第8話 何より兄貴のために。


 追いかけっこも終わり、先輩の持ってきた入部届を書こうとした時だった。

「花さん、改めて聞くけど本当に大丈夫なの?確かに呼ぶのは月2くらいとはいえうちの学校兼部禁止だからほかの部活に入れなくなっちゃうけど」

「大丈夫ですよ、さっきも言った通りもともと部活をする予定なかったですし、二人とも優しそうなので」

「優しそう、か。俺は割と初対面の人には怖がられがちなんだが」

「そんなことないですよ、第一兄の選んだ人なので、そこのところは大丈夫です」

「え、花にそういってもらえるとすげーありがたい」

「はいはい、というわけでこれから一年間よろしくお願いしますね、タマ先輩!うらら先輩!」

「「その名前で呼ぶな!」」

「あとついでに兄貴」

「俺はついでかい」


 入部届を提出し終わり、帰る支度をしていたところにうらら先輩が見つけた。

「ところでなんで机に嘘発見器が出てるんだ?だいぶ前にしまったはずなんだが」

「それか?花ちゃんの体験用に使ったんだよ、ちょうどいいかと思ってね」

「それならいいんだけどよ、ちゃんと片しとけよなまったく、小学生からまったく成長してねえ……」

 そうぶつぶつ言いながらうらら先輩は嘘発見器を片付けようとする。

「いつも悪いね、助かる」

「ホントにそう思ってるのなら自分でやれよなまったく……」

 ……これは聞いていいのかな?

「えっと……タマ先輩とうらら先輩は付き合ってるんですか?」

「お前それは……」

「「付き合ってねーから!」」

「だいたい付き合うとしたらもっとまともな奴と付き合うっつーの」

「あ、それ助手君が言う?私こそなんだけど」

「お前それよく言えたな。こんな発明バカと付き合えるやついたら丸刈りにしてやるよ」

「言ったな!てかそっちこそできるわけないし、うららみたいな実験バカ」

「ンだとコラ、理系以外の脳みそが7歳で止まってるくせに」

「言ったな!お前こそ倫理観母親の腹に置いてきてるくせによ」

「ストップストップ!二人とも落ち着けよ、そうやってすぐ喧嘩すんのやめろや」

 兄貴が仲裁に入るが状況は変わらない。

「だってうららが私のことを!」

「だから名前で呼ぶなってさっき言ったばっかじゃねえかよ!」

「だから喧嘩すんな!」


「え~と、なんかごめんなさい。ちょっと調子に乗っちゃいました」

「別に花が気にすることねえよ。あいつらはいわゆる幼馴染なんだよ」

「つまり付き合ってはいない……と?」

「そういうこと……まあ怪しい話だが本当らしい。うちの三大七不思議の一つだ」

「それ七不思議じゃないじゃん……」

「別にタマと付き合ってるか聞かれんのはしょっちゅうなんだがよ、なんでみんな聞くんだろうな、別にそこまで仲いいわけでもないのによ」

「ね」

 二人は心底不思議そうにしている。

「「えぇ……」」

「お前らそれで仲良くないは無理があるぞ」

 兄貴が突っ込む、私もそう思う。

「まあ悪くはねえけどよ、恋愛感情かっつったらまた別問題なんだよな」

「そういうもんなのか?」

「じゃあ千春、お前の幼馴染いるだろ、えっと……」

「鶫のことか?」

「そう、お前そいつに恋愛感情持てるか?」

「なるほど、理解した」

「理解が早くて助かる、な」

「うん、私とうららはたぶん恋愛感情通り越してるんだよね」

「なるほど……」

「せっかくだし助手君と千春君も嘘発見器やってみる?今の嘘か確認するためにも」

「「嫌だ」」

「あらら、なんでさ面白いのに」

「見てる側はな、やってる側は地獄もいいとこなんだよそれ。前のこと忘れてねーぞ」

「千春に同じく、じゃあお前先にやれっつーの」

「ええ~じゃあまた今度でいいや」


 片付けも終わり帰る支度をしている時だった。

「まあ私たちがいるのもあと一年だけだけどさ、よろしくね」

「同じく、短い時間だがよろしくな、困ったことがあったら聞いてくれ」

「はい、ありがとうございます!」

「早速だけど花ちゃん今ケータイもってる? 連絡先交換しようよ!」

「持ってます、ちょっと待っててください」

「じゃあ俺もいいか?」

「もちろんですうらら先輩」

「だから名前……もういいや」

「白瀬が諦めた、珍しい……」

「だって仮にも後輩だし、何よりこの子に怒ったらお前どうなるかわからんし」

「悪かったな」

「じゃあ私も呼んでいい?」

 タマ先輩がうらら先輩に聞く。

「お前はだめだ」

「なんでさ!」

「当たり前だろうが……」


 そして帰り道、いつもより暗くなった道を兄貴と歩いていた。

「なんつーか、よろしくな」

「なんでさ」

「これから同じ部活の部員になるわけだろ、だからよろしくなって」

「何それ、そんなこと言われなくてもわかってるよ」

「ならいいんだよ。そういえば花、俺が来る前部長と嘘発見器で何してたんだ?さすがの部長でも初対面の人に変なことはしないと思うんだが……」

「別に大したこと……大した……こと」


『やっぱり君好きな人いるでしょ』


 あの時にタマ先輩から言われたことがフラッシュバックし、顔が熱くなる。

「……ん?やっぱ何かあったのか?」

「べ、別にぃ、なにもないよぉ……」

「絶対何かあっただろ、まあ言いたくないなら深くは聞かないけどさ」

 そんなわけない、あれは違うはずだ。たぶん故障だ。

「ホントに大丈夫だから、それより兄貴、帰りにスーパー寄っていい?夜ごはんのおかず足りなくなりそうなんだ」

「いいよ、じゃあ行こうか」

 うん。ちゃんと話せる、問題ない。大丈夫だ。

 もし仮にそうだとしても絶対に言えない、言ってしまったら兄貴に迷惑をかけてしまうから、だから。

 この気持ちは無かったことにしよう。忘れよう。封印しよう。

 私のために、そしてに。

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