第6話 三人かな
それから約4時間後、俺たち兄妹は晩飯を食べていた。最初の方こそ若干……いやだいぶ気まずかったがご飯を食べているうちにだんだん落ち着いてきた。
「あ、そうだ兄貴」
「どうした?」
「昨日のことで話があるんだけど」
……完全な忘れていた。否、忘れようとしていた。ていうかあれ俺悪くないよね?
「待ってくれ、あれはそもそもお前から頼んできたんだぞ」
「別に怒ろうとしてるわけじゃないから」
「それ怒る人が言うセリフじゃねえか!」
「ほんとにちがう! ちょっと書きたいことがあって……」
「聞きたいこと?」
「うん、その、昨日私のことをおぶったんだよね?」
「おう」
「その――――私重かった?」
……へ?
「なんだそんなことかよ、別に軽かったよ」
「本当?」
「本当だよ、正直ビビるくらい軽かったわ、もっと飯食え」
「なら良かった……」
女子ってなんでこんなに体重気にするんだ?
「てかむしろ軽すぎて心配になったわ」
「軽い分にはいいの!」
「あっそ。じゃあ俺も一つ聞いていいか?」
「……内容による」
「別に変なことじゃねえよ。お前毎朝どうやって起きてんの?」
「え?」
「いや昨日から気になってたんだよ、お前あんなに寝起き悪いのにどうやって起きてんのかなって……」
「別に大したことないよ、自然に目が覚めれば普通に起きれるの、起こされるのが苦手なだけ」
「なるほど、ってことは花毎朝目覚まし無しで起きてるわけ?」
「うん」
「すげえな、俺だったら絶対寝過ごしちまう」
「別に、もう慣れたし」
花はさも当然かのように答える。
「だとしても偉いな、俺には無理だよ」
「あっそ、けど兄貴なら私が起こせば一発で起きそうだけどね」
「絶対起きるなそれ、もしかしてやって」
「あげるわけ無いでしょ、冗談よ冗談」
「ですよね」
ていうかちょっと待てよ、つまり花を無理やり起こせばあの状態の花といつでも会えるということでは……いや人として駄目だろそれは。けど一応覚えておこう。
「それにしても花料理上手いな、すげー美味い」
「ありがと、けど別に大したことじゃないよ」
「んなことないよ、下手すりゃ母さんよりも美味いぞこれ」
「それは言い過ぎ」
「いや本当だってば、毎日食いたいぐらい……って毎日食えるのか最高かよ」
「……あっそ」
花は素っ気なくしているがめちゃくちゃ嬉しそうにしている。あれで隠しているつもりなのだろうか、可愛い。
「兄貴って私のことをすぐに褒めるよね」
「そうか?」
「そうよ、今だってそうだしいつもここぞとばかりに褒め殺すじゃない」
「別にすごいと思ったから褒めてるだけだよ」
「兄貴他の人にもそんな感じなの?」
「まず他の人とそこまで話さん」
「いやいや流石にそれは言いすぎでしょ、私以外にも話す人くらいいるでしょ?それこそ鶫さんとか」
俺が話す人か、花以外だと鶫と、部長と……。
「三人かな?」
「嘘でしょ?中学一緒だった人とかは?」
「中学は多分鶫としか話してないな、俺そもそも人と話さんし、もう二人も向こうから話しかけてきただけだからな。」
「嘘でしょ!兄貴ちょっとケータイ貸して!」
「いいけど」
そう答えると花は俺のケータイを開いてメッセージアプリを開いた。
「嘘でしょ?連絡先が六人しかいない……」
「だから言っただろ、ちなみに内訳のうち半分は家族だ」
「そんな堂々と言われても……いや、けど連絡先交換してないだけかも……」
「おい花お前何をして」
「確認を取る」
そう言って花はケータイを操作すると誰かに……と言っても花を除く1/5の誰かに電話をかけた。
「……もしもし! 君から電話をかけてくるとは珍しいね! どうした? 僕が恋しくなったかい?」
「あ、鶫さん、お久しぶりです。花です」
いや鶫かい! まあ消去法的にそれしかいないか。
「あ、花ちゃんか、さっきはゴメンね〜」
「大丈夫です、事情は兄貴からきいたので。そんなことより兄貴って学校で鶫さん以外と話してますか?」
「ん? 話してないよ〜、そもそも基本的に机で寝てるか昼休みもどっかに消えちゃうし、ここだけの話声を聞いたことがない人もいるレベルかな」
「そんなにですか?」
「うん、僕が他クラスだったら多分一言も喋らずに学校生活を終えると思う。」
「おいそれは言いすぎだろ、流石にお前以外のやつとも話したことぐらいあるわ!」
「じゃあ誰と?」
「それは……部長とか」
「え、部長?」
「クラスメート以外無しで」
「……担任」
「やっぱりいないじゃん! ほんとに僕がクラスメートで良かったね」
「うるせーよ、余計なお世話だ」
