第78話 縁は奇なモノ……あとなんだっけ?
「……きったねえ……天井……」
死にそうなくらいの倦怠感。
目を開くと、寝る前に見たのと同じ天井が見えた。
うぐ……体が重い……
んで、ここどこだよ……
「――お目覚めになりましたか」
「うえ、あ?」
なんか、聞いたことのない声が聞こえた。
ガチガチに凝った首をなんとか回して、声の方向……横を見る。
体中が鉄になったような感じだ、首以外がまったく動かねえ。
「……どちら、さん、で?」
オレはどうやら、ベッドに寝かされていたらしい。
その傍らの椅子に……見覚えのある、鎧が座っていた。
冒険者風の、使い勝手のよさそうだがどこかボロい鎧ではなく……そう、『騎士』の鎧。
「――第12巡回騎士団所属、ヴェンデッタと申します」
第12ってーと……そうか、例の『氷姫』サマのとこの……
しかし、それが何だってこんな所に?
「ご自分の名前はおわかりですか?ご年齢と、ご職業は言えますか?」
「……ミディアノの、ウエスト、ウッド。た、ぶん25、銅2級、冒険者……」
「……記憶の混濁なし、言語機能問題なし……」
騎士サマ……ヴェンデッタは、兜の中から声を漏らしつつ手元の帳面に書き込んでいく。
なんか、医者の問診みてえだな。
待てよ、問診……?
「ひょっとして……医療、騎士サマ、とかいう、お方です、か?」
ええい、口が回らねえ。
喉がカラッカラだ、オレぁどんくらい寝てたんだよ。
「ええ、そうです。それと、私はただの平民ですので敬語はけっこうですよ」
「こ、こは?オレは、どのくらい……」
「アポロ村の村長宅、です。ウエストウッドさんは1週間お眠りになっていらっしゃいました」
……1週間!?マジかよ!!
え?っていうか村長の家かよここ。
借りた空き家とそう変わらん感じのボロさだぞ。
「色々お聞きになりたいでしょうが、まずはお体を休めてください……まだ左腕がしっかり固着していませんので、くれぐれも起きませんように」
「くっつい、て……?」
マジかよ。
吹き飛んだ左腕、大丈夫だったんか。
地球なら大手術だぞ……魔法ってすげえや。
「医療魔法、薬草、そして護符を併用して治療しました。ウエストウッドさんは魔力が限りなく枯渇した状態でしたので、慎重に施術させていただきました……もう半月は絶対安静でお願いします」
「めいわく、かけたな……いくら、かかった?」
治療費、いくらになんだろうなあ。
今まで結構稼いだから、足りねえってことはねえと思うが……
そこまで言った所で、ヴェンデッタがくすりと笑った。
「いいえ、お気になさらず。まずは回復を第一に」
ヴェンデッタが席を立ち、視界から消えていく。
これ以上首が動かねえから見えねえ……添え木でも付いてんのか?
ぎ、という音。
扉が開いたな。
そして、外から何人かが喋るような音が聞こえた。
誰だ……?結構多いのかな?
なんか、結構ガヤガヤしてんな。
「――ウッドぉ!!」
ばあん、と音。
その後、走る足音。
「ウッド!」
目が真っ赤になったマギやんが顔を出した。
「よォ、げんき、そうだ」
「あ、アンタよりかは、アンタよりかはそらげん、元気や……元気、う、うぐ、うぐうううううううううう!!」
抱き着くのをこらえるような動作をした後、マギやんは立ったまま泣きだした。
おいおい、オレは動けねえんだぞ。
涙を拭いてやることもできやしねえ。
「あれから、どうなっ……た?ほか、の、みんな、は?」
ああクソ、思考力は戻ってきたが口が回らねえ。
もどかしいな。
「アンタが一番の重傷や。腹に大穴空いたバルドはんも、ピンピンしとるで」
すげえな獣人。
いや、バルドがすげえのかな?
ガッツリ柱みてえな骨が突き刺さってたんだぜ?
「……なんで、オレ、ここに?」
「ウッドの状態が悪すぎた。動かせないからここで治療したってワケ」
にゅっ、と。
マギやんの後ろからララが出てきた。
「はいマギカちゃん、チーン」
ララはマギやんにタオルを渡す。
それで、マギやんは顔を覆った。
「私が代わりに説明する。今この村には私とマギカちゃんだけ、残りの3人はウッドが快方に向かったから報告のためにアンファンに戻った」
なるほど……ヴァシュカもミドットにいさんも無事か。
「で……村長なんだけど、現在拘束中」
「……は、えぇ?」
なんで?
