第9話 放課後空いてる?

 アホ両親がイタリアに行ってから一週間が過ぎた。最初の方は色々と大変だったが、花と二人で分担しているということもあってある程度なれてきた。

「花、おはよ」

「おはよ、兄貴。すぐに朝ごはんでいい?」

「お願い」

「了解、じゃあ食べよっか」

「「いただきます」」

 考えてみると花はすごい。毎朝早く起きて二人分の弁当と朝ごはんを作っている。それもめちゃくちゃ美味い、旨いし上手いし巧い。このクオリティを毎日続けるのはそう簡単じゃないだろう。

「……なにさっきから人の顔ジロジロ見てんの、流石にちょっと恥ずかしいんだけど?」

「ごめん、花は毎朝偉いなと思って」

「ふぇ?」

「だって毎朝早く起きて弁当と朝食作ってさ、しかもすげー美味いし」

「……別にすごくなんて無いよ、料理作るのも割と楽しいしさ」

「それでもすごいって」

 ていうかこれを毎日食べることができるってめちゃくちゃラッキーなのではないか?

「そんなに褒めるようなことじゃないってば、けどありがと。って早く食べないと学校遅刻しちゃうよ!」

「ほんとだ、急がねえと」

 急いで支度をし、玄関に向かう。

「兄貴弁当持った?」

「持った、心配すんなって」

 花が作った弁当だぞ? 忘れるはずが無いだろう。

「はいはい、じゃあいってきます!」

「行ってきます」

「ほら何ゆっくりしてんの! もうすぐ電車来ちゃうよ!」

「ちょっとまてって、まだ大丈夫だから!」

「そんなこと言って間に合わなかったらどうすんの!」

 そう言って走る花を追いかけるように走り出す。

 結局が五分前にホームに着いたが、すでにもうヘトヘトだった。

「こんなに……急ぐことなかったろ……」

「早くつく分にはいいでしょ!てか兄貴体力なさすぎ、もっと運動しないとだめだぞ」

「俺はいいんだよ、別に体育会系なわけでもないんだから」

「それでもちょっと走っただけで息が切れちゃうのはどうかと思うけど」

 確かにごもっともだ。正論だ。だがしかし。

「俺、運動すんの嫌いだから」

「私は割と体動かすの好きだけどな」

「奇遇だな。俺もそう思う」

「手のひら返すの早くない? じゃあ今度一緒に走りに」

「お、電車来たぞ」

「ちょっと兄貴!」

 電車に揺られながらふと考える。最近花が明らかに近い、物理的にという意味もあるがどちらかといえば精神的にだ。具体的には両親がイタリアに行ったあたりから。まあコミュニケーションを取らなければいけないことも増えたし、そこそこちゃんと話し合う機会こそあったが、それにしても近すぎる。つい二週間前まで「話しかけないで」とか「こっち見ないで」とか言ってた人とは思えない。まあ俺にとって嬉しいことしか無いし別にいっか!

