第29話 天才剣士の力

 青の龍が冷気を放ちながら巨大な体を揺らし、俺と向き合っていた。その鱗は青く光り、見る者に圧倒的な威圧感を与えている。俺は剣を握り締めながら、その姿をじっと見つめていた。


(この場面……思い出すな……。)


 俺の脳裏に浮かぶのは、かつての自分の村、そして両親のことだった。あの日、炎に包まれた村と、龍によって無惨に命を奪われた人々。その中には、彼の愛する両親もいた。


「俺は……必ず終わらせる。」


 低く呟いた後、俺は剣を掲げた。炎が剣先から湧き上がり、その熱が氷の世界を一瞬だけ揺らす。


「行くぞ!」


 その一声で俺は龍へと駆け出した。




 青の龍が冷気を纏った爪を振り下ろす。だが、俺の剣から溢れる炎がその冷気を瞬時に溶かしていく。


「やるじゃないか……だが、これで終わりじゃないぞ!」


 龍が尾を振り回し、俺を狙う。間一髪で回避した彼の背後から、スズカの声が響いた。


「ジュラークさん、援護します!」


 スズカが手をかざし、光属性の魔術を発動させる。眩い光が辺りを照らし、龍の目を一瞬だけ眩ませた。


(今だ――!)


 俺は無言でスズカに目線を送り、次の攻撃の準備に入る。二人は何も言わずとも息が合っていた。




 龍が光の影響で隙を見せた瞬間、俺は剣にさらに炎を集中させた。剣先から溢れる赤い炎が、まるで生き物のように龍へと向かっていく。


「おらぁっ!」


 その一撃が龍の体に直撃し、冷気で形成されていた氷の壁が一瞬で溶けた。


「うおおおお……!」


 龍が苦しげなうめき声を上げ、その体が一瞬揺らぐ。俺はその様子を冷静に観察しながら、次の動きを考えた。


(斬るより溶かす……この戦い方でいける。)


 彼はさらに剣に炎を宿し、攻撃を続ける。溶けていく氷の壁、そして揺らぐ龍の冷気。だが、相手もただ黙ってやられているわけではなかった。




 龍が再び冷気を強め、口を開いて冷凍ブレスを放とうとしているのを見て、俺はすぐにその危険を察知した。


「スズカ、下がれ!」


 俺はスズカに一声かけると同時に、自分も距離を取る。その判断は的中した。次の瞬間、龍の口から放たれた冷気の嵐が氷の湖を一面凍らせる。


「……危なかったな。」


 俺は冷や汗を拭いながらも、すぐに次の攻撃を仕掛けるべく構えを取った。その瞳には迷いがなく、ただ目の前の龍を倒すことだけを見据えている。


(この戦い……俺が終わらせる!)


 俺は再び剣を握り直し、燃え上がる炎をまとって青の龍へと突進する。



 青の龍が冷気をさらに集中させ、大技を繰り出そうとしているのを見た俺は、即座に判断を下す。


「スズカ、もう少し時間を稼いでくれ!」


「分かりました!」


 スズカが再び光の魔術を放ち、龍の動きを封じる。その間に俺は剣にさらに強力な炎を宿し、全てを一点に集中させた。


(これで終わりにしてやる……!)


 剣先に集まる炎が渦を巻き、赤い輝きが氷の冷気を押し返していく。




 青の龍が冷気のブレスを放つ瞬間、俺は剣を振り下ろした。その剣から放たれる炎が冷気を切り裂き、氷の壁を一瞬で溶かしていく。


「これで終わりだ!」


 剣の一撃が龍の体を直撃し、その巨大な体が揺らぐ。苦しげなうめき声を上げる龍を前に、俺はすぐに剣を握り直した。


「まだだ……次で決着をつける!」


 俺は再び構えを取り、炎をさらに強く燃え上がらせた。その姿は、氷の世界を切り裂く紅蓮の刃そのものだった。


(俺がやらなきゃ、誰がやる……!)


 次の一撃を狙う彼の瞳には、勝利への確信と強い意志が宿っていた。




 青の龍が冷気を纏い、湖面を凍らせながら堂々と立ち塞がっていた。その存在感は、まさに氷の覇者そのもの。俺は剣を握りしめ、その瞳を鋭く細めた。


(これを倒せば……俺は先に進める。だが、両親のことを思うと、この手で終わらせなければ気が済まない。)


 龍に襲われた村の記憶が、鮮やかに蘇る。燃え盛る炎、倒壊する家々、そして両親の最期の姿――それが彼を突き動かしていた。


「俺が……終わらせる!」


 炎を纏った剣が輝き、俺は龍に向かって突進した。




 青の龍の冷気が湖面を凍らせ、鋭い氷の結晶が空中に浮かび上がる中、俺は炎を纏った剣を握りしめた。


(それにしても……あいつらは何をしている?)


