第4話 俺に夜飯を奢ってください!

 「なんで、異世界に転生して良いことが1つもないんだよーーーー!」

 

 ギルドから抜け出して、ただ俺は外を全速力で走っていた。異世界に転生して何一つ良いことがない。元の生活に戻りたい。もう一度、現実世界に戻って普通の生活を送りたい。それが俺の願いであった。


 また馬鹿にされる日々を送ることになるのか。あんな低い数値、誰がどう見ても冒険者に向いていないことは明らかだった。あの二人の嘲笑う声が脳内に響く。俺もアリトレのように冒険者以外の職業でお金を稼ぐしか方法はないのか。


 中学校は部活に所属していなかったので、ギルドから出てたったの数分で息切れをした。人気がない場所で身体を休めよう。ひとまず、今日はアリトレが夜飯を奢ってくれるので死ぬほど食べてギルドの件は忘れることにしよう。


 「明日からどうしよう……」


 偶然近くにあった橋下で俺は身体を休めることにした。明日から本格的に何かをやらなければならない、衣服や食料、家を買うための資金を集めなければならない。

 

 今まで自分がどれだけ両親に支えられてきたのか実感する。一人で生きることがこんなにも孤独で辛いものだとは思ってもいなかった。これからは自分一人で家事に生活資金を稼いでいかないといけない。1つ問題を解決しても、次々と違う問題が湯水のように湧き出てくる。そのことに俺は頭を悩ませていた。


 そして気づけば数時間が経過していた。太陽が沈み辺りが夕焼け色に染まっており、あんなに賑やかっただった街も一段と静かになっている。途中から考えることを放棄し、眠っていた俺はその場から立ち上がり身体を伸ばすとお腹が鳴った。


 「ふぅーー、とりあえずアリトレを探しに行くか」


 もう何時間も食べていない。そういえば、待ち合わせ場所を決めていなかったな。どこにいるか見当がつかない。でも、夜飯が俺には必要な以上探しに行かないといけないので俺は最初にアリトレと出会った出店広場に向かうことにした。


 何回か道に迷いながら、何とかして出店広場に着いたのだが……数えきれないほどあった出店は跡形もなく消えていた。数時間前に見た景色が嘘のようだった。


 出店や人が少なくなったことで視界が良好になる。俺は辺りを見渡す。スキンヘッドに黒のタンクトップを着たマッチョ、スキンヘッドに黒のタンクトップを着たマッチョ、とアリトレの外見の特徴を頭の中で繰り返す。


 しかし、彼の姿はどこにも見当たらなかった。


 となると、アリトレは俺をギルドまで迎えに来ているのかもしれない。アリトレが案内してくれた道と同じ道で俺はギルドへと向かった。


 さっきよりもギルドはさらに賑わっていた。そして、入り口の前にはアマルが立っている。やばい、何も言わず自分勝手に逃げ出してきたせいで心が痛んでくる。


 建物の物陰に隠れて、俺はアリトレを探す。お願いだからギルドの外にいてくれ、もしギルド内にいたなら俺はまたあの二人と顔を合わせないといけなくなる。


 「メイ、お前何をしているんだ?」

 「うわ!?なんだ、アリトレか……」


 突如、後ろから何者かに肩を叩かれ俺は慌てて振り向くと、そこには俺が探し求めていたアリトレが立っていた。あの瞬間、間違いなく俺は身の危険を感じた。


 「ギルドの案内はどうだった?」

 「その話題は今後一切出さないでくれ、まあアリトレが本当に夜飯を奢ってくれるのなら事情を話そうかな」

 「そうかよ。じゃあ今日は俺の奢りで夜飯行くぞ」


 その後、俺はアリトレが日頃お世話になっているお店に連れて行ってもらった。最初は異世界料理に躊躇いがあったのだが、食べてみると現実世界の料理よりも美味しく感じるものばかりだった。お店から出る頃には、俺は吐気で身体を動かすことが気持ち悪くなるほど満腹になっていたのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る