「兄貴何1人でニヤニヤしてんの気持ち悪い」

「ニヤニヤしてた?」

「そりゃあもうしてたよ」

「まじか、気をつけないと……」

 どうやら花のことを考えているときにニヤニヤしているっぽい。人に見られないようにしないとな。

 学校につき花と別れる。少しテンションを落としながら靴を履き替えていると後ろからやかましい茶色が声をかけてきた。

「おっはよー! 千春!」

「はいはいおはようおはよう。朝から元気だなオイ」

「そうかな? 割といつもこんな感じだろ」

「いつもそんな感じだから怖いんだよ、普通朝ってものは憂鬱だろうが」

「そう? 僕にとっちゃむしろ楽しいけどね、そういう君こそなんか嬉しそうだがなんかあったのかい?」

 やっべぇ顔に出てたか、意識してたはずなんだが。

「別にいつも通りですよ」

「いーやいつもの千春はなんていうかもっと『話しかけるなオーラ』が出てる」

「それを感じ取っているならなぜ話しかける」

「だって千春といるの楽しいし、てか僕が話さないと君マジで誰とも離さないでしょ」

「別に話さなくていいんだよ、ぶっちゃけ一人でいるの好きだし」

 あ、勿論花と二人のが好きですけどね。

「まったくそんなんだから僕以外に友達がいないんだよ、もしよければ紹介してあげ」

「要らん」

「返事早!」

「いらないもんはいらないだろ、それとも何か?俺がよろしくおねがいしますなんて言うと思うか?」

「絶対無い、君のことだからどうせ『面倒くさいから』とか『花と会う時間がなくなる』とかだろうけど」

「わかってんじゃねーか」

「そりゃ伊達に幼なじみしてませんから、千春だって私の行動パターンくらい読めるでしょ?」

「読みたくないんだけど」

「つまり読めてるってことじゃん」

「そりゃここまで一緒にいりゃあ思考の一つや二つくらい読めるようになるわ非常に残念ながらな」

「うん、千春って割と空気読めるのに読まないところあるよね」

「そんなん読むの人とつるみたいやつだけだろ」

「さすが千春、裏切らない。良くも悪くも想像を越えてこない」

「失礼な、まあおおむね事実だが」

「でしょうね、ところで君放課後空いてる?」

「いや急だな! ……まあ空いてないけど」

「なんだ今の間は、絶対に空いてるでしょ」

「せめて用件を言ってくれ。めんどくさい心理戦とかはごめんだ」

「今日部活無いからさ、折角だし遊びにいこうぜ」

「お前は部活無い日毎回誘ってくるな、友達いないの?」

「失礼な、少なくても君の十倍はいるよ!」

「0になに掛けても0なんだよ知らないのか?」

「0は無いでしょ0は、だって少なくとも僕がいるじゃない、それとも僕なんか友達じゃないってか?都合のいい女ってか?」

「どちらかと言えば都合の悪い女だろ……まあさすがに冗談だよ、友達ですよお前は」

「千春がデレた! まさか明日は大雪……?」

「デレたとか言うんじゃねえ気持ち悪ぃ、話はもう終わりか? だったら席に戻れ」

「いや終わってないから、結局放課後は空いてるの?」

「チッ、覚えてたか」

「そこまでアホじゃ無いよ、聞くまでもないけど今日遊べるの?」

「まあ暇だし遊べるよ」

「そういわずに......ってなんつった?」

「だから空いてるっつってんだよ」

「……千春やっぱり今日いいことあったでしょ?」

「うっせー」

「花ちゃんのこと? ほらほらお姉さんに話してごらんなさい?」

「誰がお姉ちゃんだ俺らタメだろうが」

「僕の方が早く生まれてるからお姉さんでいいんです~」

「なんだその極論、さっきもいったろうが別にいいことなんて無いし仮にあったとしてもお前には言わない」

「あっそ、じゃあいいや。それで今日どこ行く?」

「何で決めて無いんだよ、てかちょっとまて、一応花に確認とってからにするわ」

 そう言って俺はケータイを開いた。


 教室で日葵と話しながら授業の準備をしていたらケータイが鳴った。

「あ、電話だ、誰だろ」

 名前を見ると兄貴からだった。

「ごめん日葵、ちょっと電話」

「あぁ千春君から? 早くね~」

「え、なんで兄貴って」

「顔見りゃわかるよ、ほら。早く出てあげな」

「え、あぁ。うん」

 そんなに顔に出ちゃってた? ダメなのに。

 そう思いつつ電話に出る。


「もしもし?兄貴なんかあった?」

「いや、そうじゃなくって今日帰るの遅くなっても大丈夫か?」

「……別にいいけど何かあったの?」

「放課後出掛けることになった、申し訳ない」

「誰と?」

「鶫と」

「……ふ~~ん、そ。まあ兄貴他に友達いないもんね、行ってくれば?」

「花なんか怒ってるか?もしかして何か約束してた? 俺忘れてることある?」

「別に?何も無いので気をつけて行ってきてね?」


「千春さんなんだって?」

「別に?友達と出かけるから帰るの遅くなるって」

「ふーん、それで花はなんで不機嫌なのさ」

「別に不機嫌じゃないし、不機嫌になる理由がないし」

「花ってなんかめんどくさい彼女みたいだね」

「そんなこと……か、彼女!?」

「そ、帰ってくるのが遅れるとわかった途端不機嫌になったし」

「無いナイナイナイ! 第一兄妹だし、彼女だなんてそんなんありえないから!」

「よく言うわ、花お兄さんのこと話してる時めちゃめちゃ楽しそうだよ」

「それはそれ、そもそも兄貴だよ、実の兄妹にそんな感情わかないって」

「えぇ……まあ花がそういうスタンスで行くならいいけどさ、それいつか後悔するよ」

「……しないよ、だって本当だもん」

 後悔なんてするわけがない。そんなわけないんだから。

「花って本当可愛いよね」

「何急に!」

「ほんっと私が男だったら惚れてたよ、何なら女でも惚れる」

「いやなんでよ、私そっちの気無いんですけど」

「知ってるよ?冗談よ冗談。まあ男だったら〜ってのはあながち嘘じゃないかもね」

「怖」

「まあ花を恋人にするってのは無理だと思うけどね」

「なんでさ」

「お兄さんが怖い」

「あ〜〜」

 どうしよう、否定できないや。

「ときに日葵、今日って放課後空いてる?」

「空いてるけどさ、やっぱり花ってめんどくさい彼女みたいだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る