第6話 俺を冒険者にしてください!

 それから、俺はアリトレの家に案内してもらい”自分が家を買う日”までという期限付きで部屋を貸してくれることになった。


 何も家具は置いておらず、オリジナル性がない空間。石レンガの床に壁。しばらくはベッドや布団といった柔らかいクッションがないので、首や腰を痛めて眠ることになりそうだ。でも、寝床がないよりか断然平気である。


 やっと1日が終わるのか……随分と長く感じたな。驚きの連続、聞きなれない単語のせいで理解が追いつかない状況に置かれていたからだろう。


 もっと異世界についての情報を知ることができたら、様々な連想や体験ができ異世界の面白さを実感できると思う。


 それにしても、家を買うまでに何日かかるだろうか。一応、部屋に入る前にアリトレに聞いてみたのだが……だいたい平均は20万マイらしい。


 冒険者だと1番難易度が低い依頼で最低500マイは貰えるらしいが、それでも400回ほど依頼をこなさないといけない。


 しかし、建築業だともっと時間を費やすことになる。流石に部屋を借りている身として、あまり長居するわけにもいかない。となれば、不本意だが俺は冒険者になろう。


 アリトレ曰く、能力は成長することができるらしい。冒険者として登録をしたら、その者には特別な加護が授けられる。人助けや魔物討伐など様々な依頼をこなすことで、スキルといった特殊能力やパラメータポイントという自分の好きな能力を上げることができるポイントが貰えると言っていた。


 つまり、多くの依頼を受ければ受けるほど相対的に能力は上がっていくというわけだ。もちろん、命を落とす危険性もある。だが、そんなこと子供じみた考えは言っていられない。もう、これ以上は迷惑をかけることはできない。


 ”最低でも後1か月以内にはアリトレに寄生せず生きれるようになる”これが現状の目標である。けど、俺がちゃんと稼げるようになるまではアリトレが面倒を見てくれるんだけど……自分に使ったお金も後できっちりと返済するつもりだ。


 ギルドで冒険者の登録をする、最低でも1つ以上依頼を受けてマイを自分一人の力で稼ぐ、これが明日のやるべきことだな。


 なんだかんだ文句を言ってたが……もうちょっと異世界を楽しむ努力をした方がいいのかもしれない。これから先、俺はこの世界で生きていくのだから。そう心に留め、俺は目を瞑った。


 ※


 「おはようございます」

 「えっと、メイさんですよね?」


 後日、あまりにも床が硬かったせいで俺はすぐに目覚めてしまった。窓から外を眺めると、まだ日が出始めていた途中の早朝だった。


 二度寝しようと思ったのだが、床が硬いことに気付いてしまったばかり違和感を覚えてしまい眠気が覚めてしまった。起きていても何もすることはなかったので、俺は冒険者登録を済ませようとギルドに足を運んでいた。


 それに、こんなに朝早く来れば、あのうざい双子はいないであろうと思ったのだ。その予想は的中し、ギルドの周りにはアマルさんしか姿が見えなかった。彼女はギルドの周辺を竹ぼうきで掃除していた。


 「あの、今ってお時間ありますか?」

 「はい。まだ冒険者は誰も来ていないので、何かお困りでしたら聞きますよ」

 「冒険者の登録をしたいんです!」


 今は周りに馬鹿にしてくる奴やアマルさんと話す自分を目の敵にする奴が周りにいないので、俺ははっきりと用件を伝えることができた。


 その言葉を聞いた彼女は何だか嬉しそうな表情になる。


 「ほ、本当ですか!?私すごく嬉しいです。昨日、ついメイさんの気持ちを考えずあんなことを言ってしまったので、そのせいで冒険者になることを諦めたのかと思っていたんです……」

 「いえ、そんなわけではないので大丈夫ですよ。むしろ、自分の能力の低さに嫌気が差して俺が逃げ出しただけなので」

 「そうなんですね。分かりました。では、今から冒険者の登録を済ませましょうか」

 

 そう言うと、アマルさんは両手に持っていた竹ぼうきをギルドの壁に立てかけた。掃除が終わるまで待ってた方が良かったな。そう申し訳なく思いながら、俺は彼女と一緒にギルドの中へと入っていった。


 アマルさんは「そこで待っていてください」と言い、いかにも”関係者以外立ち入り禁止”とされているような部屋へと入っていく。


 数十秒後、彼女は部屋から出てきた。右手には数えきれないしわが付いた紙と左手には羽ペンを持っていた。


 「お待たせしました。では、この紙に今からお見せする記号を書き、その記号の後に自分の名前を記入してください」

 

 アマルさんは机に無数のしわがある紙、その横に変な記号が書かれた小さな紙を置いた。


 しわのある紙は昨日、俺がクシャクシャに丸めた自分の能力が書かれてあるものだった。冒険者登録をする上で、この紙が必要だったとは……本当にごめんなさい。


 記号の書かれた紙には、簡易的な双竜が書かれていた。鱗や爪などといった細かな部分は書かれておらず、主に頭から尻尾だけを一本線で描いてある記号だった。


 俺はアマルさんに言われた通り、自分の能力が書かれた紙にその記号を書いていき、その記号の下に自分の名前を記入した。


 「これで冒険者登録の手続きは終わりました」

 「え、これだけの手順だけで終わりですか!?」

 「はい。これでメイさんにも冒険者としての加護が授けられました。もし能力やスキルや習得したい場合がありましたら、その時にまた教えてあげますから」


 こういう登録手順を踏む場合、本人確認のための生年月日や秘密の質問などを設定するのが普通だと思うんだけど。たったの数分で終わってしまったことで、本当に冒険者として登録が出来たのか不安になるのだった。

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