第4話 一級フラグ建築士
あの後痛みであまり眠れずに学校へ来た。朝起きると花と会ったが一切話すことなく先に学校に行ってしまった。花も俺と会いたくないと思い、電車を一本遅らせて学校に行った。
自分の席に座ると後ろから見慣れた茶髪がひょっこりと入ってきた。
「おっはよ〜。今日はいつになくギリギリだったね。なんかあった?」
「別に、ちょっと忙しかっただけだよ」
「あらそーなの、僕はてっきり何か面白いことでもあったのかと」
なんか隣でうるさいのは幼なじみの
「随分眠そうだけど徹夜でもしたの?」
俺は返答に迷う。まあ確かにこいつは幼なじみなだけあって両親ともそれなりに面識がある。だからと言って全部馬鹿正直に話すのはどうなのだろうかと。
「ちょっと家の事で色々あって、あんま寝れなかったんだよ」
「あっそ、ひょっとして花ちゃんとなんかあったんじゃ」
「なんか言ったか?」
余計なことを言われる前に被せて言う。こいつは昔からやけに勘が鋭いので変な勘ぐりを入れさせないようにするのが一番だ。
「おー怖、ってか授業始まっちまう、じゃね〜」
「あ、逃げんな」
そして放課後、例に漏れず一人で通学路を歩いていると後ろから背中をドン!と叩かれた。
「いったいな、誰?」
と言いつつこんなことする人には見当がつく。キレ気味に振り返るとそこにはニコニコ笑って背中をベシベシ叩く鶫がいた。
「やあやあ、一緒に帰ろうぜ!」
「……お前部活はいいのか?」
確か鶫はバレー部で部長をやってたはずだと思い出す。こいつバリバリ陽キャなのになんでこっち来てんだよ。
「今日は顧問がしゅっちょーでいないから休みなんだよね! っというわけで一緒に帰ろうぜ、千春」
「…………わかったよ、わかったけどさ、いい加減背中叩くのやめてくんない?」
「あ、悪い」
そう言うと背中を叩いていた手をサッと引いた。
「てか君こそ部活はいいの?最近全く行ってないみたいだけど」
「俺はいいんだよ、そもそも部活を成立させるために名前貸してるだけだし、元々ほとんど行ってないわけだしな」
というか来たいときだけ来ればいいという条件で名前貸してる訳だし。
「そっか、そういえば今日暇?暇なら僕と遊ぼうぜ」
「え、普通にやだ、断る」
「なんでさ!?」
「1,今日は数学の宿題が出ている」
「う……」
「2,わざわざ時間を削ってまでお前と遊ぶメリットがない」
「え!?」
「3,これが一番大切な理由なんだが、花と会える時間が短くなる」
「はあ!?」
「以上3つの理由から俺はお前と遊ばな……」
「ちょっと待った! まず1つめの宿題なんだけど、君昼休みに全部終わらせてたよね? もう課題無いよね?」
「ちっ、見られてたか」
「それと2つめなんだけど、こんな超可愛いJKとデートだよ? それだけでスーパーメリットだと思うんだけど?」
「それ自分で言うか?」
「言うとも、実際可愛いんだし、てか君もそう思うだろ?」
そういうと彼女はグイっと顔をちかずけて「どうだ!」とか言ってくる。落ち着け俺、表情を変えたら負けだ、平常心だ平常心。
「た、確かに客観的に見て可愛い方なんじゃないの?」
「だろ? じゃあなんで」
「んなもん花のが可愛いからに決まってるからだろバカか?」
「バカはお前だ黙れシスコン」
「シスコンだと?俺はシスコンじゃねえ! 純粋に花が可愛いと思ってるだけだ!」
「それを一般的にシスコンと言うんじゃないの?」
「全く違うね、そもそもシスコンってのは妹に対して強い愛着を持ったり依存したりしてるやつのことなんだよ。俺は違う、俺は花が宇宙一可愛いと思ってて花が幸せになるために生きているだけだ!」
「ハイハイスゴイデスネー、じゃあ3つめなんだけど……どこから突っ込んでいいかわかんないんだけど?」
「突っ込むところなんてないだろ」
「大有りだよ! なんだよ『花と会える時間が短くなる』って!?」
「正当な理由だろ、いいか? この世の中になぁ、妹と一緒にいたくない兄なんか存在しないんだよ!!」
「なんかすごい名言言ったみたいだけど実際ただのシスコン宣言だからね?」
「だからシスコンじゃねえって何回言えばわかるんだよ!」
「それはもう無理があると思うんだけど、まあいいや。とにかく遊ぼうぜ!」
そういうと鶫は俺の背中に飛び乗って来る。
「おいバカ! まじでやめろって!」
「遊んでくれるって言うまでどきませーん」
「クッソ、てかこんなところ人に見られたらどうするつもり……なん……」
「え?急に静かになっちゃってどうし……あ~~~~~あ」
振り返った先にはなんだか複雑な表情をした花が立っていた。
「え、兄貴、彼女?」
「えっっと花? これはそういうんじゃなくて……」
「ごめん、私先に帰るね」
「あ、ちょっと花!」
言い訳をする前に花は走って行ってしまった。
「ヤバイ、どうすりゃあ」
なんであそこまで逃げられたのかはわからない、けどやらかしたということはなんとなくとわかった。
「落ち着け千春、とりあえず君には一級フラグ建築士の称号をプレゼントするとして」
「要らねえよそんなもん、元はと言えばお前のせいじゃねえか。んなことより俺はどうすれば」
「そんなん自分で考えろよ、馬鹿なんか?」
「うっせぇ!とりあえず追っかけるしかないか?」
「わかってんなら今すぐに行ってこいこのアホ!」
「アホは余計だ」
そう答えると鶫に背中を叩かれ、俺は家の方向へと走り出した。
その背中を見て鶫が少し笑い、呟いた。
「全く、あんな鈍感な兄を持つと苦労しますな、花ちゃんも。羨ましいや」
その言葉は誰の耳に入ることもなく、風によってかき消された。
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