第31話 集結
~第30話までのあらすじ~
2028年3月4日(土)
窓からの光で、響は目を覚ました。
(朝起きて近くに誰もいないのは、久しぶりな気がするな...)
短いようでとても長かったこの2日間は、
響は大広間の隅っこにあった洗面台で洗顔をしながら、俯瞰の書について考えていた。
昨日リリーに貸してもらった俯瞰の書は、最後まで読むことができずに返すことになった。そのため響は、オーナーが選択できる3つ目の未来「俯瞰の占い帳を使用する」についての詳細な部分をまだ知らないのだ。それがどこにあるのか、どのように使用するのか。以前、
(...にしてもお腹が減った)
そして響は、天井を見上げて叫んだ。
「あいりさん、おはようございます!響です!朝ごはんを所望いたします!」
するとまた、昨日と同じように朝食セットが現れた。
「ありがとうございます!いただきます!」
そう言って響は席につき、焼き立てのトーストから食べ始めた。きっとあいりは、響が目覚めたのを合図に、ご飯の準備を始めてくれたのだろう。あいりには感謝しかない響であった。妹を
朝ご飯のあとの歯磨きを終え、響はベッドでごろごろしていた。ベッドだけは消さないでここに置いたままにしてくれるのも、大広間で1人暇している響に対しての、あいりの優しさだろう。
(あー。永久野たちは何してるかなー)
仰向けで天井を眺めてそんなことを考えていたときだった。
「響、おはよう」
いつの間にか、すぐ近くにリリーがいた。彼女の少し後ろにはあいりも立っている。
「おはよう...ございます」
リリーは大広間の中央に向かって歩きながら響に尋ねる。
「所有権の渡し方は思い出した?」
「...いいえ、まだです...」
響もベッドから降り、そろりそろりと彼女たちの後ろについていく。
「そろそろ思い出してくれないと、もうあまり時間がないの」
「すみません」
そしてしばらく沈黙が続いた。やがて口を開いたのはリリーのほうだった。
「ま、いいわ。私思うの。誰かが所有権を持つ人をこの世から消し去れば、その人に所有権が移るんじゃないかって」
響はぞっとした。この世から消し去るということは、つまり...〇される!?
「あいりちゃん、そいつを抑えてて」
組織のトップの命令に従い、あいりが一歩一歩、響へと向かってくる。体格差は歴然。
あいりの影が響にかかり、響は目をつぶって覚悟した。
(やられる...!)
ところが、あいりの声が聞こえて響はふたたび目をあけた。
「私、そんな話は聞いていません」
(...え?)
響が彼女を視界におさめると、彼女はリリーを向いていた。
「この組織に入ったのは、4次元の世界に戻してもらうためです。人を○すつもりはありません。」
「な、なんですって?そうしなきゃ、あいりちゃ...あなたたちは4次元に戻れないのよ?」
「...それなら私は、4次元に戻るのを諦めます」
そういってあいりは、響の肩に手を乗せた。響は彼女のおかげで助かったのだ。一方のリリーは「え...そんな...」と、何かを失ったような表情で立ち尽くしている。
「あいりさん。助けていただいて、本当にありがとうございます」
響はあいりを見上げて礼を言った。あいりは響に優しく微笑んだ。ところが。
「...まだよ。私と勝負しなさい、福田あいり」
リリーはあいりをまっすぐ睨みつけていた。
「私が勝ったらさっき言った通り、そいつを床に押さえつけて。あんたが勝ったら、私はそいつを諦めるわ」
これは
だがこれはあくまで提案されただけ。考えてみればこの内容は、あいりにとって不利である。わざわざ勝負に乗らなくても、リリーを諦めさせることくらいなら、オトナであるあいりにとっては容易いことだからだ。
しかしあいりの返答は予想とは違った。
「いいでしょう。受けて立ちますよ、リリーさん」
「
2人が契約を交わすその時だった。
「待ってください!」
響とあいり、そしてリリーが声の主のほうを向いたのは同時だった。
そこに立っていたのは永久野である。
「...なんであんたたちがここにいんのよ」
リリーは3人を睨みつけている。しかし伊奈瀬は臆せずに言う。
「茶緒っていう子がこの施設に入れてくれたの。それに、ね」
伊奈瀬は響にスマホの画面を向けてニコニコしている。やはりGPSのアプリが役に立ったようだ。
「茶緒...糸葉を見ててって言っただけなのに...」
「私、ちゃーんと糸葉ちゃんのこと見てましたよぉ」
この声は...茶緒!!
気づけばリリーのすぐ後ろに立っている。そして彼女の近くには...
「糸葉!!」
「おにいちゃーん!」
国見兄妹、バグ調査組織RGBの大広間にて、5日ぶりの再会である。糸葉は響に向かってスタートダッシュを決め、そして響に飛びついた。
「響くん、糸葉ちゃんとの感動の再会ですね!」
「よ、良かったわね」
「私も...あれやりたい...」
永久野が言った「あれ」というのは響に飛びつくことだろう。
「ちょ、あい!...それは私も同じよ」
「おふたりとも、響くんが本当に大好きなんですね!」
「好きじゃない!」「大好き!」
伊奈瀬と永久野の声が被った...が、どうやらその内容は真反対のようだ。
茶緒はその場でしゃがみ、リリーと目線を合わせた。
「ねぇ、リリーちゃん。私たちを4次元に戻すために響くんを使うから、とは言っていたけど、本当は違う目的があったの?」
確かに、あいりが「4次元に戻ることを諦める」といった後で、それでもリリーは響から所有権を奪おうとした。リリーには何かほかの目的があってオーナーになろうとしているのだろうか。
「な、ないわよ。あんたはまだ、元の世界に帰りたいって思ってるかもしれないじゃない」
所有権を諦めるのは、茶緒の意見も聞いてから、ということだろうか。しかし、リリーは動揺している。あいりもそれに気づいたようだ。
「リリーさん、何か隠していることがあるみたいですね」
その内容とは裏腹に、とても優しい声だ。
「別に...そんなこと...」
しかし、この状況を傍から見れば、オトナ6人&響 vs リリー。リリーは目の前に立ちはだかる大きな壁を、過去に見た光景と重ね合わせていた。
(私...何でまた...いつもこうなっちゃうの...)
あいりは茶緒の隣にしゃがみ、リリーの目を見て優しく言った。
「もしよろしければ、教えていただけませんか?リリーさんのこと」
あいりと茶緒のまっすぐな視線に促されるように、リリーは静かに話し始めた。
小ネタ)
伊奈瀬たちはアパートで作戦を立てていましたが、次の日の早朝に茶緒がアパートまで迎えに来てくれました。アパートの位置は施設にいる糸葉に教えてもらったようです。そのおかげで伊奈瀬たちは施設の中にまで入り込むことができたのです。
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