第2話 期待と不安

 衝撃の家族会議から一時間後、俺は部屋で考えていた。

「これからどうすりゃいいんだよ……」

 そう、簡単な料理や洗濯、掃除なら俺でもできる。ただそれをすべてやるのは無理だ。ただでさえ高校最後で忙しい中、それにプラスで家事をやるのははっきり言ってほぼ不可能だ。

 では花に半分やってもらう?それも厳しいだろう。俺は部活に入っているとはいえほぼ幽霊部員だから時間が大量にあるが、花はちゃんと部活に入るだろう。そして何より花に余計なことを考えてほしくない。

「もう俺が気合い入れて頑張るしかないか」

 そうだ、やってみれば意外と何とかなるかもしれない。というか今はそう考えるしかない。

 そんな風に悩んでいると部屋のドアをコンコン、と叩く音がした。

「兄貴、今大丈夫?」

 ノックしたのは花だった。俺は急いで部屋を見渡す。

(変なものは……無いな!よし。)

「おう、大丈夫だぞ」

 そう答えると花は「お邪魔しまーす」と言って部屋に入ってきた。

 花が俺の部屋に入るのなんて数年ぶりで、思わず緊張してしまう。

「き、急にどうしたんだ?」

 多少吃りながら聞くと花はゆっくりとその場に座りながら答える。

「ねえ兄貴、お母さんたちが行ったあとどうするつもり?」

「どうするって、何を?」

「そんなのいろいろよ、家のこととか」

「あ、そういうことか。とりあえず俺が全部やる予定でいるから安心」

 しろ。と言おうとしたときだった。

「そういうのいいから。兄貴今年三年でしょ?勉強忙しいよね?」

「まあそうだけど、お前だって部活とか入って忙しくなるだろ?」

「入らない」

「……へ?」

「だから部活には入らないから。一応だけど家事をやるためじゃないから。元々決めてたことだから」

 だから気にしないで、と言うがそれでも「ならよろしく」と言えるほど甘える訳には行かない。

「それではいそうですかとは言えないよ。第一お前は運動神経いいんだし、手先も器用だし可愛いから絶対やった方がいいと思うんだけど」

「そんなの私の勝手で……てか可愛くないし、部活と関係ないし」

 花は小声になって否定した。

「いや関係あるね。可愛い方が圧倒的に特だ。それに花は愛嬌があるからコミュニケーションがとりやすい、なんつーか話しかけやすいんだよ。あと花は可愛いからな。それは否定しない。花は可愛い、うん。」

「可愛い可愛い言うな!!」

「いや実際可愛いし。てか俺がそこ否定するわけないだろ」

「ぅ~っさいバカ! 死ね!」

 花は真っ赤になって悶えている、それもまた可愛い。

「~~っとにかく、私部活には入らないから、いい?」

「まあいいけど、もし入りたくなったら気にしないで入っていいからな?」

「うん……ってそんなことより、どうすんの!?」

「どうするって何を?」

「なんで忘れてんのよ。お母さんたちが行ったあとどうするかって話でしょ!」

「あ、そうだった」

 花が可愛すぎて忘れてたぜ、マジで。

「だから俺は全部一人で良いって言ってんだけど」

「それはダメだってば、せめて少しくらい振り分けて!」

「えぇ、しょうがないなぁ」

 そう言って俺は部屋の奥からホワイトボードを取り出すとそこに書き始めた。

「……よし。かんせーい、これでいいか?」

「どれどれ?」


俺→料理、洗濯、掃除

花→皿洗い


「どうだ! って痛い痛い!!」

 花は俺の髪の毛をつかんでそのまま引っ張ってきた。

「ちょっとまじで痛いって!なに考えてんの!?」

「それはこっちの台詞よアホ兄貴!何よ皿洗いだけって、ほとんどないのと変わらないじゃない!」

「そうか?じゃあ風呂掃除も……」

「変わらない!」

「えぇ……てかそろそろハゲるから髪引っ張るのやめてもらっていいですか?」

「あ、ごめん」

 そういうと花はつかんでいた髪の毛をパッと放した。

「じゃあどうすればいいんだよ?」

「もうちょっとまともなものをやらせてよ!」

「まともなのって、じゃあ花はなにやりたいんだよ?」

「じゃあ……洗濯かな?」

「わかった、じゃあ花は洗濯、俺はそれ以外ってことで……」

「なんで他のがなくなってんのよ」

「そんなの洗濯してもらうからに決まってるだろ」

 当然だろ?とでもいいたげな俺に花はさらに呆れたように返した。

「…………もういいや、せめてどってかだけでもやらせて」

「逆になんでそんなにやりたいんだ? 正直めんどくさいし今までやってた訳でもないだろ」

「いやそれは……その、えっと」

「なんでそんなにハギレ悪いんだよ、もっとはっきり言え」

「あう……えっと、そう! 心配だから、兄貴に任せると心配だから!」

「酷くない?」

「うっさいバカ」

 まあ理由を聞けただけで良しとするか、となると下手に難しいのだけ俺がやるのはダメだろうし、かと言って花にやらせるのは気が引ける。

「じゃあもういいわよ、私が料理と洗濯するから兄貴それ以外やって」

「多くないか?俺どっちかやろっか?」

「いいよ、兄貴料理してんの見たことないし、洗濯物見られたくないし」

「それもそうか、じゃあそれでいこっか」

「了解。じゃあ私お風呂入ってくるから」

「おう」

 そう言って花は部屋から出ていった。

 そして俺は三日後から始まる花との二人暮らしに対して期待と不安を感じながら、ホワイトボードを片付けた。

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