第4話 池上 美由紀の話


私が両親と血が繋がってないことを聞かされたのは、12歳の時です。


多感な時期だったのもあり、親との会話も減ってギクシャクしました。


両親が血縁上の父と会う機会を設けてくれて、それを契機に両親との関係は復調しました。この言い方は好きじゃありませんが“実の父”は熊みたいな人で、言葉の端々はしばしに人の良さがうかがえて、なんか嬉しかったです。



会社の同僚だった池上と結婚したのは28歳で、翌年には娘の志帆が生まれました。

ただ、私も池上も一軒家の購入という夢の為に馬車馬ばしゃうまのように働いていたので志帆には寂しい想いをさせたと思います。


結局は幼かった志帆の世話も、新居購入の援助も、母に甘えてしまったんですが…。

でも新居には母の部屋もあるし、これからようやく親孝行出来るかな、とか思ってるんですよ。



例の人形は、新居に越した後に池上が衝動買いしてきて。家のローンもあるのに!て少し揉めました。でも不思議な魅力のある人形で、池上の気持ちも分からんでもなかったから、私が折れました。


ただ、人形が家に来て以降、志帆は元気がなくなったというか、すごく怖がりになりましたね。後になって志帆の話を聞き、申し訳ない気持ちで胸が苦しくなりましたよ。



あの日、池上と2人で母を迎えに行き、帰宅した時に家の中から志帆の悲鳴が聞こえたんです。慌てて家に入ると志帆がリビングで、へたり込んでいて。私は志帆に駆け寄り、母は人形に飛びつき抱きしめました─いや、抑えこんだ、が正解かもしれません。


母は胸元に人形を抱えたまま、泣きそうな顔で「のことは、私に任せて」と言いました。

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