第17話 ただ願わくば

「それでまず何に乗る? 花が乗りたいの乗っていいぞ」

「そう?じゃあまずは……あれかな?HP見た時から気になってたんだよね」

 花が指さしたのはいわゆる絶叫系。しかもただのジェットコースターじゃなく二転三転するやべーやつ。

「……悪いことは言わん。あれはやめとこう」

「なんでさ! 好きなのに乗っていいって言ったじゃん!」

「確かに言った。しかしさすがに……」

「もしかして兄貴、絶叫苦手?」

「な、何のことだ? 別に苦手じゃないし何なら好きな部類だがいきなりあれってのはさすがにちょっと早いと思っただけで別に平気だが?」

 怒涛の早口でまくり上げる。ちなみに普通に苦手である。

「じゃあ行こうよ」

「……はい」

 よし、いっちょ覚悟決めるか!


「キッつい……」

 あの後花の希望によりまさかのアンコールが入り、入園一時間にして早速精神のピンチである。

「兄貴大丈夫?やっぱり絶叫系苦手」

「平気だから!」

「そう?じゃあもう一回」

「噓ですもう結構限界」

「やっぱり、無理しないでよ」

 そうはいっても最愛の人を前に「ジェットコースター? 怖いから無理! 乗りたいなら一人で乗ってきて」なんて言えるわけないだろ。

「もう大丈夫だ、他に“絶叫以外”で乗りたいのあるか?」

「すごい強調するね。他に乗りたいものか……う~ん……」

「もしかして花、今日絶叫メインで来た?」

「うん、でも兄貴が苦手なら……」

「そういうことなら大丈夫、乗ってやるさ」

 正直結構無理するがこれも花の笑顔のためだ。

「けど兄貴苦手なんじゃ……」

「さすがに連続はきついけど点々となら大丈夫だよ」


 えー、全然大丈夫じゃありませんでした。

「きんもちわりぃ……」

 流石に一、二回は我慢したがまさか花がここまで絶叫好きとは。正直心が折れそうである。

「ねえ兄貴! 次あれ! あれ乗りたい!」

 まあこの笑顔が見れただけで死にかけたかいかあるってものだ。


 それから少し経ち、俺たちは少し遅めの昼ご飯を食べようとしていた。

「ところでどこで食べるんだ?少し遅いとはいえまだフードコートは混んでるだろうし、 適当に買って食べ歩きにするか?」

「そうしよっか、じゃあ私買ってくる」

「いいよ俺行ってくるから、なに買いたい?」

「……一緒に行く、こういう時は女の子を一人にしちゃだめ。ナンパされたらどうすんのさ」

「確かに花ならされかねんな、よし行こう」


 そうして昼ご飯を食べ終え、ぶらぶら歩いていた。

「次は何に乗るんだ?また絶叫か?」

「さすがに食べてすぐは乗れないよ」

 よかった、これでひとまず俺の命は助かった。

「兄貴こそ乗りたいのとかないの? 私ばっかり選んでるけどさ」

「俺が乗りたいものねぇ、正直遊園地自体来るの久々だから何がいいのかわからん。……シューティングゲームとかないの?」

「遊園地にあるわけないでしょ。他には?」

「ホントにいいよ、そもそも俺は花が楽しんでるのを見るのが一番楽しいし、花が選んでくれ」

「――っっそう、じゃあそうさせてもらう」

 そう言って花は俺の手を掴み歩き始める。よく見ると耳が少し赤くなっている。おそらく照れ隠しだろう。そういうところもまた可愛い。

 その後結局絶叫系に戻った。こうなるなら適当なのを言えばよかったと後悔しつつ何とか乗り切った。

「いや~楽しかったね! けどそろそろいい時間だ、次乗るので最後かな……最後に何乗る?」

「花が決めていいよ」

 ここまで来るともう無の境地を開いて逆に絶叫に対して大した感情を持たなくなっていた。だからもうなんでも来い、二回転でも急降下でも何でも来いってんだ。

「じゃあ最後は、あれ乗りたいかな」

 そう言って花が指さしたのは観覧車だった。

「観覧車か、別にかまわないがいいのか?」

