第2話 俺をギルドに連れていってください!

 「ほら、着いたぞ」

 「おお、ここがギルド!」

 「この街で一番人が集まる建物だ」


 並々に入ったビールジョッキで乾杯する様子を表している大きな看板。そのギルドの周辺では腕相撲をする者、その試合にお金を賭ける者、そして入り口の扉の前にはメイドの姿をした美少女2人に男性が寄って集まっていた。


 大きな祭りでも開催されているのかと、勘違いしてしまうほど大勢の人が集まっている。街で一番人が集まる場所だとアリトレが言ったのも納得できる。


 「どうだ、ギルドに入る前に賭けでもしていくか?」

 「いや、大丈夫かな……というか、俺は一銭も持っていないので出来ないです」


 気まずそうに答えた。ギルドに着く途中、アリトレには自分の事情を言っておくべきだった。


 「そうなのか……悪かったな」

 「全然、気にしてないのでお気になさらずに!」


 二人の間に静寂が訪れる。こういう時、どちらかが口を開かなければこの状況を打開できない。自分はギルドを知らないので、出来ればアリトレに話しかけてもらいたいが……今の会話があったせいで俺に気を遣っているかもしれない。


 そんな時だった……ギルドの入り口で大勢の男性に囲まれたメイド姿の女性一人が俺たちを凝視して自分たちの方に歩いてきた。そして、彼女は自分たちの前で立ち止まり口を開いた。


 「何かお困りでしょうか?」


 透き通るような綺麗な声。それに間近で見ると、彼女の可愛さがより強調される。


 綺麗な二重に切れ長の吊り目、肩まである艶のある紫色の髪。物静かそうな雰囲気があるクール系美女。女優やモデルが霞むほどのルックスをしており、まさに男性の理想を体現している。


 「い、いえ別に大丈夫です……」


 どうしよう目を合わせることができない。心臓の鼓動がうるさいほど聞こえてくる。こんなの初めてだ。もしかして、俺は彼女に一目惚れをしてしまったのかもしれない。いや、女性慣れをしていないだけである。あと数年もすれば、むしろこちらから積極的に話しかけているだろう。


 「お、久しぶりだな。すっかり見ないうちに大きくなったな!」

 「アリトレさん、お久しぶりです。今日はどうなされたのですか?」

 「今日はこいつをギルドに案内するために足を運んだのさ」


 いつの間にか、二人だけの空間が出来上がっていた。自分も会話に混ざりたいのだが……二人の会話に水を差すわけにはいかないので黙っておくことにした。


 はあ、やっぱり見ず知らずの土地で生きていくことは難しそうだな。自分の常識や経験は異世界では通用しない。現在の俺は離すことができる赤子のようなものだ。異世界について何も知らなさすぎる。


 これから異世界の情報を入手していくには、もっと人との交流を盛んにしていかないといけないな。知り合いが多ければ、色んな情報を知ることができる。

 

 「メイ、お前に聞いているんだぞ?」

 「……え、どうしたんですか?」

 「ごめんな、アマルちゃん。こいつ聞いてなかったから、もう一度言ってもらえるか?」

 「私で良ければギルド内を案内しましょうか?」


 絶世の美女からの誘い、断るなんて重罪になってしまう。しかし、ギルドを案内してほしいと、俺がアリトレにお願いしたのでその約束を破ることはできない。非常に心が痛むが、ここは美女の誘いを丁重に断らせてもらおう。


 「気持ちはありがたいのですが、先にアリトレに案内をしてほしいとお願いしたので今回は断らせてもらいます」

 「そうなんですね……」


 すると、彼女は凄く悲しそうな表情を浮かべる。そんな顔しないでよ、俺あなたのファンに殺されてしまうかもしれない。ほら、あらゆる男性が俺たちに嫉妬や憎悪が混じった視線を向けている。


 「すまん、メイ。これから建築の手伝いに行かないといけなかったわ。だから、アマルちゃん俺の代わりにこいつを案内してくれないか?」

 「え、そんなことさっきまで言ってなか―――うぅぅぅぅ!」


 最後まで言い切ろうとしたら、途中でアリトレが俺の口を手で押さえてきたせいで最後まで喋ることができなかった。


 「そうなんですね。では、私が責任を持って案内します」

 「悪いな、メイ。案内が終わったら、夜飯奢るから許してくれ」

 「許します」


 俺は即答だった。現在、俺が明日を迎えるために必要な夜飯。これで何とか明日を迎えることができそうだ。相手のお金だからといって気を遣ってはいけない、ちゃんと誠心誠意に腹が破裂するくらいまで食べてやろう。


 それに俺は器が狭い人間ではない。俺は表情を一変させ満面の笑みを浮かべて、その場から立ち去っていくアリトレを手を振って見送った。あとで会いましょう。そして夜飯を奢るのが嘘だった場合は許しませんからね。


 「それでは行きましょうか」

 「よろしくお願いします……アマルさん」


 女性の名前を呼ぶ経験が乏しかったせいで、終始か細い声になってしまった。自分の顔が赤面していることは鏡を見なくても熱さで分かった。

 

 

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