第17話 今日は遊ぶ日(1)
~第16話までのあらすじ~
響たちは残された時間を満喫するため、アパートから数分のチューリップ庭園に来ていた。
お腹もすいてきた頃、4人は松林で囲まれた庭園内のカフェに来て、アフタヌーンティーを楽しんでいた。
「おふたりは、どのような関係なんですか?」
スコーンを手に取り、
「私たちはね、小さい頃からの幼馴染なの。4次元にいたときから。」
伊奈瀬が答える。
「私もあいも、小学校に入学する前のことは記憶にないんだけどね」
そうか。4次元にいたときから2人は仲良しだったのか。
響は少し疑問だったのだ。4次元から3次元に来たばかりなのに、
響は
「衣央さんはどうですか?」
「私も実は、それくらいまでの記憶がなくて...」
衣央は遠慮がちな声で言った。記憶がないのは、3人の年齢からして、10年ほど前のことだろう。響は食べかけのスコーンを置き、紅茶をすする。
「...そうですよね。言われてみれば、オレも覚えてるのは買い物カートひっくり返したことくらいで...」
「あぁ!それ私もやったことある~!」
永久野さんはやんちゃな小学生だったようだ。
「しかも最近!!」
...やんちゃな高校生だった。
それからは4人でいろいろな話をした。趣味や好きな食べ物などの定番なものをはじめ、4次元と3次元の生活の違い、3次元の世界に来てから何をしていたのかなど、今回のバグに関連するものも話題になった。ティーカップの中の紅茶が冷めても、全て飲み切ってしまった後も、4人の会話は尽きることなく、やがてこの庭園の閉園時間を迎えた。
間もなく日没である。
庭園で過ごした、夢のような4人だけの時間。みんなまだ、この余韻に浸っていたいのだろう。アパートに帰りたい、という人はこの中にはいなかった。
そして響は知っている。この近くに、楽しい場所があることを。
というわけで、庭園からわずか3㎞。
響たちは、全国からプロが集まるゲームセンターに来ていた。
このお店は6年前、つまり2022年の終わりごろに大型改装が実施され、それ以来、響はクラスメイトとともによく訪れるようになった。もちろん糸葉と来たことも多い、響の得意とするゲーセンである。
中に入った瞬間、体中で感じるゲーセン特有の喧噪(けんそう)。日常から異世界へ、自分の足で踏みいれたようなワクワク感。どこからともなく聞こえてくる「景品、ゲットされました~!」という機械音。
幾度となくここに足を運び、クレーンゲームの修業を積んできた響ですらも、この心臓の高鳴りは抑えられないのだ。
伊奈瀬、永久野、衣央の3人は、空間に広がるゲーム機の輝きに負けないくらい、目を輝かせている。響はそんな3人に、それぞれ千円札3枚を渡した。彼女たちと過ごす時間の楽しさを考えれば、微塵も惜しくない投資である。だが、これ以上渡してしまうと、逆に狂人の目で見られると響は思い、足りなくなればまたあげるシステムへ移行した。
クレーンゲームには種類があり、9割実力の橋渡し設定、確立機と呼ばれる3本爪設定、タイミングよくボタンを押すトライポッドなどがある。響が得意とするのはもちろん、橋渡し設定だ。大型改装によりこの店舗にも導入され、それから6年、響は腕に磨きをかけてきた。常連の域に達するほどに。
小ネタ)
庭園での4人の会話はたあいのないものにも見えますが、実はこの物語の重要な要素が隠されています。
本話で登場したゲームセンターもモデルがあり、実際に2022年に大型改装が行われました。
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