同じ結果をもたらす唯一の公平、オーブ。
そして一番簡単で一番不公平な報酬、リワード。
ダンジョンツアーで獲得を目指すのはリワードの初回討伐報酬、ダンジョンに入りモンスターを自力で一匹倒すとランダムでスキルが一つ貰える。
どんなスキルをどんな人が貰えるかはわからず法則性を見つけたらノーベル賞確実との噂だ。
ベテラン冒険者の中には、初めに手に入れるスキルがどんなに強い物でも逆にどんなに弱い物でも大成できるかは別の話だという人も居る。
まあでも実際強いスキルを引ければそれだけモチベーションは上がるわけで、人間くじ引きを引くときは大当たりを期待する物で、今日冒険者になったばかりの若者達は国営ダンジョンのロビーに集まり皆一様に浮き足だっている。
あのスキルが欲しいとか、こういう構成のパーティーが強いらしいとか、昼食を終えた成長期の少年少女は仲間内で楽しそうに話している。
一方昼食をあっさり目に済まし一番最初に集合場所に着いた俺はロビーの端にある観葉植物の陰になるベンチで一人情報収集に励んでいた。
受付横のパンフレットを読み込みこの国営ダンジョン正式名称国営
はい、俺も一人でしっかり浮き足だっています。
『はい、初心者向けダンジョンツアーの開始15分前に成りました、受付をまだ済ませていない人はすぐに受付に向かってください。えー今回のダンジョンツアーは6人ずつパーティーを組んで頂きギルド職員が引率します、パーティーを組めた方からこちらの職員にお声かけください』
受付の前に経つスーツ姿の職員がマイク片手にそう言った。
さて困った、好きな子同士でグループ作ってーの奴だ、え? この年でそんな決め方? 主催側が適当にグループ作ってくれよ、俺を一人にして先生と組ませないでくれ。
俺が観葉植物の陰から出てきた頃ロビーでは十数人がお互いを牽制しあっていた。
できるだけちゃんとした奴と組みたい、でもちゃんとした奴に声をかける勇気があればまずここまで残っちゃいない。
残っている中で一番大きな塊は男5人のグループ、後は地味目な男女がバラバラ多くて2人組。
5人グループに入ればあぶれる心配は無くなるがぶっちゃけその5人が明らかに運動部だ、知らない運動部5人の中に入るぐらいなら一人のほうがまだ居心地良さそうだ。
「あのさ、
5人グループがよそ者に気を使うタイプかそれともイジってくるタイプか悩んでいたら横から声をかけられた。
「ほら同じクラスの高林、俺も一人で来ててさ」
そこには見覚えがあるようなないような細身のめがね男子が立っていた。
「……残り四人はどうする?」
俺のクレバーな脳味噌は瞬時に二人組作っとけば最悪5人組に一人で入ることは無くなると判断した。
「今残ってるの俺たち以外男子二人に女子二人だろ、1人減って5人に成るだけだから大丈夫」
高林、何て冷静な男だ運動部の群れに入るのがすごく嫌なのが伝わってくる。
「その感じで行こう、早めに男子二人に声かけるか?」
「そうだなその方がって、おいあれ見てみろ」
「え?――」
そこには、運動部に話しかけに行く余っていた男子のうち一人。
それはあまりにもしょっぱい結果だったそこでどんな会話が有ったかは知らないが、声をかけた小太りの男子はぎこちなく運動部から離れ入れ替わりでもう一人の長身の男子が運動部と合流した。
「――しょっぺーな」
「ああ、あまり見てやるな」
「でも何かこっち来るぞ」
「え、うわ、まあでもそうか」
「あ、あのさあ、ここってまだ開いてる感じ?」
小太り男子は震える声で俺たちに精一杯の強がりを見せた。
なぜだろう、この男子は勇気を出し行動したそれに元から誘うつもりだったそれなのに何だか運動部達から駄目な奴を押しつけられた気分だ。
「うん、開いてる開いてる」
だが武士の情けだ俺はどれだけ恥を掻いても余り物には成るまいとするその姿勢を評価することにした。
「ん? 足立か?」
「え?」
「ほら同じクラスの高林に明松」
きっと高林に悪気はなかった、しかし足立に取っては俺たちは見ず知らずの他人の方が気が楽だっただろう。
気まずい沈黙が俺たちを包んで居た。
『はい、では残った方はこちらに集まってください』
言葉選べよ。
どう言いつくろうと残った方である俺たちはマイクを持った職員の前に集まった。
「1、2、3、4、5、あれ、もう一人……」
職員は困った顔で手元のタブレットを操作してもう一度マイクを使う。
『青葉さん、青葉チカゲさんいらっしゃいませんか』
「ううぇ、ひゃ、ひゃい」
まるで急に起こされて驚いたような声が、俺が座ってベンチの反対側の観葉植物の陰から響き渡った。
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