第29話 第3の選択


~第28話までのあらすじ~

 響はリリーから俯瞰の書を預かり、所有権の譲渡方法を探るため読み進めた。そこに書かれていたのは、響には想像もつかなかった、驚愕の事実ばかりであった。

 そして響は続きが気になり、読んではいけないとリリーに言われた後半を読むことにした。オーナーの役割と運命とは一体...?


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・・・

所有者オーナーは1週間 世界を所有する 

それにより 理想とする世界を作り上げることができる

・・・

所有者オーナーが選択できる未来は 3種類が存在する


選択1:何事もなく1週間が経過するのを待つ

    自らに所有者オーナーとしての役割を果たす意思がないことを示す選択である

    この選択をした場合 所有者オーナー自身は4次元へ転移する

    契約時に転移した者は 元の次元に戻る


選択2:自らが所有者オーナーであることを他言する

    所有オーナー者は守秘義務を持っており それを破ることは禁忌に値する

    この選択をした場合 全世界のバグに関する記憶および記録が消失する 

    所有者オーナーに兄弟がいれば姉弟が4次元へ転移し いなければ自らが消滅する


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理想の世界?とんでもない。

響は今、禁忌を犯すか犯さないかの、取捨選択を迫られている状況ではないか。


...3種類の未来が存在する?


すぐに続きを読む。


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選択3:俯瞰ふかんの占い帳を使用する。

    所有者オーナーが理想の未来を実現するための選択である。

    詳細な手順を後述する。

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(オーナーが、理想の未来を実現...)


 伊奈瀬いなせ永久野とわのに初めてであったとき、2人は俯瞰シリーズについて響に教えてくれた。聞いていた通り、俯瞰の占い帳というものは存在したのだ。しかも、こんなに重要な道具だったとは。


 響の目線が次に移ったその時だった。


「続き、見ちゃダメって言わなかった?」


 響の真後ろから声がした。それもずば抜けてトーンが低い、猛烈に不機嫌なリリーの声が。

(やばっ!後半部分読んでるの、バレた...)


「あ~あ。読んじゃったんだね、3つ目の選択肢のこと。それ読んじゃったら、君、所有権手放さなくなるでしょ?だから読まれたくなかったんだよね」


 そう言われて響はハッとした。確かに、さっきまではオーナーの座を譲ることに何の抵抗もなかった。そもそも俯瞰の書を渡されたのは、所有権をリリーに譲る方法を思い出すためだ。

 でも今は違う。3つ目の選択の存在を知ったとき、響は俯瞰の占い帳のありかを頭の中で探していた。理想とする未来————糸葉とも永久野たちとも一緒にいられる未来を実現するために。


「ま、いいや。所有権を渡す方法を思い出してもらうことの方が大事だからね。それに、こっちにはあいりちゃんがいるし。君がどうしても所有権を渡さないっていうなら、しょうがないよね」


(え、ちょっと待って?なんか強引なことされそうだけど...結局そのやり方はわかりませんでしたし...)


「で、教えて?私がオーナーになるための、その方法」

「いや、だから..その...え~とですね...」

「しらばっくれるつもり?ならあいりちゃん呼んでこようかな」

(だから!わかんなかったっつーの!)

響はどうこたえていいか分からず、沈黙を続けていた。


 しばらく睨み合い、とはいっても一方的に響が睨まれていただけだが、やがてリリーは俯瞰の書を指さして言った。

「わかった。今日は勘弁してあげる。でもそれは返して」


(助かった~~~!続きが気になるけど、背に腹は代えられない!ここは大人しく返しておこう...)


「じゃ、また明日」

そう言ってリリーは、俯瞰の書をもって大広間から出ていった。



(...お腹へった)


 俯瞰の書によほど集中していたのだろう。大広間の壁の高い所に1つだけある窓から見えるのは、すでに真っ暗になった空だった。


 そろそろ夜ご飯が食べたい響が大広間を徘徊し始めて間もなく、中央付近にポンっと現れたのは、テーブルと机、そして出来立てのハンバーグ定食だった。ハンバーグの近くには太めのポテトもついている。おいしいやつだ。ドリンクはメロンソーダ。響の大好物である。トレーには、ハンバーグのプレート、白米、サラダやスープが乗せられているが、それだけではなかった。プレートの下にはさんであったのは、1枚の小さな手紙である。


開いてみるとこう書いてあった。


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響くんへ


  よかったら食べてください。糸葉ちゃんは元気です。


                        RGB副リーダー 福田あいり

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 丁寧で簡潔な手紙。糸葉が無事だとわかってなかったら、たぶん号泣してる。

 響はあいりを見たことが無いが、すでに彼女のことが好きになってしまった。響はとっくに俯瞰の書のことも忘れ、福田あいりという人ががどんな人かを想像しながらハンバーグを口にした。


(...チーズインじゃないか!!)





小ネタ)

 福田あいりは優しい人のようです。彼女は、糸葉と響が連絡を取り合っていることを知らないので、手紙を書いて、響を安心させてあげたかったのかもしれませんね。


 そして本話で29話。本作の略称「ハンバーグ」はニクが重要ということもあり、物語的にも重要な回になりました!

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