現代ダンジョン生産職

日歌月舞

第1章 長すぎる1日

第1話 冒険者ギルドにて

 第三次世界大戦が起きなかったのは地球にダンジョンが現れ、そこから溢れ出るモンスターの対処に金がかかったからだ。

 しかし大国が核開発競争を止める程恐ろしい未知の脅威も、利益に成るなると分かった途端人類は簡単に受け入れた。

 戦いを経て人を超人に変えるレベルアップに、魔法そのものを与えてくれるスキル、そして何よりダンジョンにはモンスターを含め無数の資源が眠っている。

 偉い学者が言うにはダンジョンが無ければ飢餓と戦争で21世紀は来なかったらしい。

 そんな小難しい事を理解出来ない5歳の頃ダンジョンの存在を知った俺は思わず家を飛び出そうとした事を今でも覚えている。

 両親に止められ大人にならなきゃ入れないと聞かされて、それでも空想と期待が膨らんだ。

 凶暴なモンスターを想像して、それを圧倒するため日々身体を鍛え、そんな自分にふさわしい武器なんかも考えた。

 自分の非力さも臆病さも忘れて、自分はいつかダンジョンを冒険して有名人に成る物だと信じていた。

 高校生に成った今人生そんなに甘くないとわかってはいるが、冒険への憧れと自分への期待が忘れられない。


 高校に入って初めての休日俺は世間では冒険者ギルドとか呼ばれる、国営ダンジョンに併設された立派な箱物施設、冒険者組合 緑守みどりもり支部の待合室でさっき受けた冒険者資格試験の結果発表を待って居る。


 試験自体は一般常識と先に昨日受けた学科講習を聞いていれば分かるような簡単な物だったが、発表の時間が迫るとだんだんソワソワしてくる正直ほぼ定員割れしていた高校の合格発表より緊張する。

 まわりには俺と同じ年頃の若者達がそれぞれのグループで楽しそうにお喋りしていて何だか一人でいるのが居心地が悪い。

 スマホをいじろうにもいまいち落ち着かず、天井から吊るされている液晶画面をじっと睨む。


『はい、えーただいまより試験の結果が画面に表示されます、受験番号があった方は先ほどの試験会場で番号通りに座って待機していてください』


 待合室の端っこでマイクを持った体格の良い中年男性職員がそういうと液晶画面に数字が並ぶ。


「あ、受かった」


 試験会場に戻るとポツポツと空席が目立っていた再試験を受けると成ると追加で3000円かかるらしいからそう考えると受かってよかったと心底思う。

 免許をなくすと再発行に時間がかかるとかそういう説明を受けて、また待合にもどされるあとは窓口で冒険者免許を受け取るだけだ。


明松かがりカナメさん、六番窓口へお越しください』

 スマホでネットニュースの見出しだけ流し読みして待っていると思ってたよりすぐに呼ばれた。

 窓口の担当は若く綺麗な女性職員で、優しそうな笑顔でカードを差し出す。

「こちらが冒険者免許になります。お名前やご住所が間違っていないか確認お願いします」

 親が持ってる運転免許とそんなに見た目の変わらないカードに目を通し、写真写りの悪さ以外に問題がない事を確認する。

「はい、だいじょうぶです」

「ありがとうございます。こちらは冒険者組合で受けられるサービスに関するパンフレットとなりますのでよくお読みください、隣にある国営ダンジョンで今日の昼1時半から初心者向けのダンジョンツアーが開催されます。冒険者組合は参加を強くお勧めしますが決して強制はしません。参加費は初回無料となっておりますのでご検討ください」

 女性職員は笑顔を消し真剣な表情で俺の目を見据えてくる。

 もとよりダンジョンツアーには参加するつもりだったので何の問題もないがここまで念押しされて断れる日本人がいるだろうか。

「そのダンジョンツアーの予約とかどこですれば良いですか?」

「こちらで予約できますよ、冒険者免許をこちらに乗せてください」

 女性職員は笑顔を取りもどしカウンターの上の機械を指差した、俺が機械の上に冒険者免許を置くと女性職員がパソコンを何度かタイプしてあっという間に予約が完了した。

「開始10分前には隣の国営ダンジョンのロビーに集合してくださいね、それではご武運を」


 冒険者ギルドを出ると時刻は11時45分、俺はスマホで冒険者免許の写真を撮り家族のグループチャットに「受かった」というメッセージと共に送る。


「コンビニ、ハンバーガー、ドーナツ、町中華」

 俺はチャットの返信が来るのを待たず、あたりを見渡し昼飯の品定めをした。

 成長期の食欲は家族への関心に勝る。


 コンビニは棚がガラガラ、ハンバーガーショップは予約注文でいっぱい、ドーナツ屋は棚がガラガラな上に長蛇の列、町中華は常連っぽい上の世代の冒険者でごった返していて入る勇気がわかない。


 気づけば俺は国営ダンジョンの壁にもたれてコンビニで買った塩スープの春雨をすすっていた。

 やはり冒険者は体が資本だからだろうか売れ残っていた物は低カロリーな物ばかりだった。


「さい先悪いな」


さっぱりとした柚子の香りがするスープを飲み干して俺は独りごちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る