第9話 糸葉の安否

~第8話までのあらすじ~

 王那から「オーナー」であることを宣告された響は、バグの正体を知ることになった。バグが起こったきっかけである自然石のある場所へ、糸葉と一緒に行こうと思い一度家に帰るが、家の明かりは消えていた。



 玄関の鍵はあいたままだ。何か悪い予感がする。いつもなら、玄関のドアをあければ「おにいちゃん、お帰り!」と駆けつけてくれる、糸葉...

 慌てて部屋の明かりをつけ、不吉の前兆のような寒気とともに、認めたくない事実を目の当たりにする。


 糸葉がいない。


 夜遊びをするような子ではない。帰りが遅くなるときは連絡をくれる。そうだ、スマホ。響は慌ててスマホを開き、確認する。


 ...1件の不在着信!!糸葉からだ!えーと...1時間前。沈み切った心に希望の光が差した。

 急いで折り返しの電話をかける。落ち着け響。呼び出し音より心臓の音のほうが大きいではないか。


 そして、電話はつながった。

「あ、もしもしおにいちゃ~ん??」

今朝聞いたばかりの声じゃないか。それなのに、こんなにも嬉しいなんて。響は糸葉の呼びかけに返事もできず、安堵からその場に崩れ落ちた。

「ちょっとおにいちゃ~ん、なぁに泣いてんのよ。電話しても出ないんだからぁ~。」

響はその声に、泣きそうになる。

しかし、次の糸葉の言葉に、こぼれかけた涙は引っ込んだ。

「私は大丈夫だよ~。いまね、RGBっていうとこでよくしてもらってんのよ~。おっきな組織でさ~」


(...え?RGB?聞き間違えではないのか?いや、でも糸葉は「組織」とも言っていた。どうやら聞き間違えではないようだ。篝茶緒かがりちゃおの属するあの組織だ。とすると考えられることは一つ。RGBはオレを狙っているのだから、それがだめだったら人質を取るだろう。)


「...本当に大丈夫なのか?何か大変な目にあったりとかは———」

「してないしてない!大丈夫だから!」


 それからは糸葉が連行されてから現在まで、何が起こったかを話した。ずっと家にいた糸葉は特にやることもなく家でゴロゴロしていたが、午後7時を過ぎたあたりで1人のオトナが部屋に入ってきたらしい。とはいっても、玄関の鍵は閉まっていたので、茶緒が言っていた「空間を切り取って貼り付けてなんちゃら」と同じ手法で空間を操作したのだろう。そのオトナはバグ調査組織RGBのセカンドリーダー福田あいりと名乗り、糸葉を連行しようとした。それを糸葉が拒否したところ、無意識に「契約成立ディール!」と叫んでおり、椅子と机とトランプ、そしてひとり一杯の紅茶が出てきたらしい。ゲームは神経衰弱だったそうで、糸葉はそれに負け、連行されたとのことだった。とにかく無事でよかった...。


「それに今はね、牢屋に入れられてるの!」


(...やっぱ無事じゃないじゃん!!)

「家具も通信機器も完備!さっきは組織の人と一緒に折り紙で遊んでたの!」

おいおいちょっと待て。まさかその組織の人って...!

「篝茶緒さんっていうらしい!とってもいい人なんだよ~」


その人知ってる。怒ると怖いよ。

「だからおにいちゃんは私に気にしないで」

 電話越しでもわかるくらい楽天的な彼女だが、施設がオレを狙っていることに感づき、助けに来ないでいいと言っているのだと直感的に分かった。

 それでも助けに行きたいのだが、1人では戦力が足りないことが分かっている。しばらくは糸葉を悪いようにはしないだろうし、いざとなったら電話もできる。明日はもう一度自然石のあるあの場所へ行き、ついでに仲間を集めよう。


「じゃあ、また電話するね!」

「ああ、それじゃまた」

 電話を切り、風呂に入って、満腹だったのでご飯は食べずに寝た。神楽殿かぐらでんでお菓子を食べすぎたようだ。




小ネタ)

本話で登場した福田あいりをアナグラムすると

ふくだあいり→ふくりいだあ→副リーダー

となる。まじめな性格だが、サードリーダーである篝茶緒には流されやすい。


本話の糸葉のセリフのほかに、第4話での報道員や先生のセリフの中にも、実はバグに関係ない英語が登場していない。

これもバグの一種であり、バグに直接関係しないものは日本語に統一されたのである。

(ちなみに、この物語の読み手は基本的に王那の側近です!4次元から3次元を俯瞰的に見ているので、バグの影響を受けずに英語も使えてます。)



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