 視界の端に映るのは、レオンとアイリ。龍を目の前にしても動こうとせず、レオンはその場でただ息を切らし、アイリは震える手で涙を拭っている。


(腑抜けになったものだな……。だが、あいつらは後回しだ。)


 俺は気にも留めず、龍に集中する。まずはこの目の前の敵を倒すことが最優先だった。


「スズカ、時間を稼げ!」


 俺の指示にスズカは即座に反応し、光属性の魔術を放ちながら龍の注意を引く。


「任せてください!」


 彼女の魔術が眩い光を放ち、龍の動きを一瞬だけ止める。俺はその隙を逃さず、拳に炎を込めた。



「これだ……!」


 俺の拳が熱を帯び、炎が渦を巻くように燃え上がる。剣で斬るのではなく、粉々に破壊する――それが俺の戦術だった。


(呪いが解けた今、俺には仲間がいる。そしてこの力がある。俺に敵う者などいない。)


 炎を纏った剣を握り直し、龍の冷気に立ち向かう。龍が放つ氷のブレスを俺は剣で受け流し、その勢いを利用してさらに一歩踏み込む。


「はああああっ!」


 冷気の槍が龍の周囲から飛び出してくるが、俺はその全てを片手で斬り落としていく。その動きは一切の無駄がなく、剣先が触れるたびに氷が砕け散る。



 少し離れた場所で戦況を見守るユキナは、俺の動きを目の当たりにし、思わず感心の声を漏らした。


「やっぱり本物でしたね……。」


 彼女の冷静な目にも、俺の剣技と炎の力が際立って見えた。氷の槍を片手で斬り落とすその姿は、まさに天才剣士そのものだった。


「……でも、油断は禁物です。」


 ユキナはその言葉を呟きながらも、俺の動きに期待を込めた目を向け続けていた。



 俺は炎の剣を握り直し、再び龍に突進した。氷の槍が次々と放たれるが、その全てを受け流し、破壊しながら前進する。


(こいつを倒せば……俺たちは先に進める!)


 俺の瞳には、炎と同じように燃え上がる決意が宿っていた。次なる一撃に全てを込めるべく、彼は再び拳に炎を集中させ、龍の冷気を一気に溶かす準備を整えた――。



 青の龍が放った冷気の攻撃を無効化し、俺は剣を下ろすと右拳に炎を纏わせた。その炎は剣以上の力を秘め、彼の全身から湧き上がる怒りと決意を象徴している。


「これで終わらせる……!」


 俺は龍の巨大な胴体に向かい、全力で拳を叩き込んだ。


「燃えろッ!」


 拳が鱗に触れると同時に、炎が龍の体を包み込むように燃え上がり、冷たい湖の空気を一変させる。龍の硬い鱗が熱せられ、シューという音と共に白い煙が立ち上る。


「グオオオオオオ!」


 青の龍は苦しげな咆哮を上げ、その巨大な体を揺らした。




 痛みを受けた龍は、怒りに満ちた目で俺を見据え、尻尾を振り回して冷気をばら撒きながら反撃してきた。その一撃一撃が湖面を砕き、氷の破片が四方に飛び散る。


「くっ……そんな攻撃、読めてるんだよ!」


 俺は冷気を察知し、華麗なステップで尻尾攻撃を回避した。飛び散る冷気の中、彼は自分の体に炎を発生させ、それを盾にして冷気を完全に防いだ。




「終わりだ……燃え尽きろ!」


 俺はさらに炎を増幅させ、体全体を燃え盛る火の玉のように変えた。その熱気は周囲の冷気を打ち消し、氷の湖面を溶かし始める。


「スズカ、ユキナ! 離れろ!」


 俺の叫びにスズカとユキナはすぐに反応し、遠くに避難した。その時、スズカが俺を心配そうに振り返る。


「ジュラークさん、無事でいてください……!」


 ユキナは無言のまま頷き、スズカをさらに奥へと誘導する。



 俺の炎が爆発的に広がり、冷気と激突した瞬間、とてつもない水蒸気が戦場を覆った。視界が完全に白くなる中、青の龍の咆哮だけが響き渡る。


「これで終わりだ……」


 俺は最後の力を拳に込め、全力で青の龍へと突進した。その拳は俺の決意そのもの――全てを賭けた一撃だった。

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