第8話 マルベラ王国とスズカの恋

 マルベラ王国は、世界でも有数の大国だ。世界四大王国の一つとされており、人口は2番目に多い。さらに、食材の資源が豊富で、他国との干渉も一番多い国だ。ここは、多様な文化が混ざり合い、繁栄している場所だと見える。


 俺はスズカに連れられながら、その街を歩いていた。あの日から、もう1週間、寝たきりだったらしい。まだ体は完全じゃないけど、少しは歩けるようになった。


 街を歩くと、人々が俺を見ていく。どうやら、俺のことは既にこの街の人々に知れ渡っているみたいだ。でも、スズカは気にする様子もなかった。



 それに、俺は王国の人々の視線があまり気にならないことに意外な反応を示した。思っていたより、俺に対する好奇の視線は少なかった。


「意外と、俺をじろじろ見る人が少ないな」


 俺が言うと、スズカは笑顔で答えた。


「みんな、もうあなたのことを知っているんですよ! 私たち王国騎士団がしっかり守っているから、安心してください」


 そして、彼女は積極的に俺の手を握り、街を案内してくれた。彼女の手の温もりは、どこか安心感を与えてくれた。


「ここが王国の中心広場です。週末には市場が立ち、色々な商品が売られています」とスズカが説明してくれる。


「へぇ、こんなに賑やかなんだな」


 俺は驚いた。自分の村とはまるで違う風景に圧倒された。


 彼女は案内しながらも時折、俺の顔を見て微笑んだ。


「ジュラークさん、こちらは王国で一番人気のレストランです! 一度、試してみませんか?」


「……スズカのオススメなら間違いないだろう」と俺は応じた。スズカの提案には、彼女の俺への気遣いが感じられた。


 スズカとのこの時間は、俺にとって新しい一歩。

 彼女の存在は、俺の人生に新たな色を加えている。



 そして、俺たちはレストランに入った。村では絶対食べられないような、豪華な肉料理や魚料理が出てきた。料理が運ばれてくると、スズカの目は輝いていた。さっきのような重い雰囲気とはまるで違う、明るい表情だ。


 俺はしばらくの間、ただ食事を楽しんだ。スズカの明るい笑顔を見ていると、自然と俺の心も和らいできた。


 ……さて、俺が寝たきりだった時のことだが……。


 スズカは本当によく面倒を見てくれた。俺が寝ている間、彼女は治療をしてくれたり、必要なものを用意してくれたりしていた。彼女は王国の騎士としての任務もある中で、忙しいにも関わらず、俺の世話をしてくれたらしい。


 スズカは、朝早くから俺の部屋に来て、薬を飲ませてくれたり、食事を用意してくれたりした。時には、俺の熱が上がったときには一晩中看病してくれたこともある。彼女はいつも優しくて、俺のことを第一に考えてくれていた。



 食事を楽しむ中で、スズカが話し始めたんだ。


「あなたの村の付近で依頼をこなしていた時、大騒ぎになっていたジュラークさんを見つけたんです……そして、村の人たちはあなたをとても心配してましたよ」


 俺はちょっと恥ずかしくなって。


「見苦しいところを見せちゃって、ごめんな」


 謝ったんだけど、スズカは笑って言った。


「いえいえ、むしろ私にとっては好都合でした……いや、何でもないです!」


 彼女の言葉に、俺は「何なんだ、この子は……」って思った。


 そして、スズカは俺の現在の状況について説明してくれた。


「ジュラークさん、今は剣を握るのは難しいかもしれませんが、王国での新しい生活はどうですか? ここには色んな可能性があるんですよ」


 スズカは励ましてくれた。


 スズカの言葉に、俺は少し前向きになれた。たしかに、今は剣が使えないけれど、ここマルベラ王国には新しいチャンスがありそうだ。スズカの隣で、こんなに美味しい食事をしている今が、それを教えてくれているような気がした。




 封印魔術、それは俺の人生を一変させた恐ろしい呪いだ。この呪いのせいで、俺の体内の魔力はうまく練れなくなっていて、持っていた炎の属性も発動できないんだ。それに、筋力も落ちて、体中が痛む。レオンの嫌がらせだと分かっていても、どうにもならない。