「つまり兄貴は友達がいないということでいいんですか?」
「いいよー、まあ安心しなよ花ちゃん、僕がついてるからさ!」
「それはもう本当にありがとうございます、では」
ピ――――
「……兄貴?」
「別に俺は友人に困ってないからな」
「それもだけど! そこじゃなくって、今部長って言った?」
「言ったけどどうかしたか?」
「兄貴部活入ってたの!?」
「あれ、言ってなかったか?」
「聞いてない聞いてない! 第一ずっと家にいるじゃん!」
「まあ名前貸してるだけでほとんど行ってないからな」
「知らなかった……」
「申し訳ない、さっきも言ったが入ってると言っても行って月二回くらい呼ばれて顔見せるだけのほぼ幽霊部員みたいなもんだからさ」
「だとしても普通入ったときとかに言わない?」
「そう入っても俺が高一の頃って花ほとんど口聞いてくれなかったし」
そう考えるとこうやって雑談ができるようになっただけでもすごいことな気がする。
「それは……ごめん。てか何部なの?」
「科学部だよ、まあ部と言っても実質部長と副部長の二人だけどな」
「二人だけ?」
「そ、うちの学校って部活作るのに最低三人は必要だからさ、それで名前貸してるってわけ」
「なるほど……けどなんで兄貴なの? 他の人でもいい気がするけど」
「曰く『部活動見学のときに一人で直帰ろうとしてたから』らしい。まああの二人も大概変人だから」
「変人って……それ兄貴が言う?」
「だって初対面でいきなり拉致られて土下座してきたんだぜ?」
「変人だ!」
「まあおかげで放課後なんか頼まれたときに言い訳にできるから俺も助かってるんだけどね」
「またさらっとそういうことを……」
「まあそういうわけだ、別に隠してたわけじゃないからな」
「それはいいんだけど、ほんとに行かなくていいの? 迷惑なんじゃ……」
「むしろたまに来てくれるだけでありがたいってよ」
「ならいいけど」
「ていうかあんまり行きたくないんだよな、別に二人ともいいやつではあるんだけど、たまに得体のしれないもの作ってるからなぁ……」
「得体のしれないものって?」
「最近だと小型爆弾とか作ってた」
「……それ法律的に大丈夫なの?」
「知らん、まあ二人とも危険物取扱者の資格持ってたし平気なんじゃね?」
「えぇ……」
「てかそのへんはまだいい方だからな、昔ネズミのクローン作って怒られてたし」
「なんでその人普通の高校にいるの?」
「二人共楽しめればそれでいいらしい、あとはちゃんとしたとこだと逆に止められるからって」
「なんかスケールが違うな……」
「そういうわけだからあんまり近づかない方が良いからな、ってか近づくな。いつ部室が吹っ飛ぶかわからんからな」
「流石にそんなこと……無いとは言い切れないかも」
「まあ学年違うから会うことはないと思うけどな」
「うん」
「じゃあこの話は終わりということで」
「そうだね。じゃあ兄貴、友達何人いる?」
「忘れてなかったか……別にいいだろ何人でも」
「何人?」
友達か……鶫は一応友達だろ、それと部長と副部長…………ってことは。
「三……人?」
「すっくな!てか連絡先の人数と同じじゃん! まあケータイ見たときから薄々感づいてはいたけども……」
「まあ別に困ってないし友達ってのは多ければいいってもんじゃないだろ」
「それはそうだけどさ、だからって三人は少なすぎるよ、私だってもう少しいるよ?」
「そりゃ花はいるだろうよ、俺と違ってコミュ力あるし」
「そんなこと無いよ、私は普通。兄貴がなさすぎるの」
「そりゃあ悪かったな、ただ俺は結構家に居たいタイプの人間だからさ、あんまり人付き合いが苦手っていうか……」
だって花と会える時間が短くなるしさ。いや言わないけど。
「兄貴がいいならそれでいいんだけどさ、いつか後悔するよ?就活とかってコミュ力大事って言うし、兄貴そういうの無理そう……」
「もしそうなったら養ってくれよ」
「嫌だ」
「おい本気にすんなよ。流石に冗談だからな、花に養ってもらうとか申し訳なさすぎて死ぬ」
「あっそ、じゃあ死なないように頑張ってもらわないとね」
「おう、ごちそーさまでした。美味かったよ」
「はーい、ありがと」
夕食を食べ終わり台所で皿を洗っていると花が話しかけてきた。
「そうだ、明日朝から学校でやることがあるから先行ってるね。朝ごはんとお弁当は台所に置いておくから」
「ん、りょーかい、ありがとな」
「はいはい、どういたしまして」
明日の朝は花いないのか……何気に二日連続だから寂しいが仕方ないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます