第22話 再会

~第21話までのあらすじ~

 チューリップ庭園、ゲームセンター、そして夜の時間。響(ひびき)は3人と一緒に過ごす時間を、思う存分楽しむことができた。


―2028年3月2日(木)―


 午前10時。

 響、伊奈瀬いなせ永久野とわの衣央いおの4人は、王那のいる神社の鳥居の前に来ていた。何か用事があったわけではない。ただ響が王那おうな美心みこに会いたかっただけである。本当は昨日から学校に行くべきなのだが、時間切れタイムリミットのこともあり休んだ。ちゃんとハルヤに連絡済みだ。

 

 鳥居の前に来ると、この前と同じように美心が現れ、出迎えてくれた。

「響くん、伊奈瀬さんに永久野さん、それから衣央さん。よくいらっしゃいましたね。王那様がお待ちですよ」

 やはり彼女は、伊奈瀬たちの名前も知っていた。でもその理由は、今の響にはわかる。俯瞰ふかんの間で3次元世界を見ている王那から、響周辺の話を聞いているのだ。


「さあ皆さん、私の身体に触れてください」


(え!?いきなりどうした美心さん!?)


 響は唐突な美心の発言に驚いた。美心が言うには、3次元世界と4次元世界をつなげるこの鳥居をくぐるときに、神職に仕える美心に触れている必要があるらしい。美心に触れないでくぐっても、その先は4次元ではなく、いつも通りの神社になるそうだ。

 とはいえ、響はオーナーなのでその必要はないが、一応美心に抱っこされて鳥居をくぐった。途端に静寂が訪れる。


「すごい...本当に4次元とつながってるんだ...」

「あの本に書いてあった通りね」

「ヤヌさんと美心さんも、昔ここに来たんですね」


衣央の言葉に、美心の身体が少し反応したように見えたのは、気のせいなのだろうか。



そして美心を含めた5人は、これまた前回と同様に神楽殿かぐらでんの前に来た。

「参りました、王那様」


そして扉がガラッと...

あれ?


 数秒後ゆっくりと扉が開いて、目をこすりながら出てきたのは王那だった。長めの髪の毛は四方八方に向いている。どうやら、朝は遅めらしい。

「ちょっと今から▽×%@...」

そう言って王那は奥の部屋に戻っていった。美心も何を言っているかわからなかったようで、「いまなんて言ってたかわかりますか?」と響たちに聞いていた。



「待たせたなー!」

 「用事がある」と言い、美心が神楽殿から出ていってから数分。彼女が入れてくれたお茶を響たちがすすっていると、奥の部屋の扉がガラッと開き、さっぱりした王那が現れた。さっきまで着ていた派手な柄の寝巻とは違い、この前と同じ神様っぽい着物を着ている。相変わらず、ギャップが魅力的な少女なのである。

「王那様、初めまして。角末かくすえ伊奈瀬です。」

科戸しなと衣央です。よろしくお願いします!」

「アッ、えと...永久野あいです!ひーく...響くんの友達です!」

「あぁ、王那だ!知っていると思うけど、私と美心は前に響と会っているぞ!」


このまま和気あいあいとした雰囲気で親睦しんぼくが深まる、と思っていたのだが。

「えぇ、そうみたいですね。杉野ヤヌさんにつらい思いをさせたのも、あなたらしいじゃないですか」


(...え~!伊奈瀬~!一番けんか売っちゃいけない人にそんなこと言う~!)


「...ぁあ?」

(ほらぁ!やっぱり王那さんめっちゃ怒ってる~)

王那の目は鋭く伊奈瀬を突き刺している。これには伊奈瀬も少しひるんだが、彼女は止まらない。


「わ、わざわざみんなの記憶を消しちゃうなんて、あまりに残酷すぎますよ!時間切れだって、もう少し伸ばしてあげてもよかったじゃないですか!」


(やめろ伊奈瀬!!それ以上言ったら...!)

それ以上言ったら王那がぶちぎれる...かと思われたが、彼女は装飾のある例の豪華な椅子に、ゆっくりと腰を下ろし、一呼吸おいて、落ち着いた感情で言った。


「出来なかったんだよ」


「えっ?」

王那に似合わぬせりふに、場は静かになった。


「私にはそれが出来なかった。彼らの記憶を残してあげたくても、オーナーのもつ時間を増やしたくても、それは私には無理なんだ」


「それは...どうして...」

永久野は静かに尋ねた。


「バグが起きたのは、世界の半分の所有者が変わったからなのは知ってるよね」

響たちがうなずくのを確認し、王那は続ける。

「それはつまり、私が所有する世界とそのオーナーが持つ世界は全く別ということなんだ。バグが起きたのは新しいオーナーの所有する世界だけど、私が思うようにできるのは、私が所有する世界だけ。だからどうすることもできなかったの。」


 響は理解した。バグが発生している部分はすべて、ヤヌや響のような新しいオーナーが所有する世界の一部なのだ。王那が動かせるのは、自身が管理する世界だけ。


 王那は直接言ってはいなかったが、きっと彼女自身もヤヌや美心を助けたかったのだろう。



 少しの沈黙のあと、伊奈瀬は王那に言った。

「ごめんなさい!何も知らない私がひどいこと言って、本当にごめんなさい!」


「すみませんでした」「ごめんなさい」「ごめんなさい...」

響、衣央、永久野も伊奈瀬に続いて謝罪した。


 王那は伊奈瀬に近づき、自分より背が高い伊奈瀬を抱きしめた。

「気にしないでいいぞ。それよりも響のことを心配してやってくれ。今頃時間切れタイムリミットが近づいてきて焦ってるんじゃないか~?なあ響~!」


暗くなってしまった場の空気を戻そうと、王那は元の調子に戻って響に振った。

「いや~まじやばいですよ~!オーナー、え?所有者?

あ、所有者なのに自分が持ってる世界のことわからないんですか、状態ですよ!」

「アハハッ!そうだぞ響!この数日、バグに振り回されてばかりじゃねーか!」

すっとぼけた響に対しても笑って返してくれる。やはり王那は悪い人ではないのだ。



小ネタ)

 神楽殿へ向かう途中、衣央の言葉に美心の身体が少し反応したのは気のせいではなく、「ヤヌ」という名前を聞いたからである。ヤヌが禁忌を犯すときに記憶が消去され、美心はヤヌのことを覚えていないが、神職についていることで「聞き覚えがあるような...」程度にまで記憶が回復している可能性がある。

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