「うん、むしろあれがいい。ずっと早く回ってたんだし最後くらいゆっくり回るのも悪くないじゃんって」

「そうか、じゃあ並ぼうか。早く並ばないと間に合わない」

「そうだね! じゃあ走ろっか!」

 そう言いながら花は手を引っ張る。

「マジか……」

「早く早く! 早くしないと間に合わなくなっちゃう!」

「ハイハイ、わかったから落ち着けって」


 同じようなことを考える人が多いのか観覧車は地味に混んでいたが、花がせかしたこともあって早く乗ることができた。

「ほら先乗って!」

「わかったから押すな、危ないだろ」

「はい、じゃあこれから長い空の旅が始まるということで、張り切っていきましょう!」「……花今日一日少し変だぞ。遊園地でテンションが上がってるなんてものじゃない、何かあるのか?」

「……兄貴はすごいね、私のこと何でもわかっちゃうね」

「そんなことねえよ。俺は花のことを理解したくて必死なくらいなんだからな」

「そっか、兄貴、私が今日ここに呼んだ理由、わかる?」

「……わからない。置手紙に書いてあった『話したい事』ってのもさっぱりだ」

「そうなんだ、まだわからないんだ」

「まだってなんだよ」

 さっきから花と目が合わない、何とか合わせようとしても目をそらされてしまう。

「話したいことってのはいっぱいあるよ。例えば日常のこととか部活のこととか特別なこととか沢山あるよ」

「けど今日話したい事、違う。伝えたいことは一つしかない」

「……なんだよ、その伝えたいことって」

 花は少し間をおいて答える。

「けどもしこれを、この気持ちを言っちゃったらたぶん、いや確実に兄貴に迷惑が掛かる。だからもし――――」

「花、俺が前に花の部屋で言ったことを覚えてるか?」

「……どれのこと?」

「俺は『花にかけられる迷惑なら大歓迎だ』って言ったんだ」

「――――っ!」

「俺はお前からかけられる迷惑なんて迷惑だと思わない。……だって俺は花のことを好きだから。好きだから無視されても、どんな風に思われても……嫌われても。俺はお前のことが好きだから迷惑をかけられたいし、かけてほしいって思うんだ。」

 言ってしまった。言うつもりなどなかった。というか考えないようにしていた。もし考えてしまったら、自覚してしまったら。受け入れてもらえないだろうと思った。それが怖くて無意識に考えないようにしていた。恋愛感情ではないと蓋をしていた。

 だけどもう恐れない。前を、花の顔を見てもう一度はっきりと言う。

「俺は花のことが好きだ、大好きだ。もちろん恋愛的な意味で。兄妹でこんなこと言うのはおかしいってわかってる。だけど気づいちまった。だから伝える。……俺と付き合ってください」

 そう言って頭を下げる。お辞儀の意味もあるが泣いてるのを見られたくなかった。思えば最近は泣いてばっかりだ。だけど俺は恥ずかしいと思わない。好きな人に告白して泣けるなんて最高じゃないか。少なくとも伝えられずに流す涙よりも、蓋をして隠し通すことよりも百万倍かっこいい涙だ。

「……兄貴」

 顔を上げる。花の顔を見ると花も涙をこぼしていた。

「なんで兄貴が言っちゃうのさ! 私が言いたかったのに、言ってふられようと思ってたのにさ……」

 花はぼろぼろと涙を流しながら俺に近づく。

「ずるい、ずるいよ。私のが好きだもん、私のがずっとずっと兄貴のこと大好きだもん……!」

 花は俺に抱き着いてわんわん泣いている。俺は黙って花の背中に手を回す。抱きしめながら考える。なんて幸せなんだろう。確かに俺たちは兄妹だ。だがそれがどうした。そんなもの関係ない、好きになってしまったんだから、それを止める理由になんかならない、なりえない。


 ただ願わくば――――このまま時が止まってくれればいいのに――――――。

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