 こんな状態で、俺は完全に自信を失っていた。アイリとの勝負には勝ったけど、本質的には負けたようなものだ。アイリは俺の元を離れていったからな。


「考えてみれば剣が握れないって……」


 俺の声は震え、言葉は絶望に満ちていた。


「これじゃ、俺はもう剣士じゃなくて……ただの…ただの無力なおじさんだ」


 スズカはそんな俺に優しく声をかけた。


「ジュラークさん、どうか絶望しないで! 私が絶対に助けてみせます! あなたがまた剣を握れるようになるその日まで、私がそばにいます」


「でも、俺はもう……」


 俺の心は沈んでいく。自分が一回りも年下の女の子にこんなにも頼らなければならないなんて。情けなさが心を満たし、自分の無力さを思い知らされる。


「天才剣士として名を馳せていたのに……こんなことになって……」


 俺は自分の過去を思い返す。戦場での勝利、人々からの称賛、そして失われた全ての栄光。今の自分は、それらすべてを失ったかのように感じた。


 スズカは俺の手を強く握り、力強く言った。


「あなたはまだ諦めるべきではありません……あなたはこの王国、いやこの世界にとって必要な人です。私があなたを助けるんですから、信じてください」



 スズカはそんな俺を励ましてくれた。


「でも安心してください! 私がある程度は治せますから」


 スズカは力強く言った。


 スズカは光属性を持っている。光属性は回復や呪いの解除、さらには他者を蘇生させることもできるとされている力を持っていると聞いたことがある。


「光属性は回復や浄化、時には呪いを解除する力を持っています……王国では、この属性を持つ者は大変重宝されるんですよ」


 そして、この世界には基本的に6つの属性があると俺は知っている。


 そして、スズカが説明を始めた。


「火、水、風、雷、光、そして闇……それぞれに独自の特性と力があります! 例えば、火属性は破壊力と温暖化の能力に優れ、水属性は回復や防御に長けています」


 知っているけど、一応聞いておくか。

 スズカはとても自慢げに語っているから止めるのも悪いだろう。


「風属性は移動速度の増加や、幅広い範囲の攻撃が可能です。そして、雷属性は瞬間的な高威力攻撃と、神経系に作用する力を持っています」


「……じゃあ、闇属性はどうなんだ?」


 スズカの顔が少し曇った。「闇属性は少し特殊で、隠蔽や妨害、心理操作などに長けています。時には、強力な攻撃力を持つこともありますが、使う者によっては危険な力となり得ます」


 俺は思い出した。


「……俺の炎属性はどうなるんだ? もう一度、使えるようになるのか?」


 スズカは優しい眼差しで俺を見つめて言った。


「炎属性は攻撃力と熱を利用する力が特徴です。あなたが再びその力を使えるようになることを私も願っています……そして、私の光属性であなたを助けることができるかもしれません」


 スズカの言葉を聞いて、俺の心には少しだけ希望が湧いてきた。


「本当にそうしてくれるのか?」


 俺はスズカに聞いた。彼女は笑顔で頷いた。


「もちろんです。ジュラークさんを助けることが私の使命ですから」


 俺は驚いて、スズカの言葉を信じられなかった。


「恩人って、お前は……」


 スズカはニコッと笑って、さらに言葉を続けた。


「あなたも私にとって恩人なんです。さらに、この世界に必要な人材ですから」


 スズカは言う。その言葉は、俺の心にじんわりと温かいものを広げた。


 スズカはちょっと体を伸ばして、俺の耳元でささやいた。


「それに、あなたは私の婚約者でもありますから」


 彼女の声は、とても穏やかで、何かを決意しているように聞こえた。



 しかし気になることはある。


 スズカが俺の世話をしてくれているのは感謝している。

 だけど、同時に彼女が何でこんなに俺のことを気にかけてくれるのか、それが不気味にも感じられる。


「昔、お前を助けたって言っても……どうしてお前は俺を……?」


 俺は思いを巡らせたが、その時、レストランに騒ぎが起こった。


「りゅ、龍が現れた!」


 その一報に、レストランの中は一気に騒然となった。

 俺とスズカも顔を見合わせた。


「ま、まさか……こんなことが……」


 俺の瞳は見開かれたまま、驚愕で固まってしまった。

 龍が現れるなんて、信じられない。


「ジュラークさん、行きましょう!」


 スズカの声に、俺は我に返った。


「ああ……」


 返事をして、俺はスズカについて外へと駆け出した。街の外れで起こった出来事に、俺たちは急いで向かうことにした。


 まさか、ここで龍に遭遇するなんて……。俺の心は複雑な感情で揺れ動いた。

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