そりゃあ、ゾンビのアレコレは隠してたけど……拘束されるような事か?
「あの村長は偽物だった。死霊術師が化けてた」
……え?
なにそれ、どういうこった?
「ウッドが吹き飛ばしたスケルタス・ドラゴンいたでしょ?アレを操ってたのがソイツ」
「ふき、と、ば?」
「あ、それも覚えてないの。すごかった、上級以上の魔力反応……まるでエルダードラゴンのブレスみたい」
どういうこった?
あの呪文?の後そんなことが起こったんかよ。
たぶん、残りの3発分を一気に撃ったんだろうけど……
「スケルタス・ドラゴンの頭は消滅するし、森はちょっと削れるし、おまけに反動でウッドの右手首も千切れたし」
「ち、ぎれ……?」
駄目だ、衝撃的過ぎる。
一気に撃ったから反動もデカかったんか……?
あと、森がちょっと削れたってマジかよ。
「で、あのドラゴンを操ってたのが偽村長だったってワケ。受けた魔力がドラゴン経由で逆流して、この家で死にかけてた」
……なるほど?
例のクソデカキモゾンビと違って、あのドラゴンは遠隔操縦だったってことか?
しっかし、村長が偽物ねぇ。
さすがに、それは気付かなかった。
精々小さな嘘くらいだって思ってた。
「村人は全員『洗脳』と『服従』の魔法で騙されてた。本物の村長はいまだに行方不明……たぶん殺されてると思うけど」
はえー……そんなことになってやがったのか。
村人の連中、災難だったなあ。
「あの後、精霊魔法でアンファンに連絡したんだけど……そしたら衛兵どころか巡回騎士団が来た。それで、ウッドの治療が始まって……今に至る」
喋り切ると、ララは溜息。
「……いっぱい喋って疲れた。とりあえず現状はこんな所、かな?細かい話はまだあると思うけど、今は寝てること……あ、忘れてた」
ララが布袋に手を入れ、陶器のボトルを取り出し……くっさ!?!?
こ、この臭いはまさか……!
「マギカちゃん、口開けさせて」
「……はいな!」
涙を拭いたマギやんが、オレの口を掴む。
そのまま、ぐいっと開かれた。
待て!そのボトルはもしかして!
「ウッドウッド、ヤンヤの婆ちゃんからの差し入れや!意識が戻ったら飲ませてもええって!」
「ま、まで、まっで……」
「駄目、これは臭いけど肉体の治癒力を底上げする上に後遺症もない凄い滋養薬、死ぬほど臭いけど。ヤンヤさんのこの薬は本来なら金貨10枚以上で取引される凄いモノ、めっちゃ臭いけど」
ララの無慈悲な発言が突き刺さる。
臭いって言い過ぎだろ!
「どっせい!!」
「んご!?が!?ぎ!?ぎゅ!!?~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!!?」
マギやんの的確な誘導によって、ボトル内の薬が流し込まれた。
生臭くて辛くて酸っぱくて苦くてクソ甘くて渋くてあとなんか〇ロンパスの味がする!?!?!?!?
不味さと臭さで死ぬ――――
・・☆・・
「やっぱり顔色が変わ……へぇ!?ララはんこれ大丈夫なんでっか!?」
「ん、これは特別製だから顔色が七色になる。ちょっと面白すぎる、かわいそうだけど」
「白目剥いとるやん……んしょっと。冷やしたタオルものせたろ」
「マギカちゃん、お嫁さんっぽくてポカポカするね」
「んにゃあ!?っち、ちちちちちがっ!?」
「待って待って、ウッドの首が折れるから待って、ごめんなさいするから待って」
・・☆・・
『うわはははは!!!アレ見てアレ!ゲーミングフェイス!!』
『あの人間マジでおもしれえな!!綺麗にオチまで付いちまった!!』
『オイ鍛冶神の、あの娘っ子にもなんか加護やれよ!あんだけにいちゃんが頑張ったんだからよ!』
『それについてはやぶさかではないが……協定に引っかかるじゃろ、無茶苦茶やりたいけども』
『アタシに任して!あの地方の教団に伝手があるからこう、なんちゅうか、搦め手的な感じでちょいちょいっとね!!』
『……お前らそろそろ帰れよ、在所でも見れるだろうがよ』
『ライブ感が重要なんだろうがよ~?』
『1週間だぞ、1週間』
『いいじゃんいいじゃ~ん!あ、これが虎ノ巻ってやつ?アタシも書いとこ~』
『あ、お前ちょっと待てっての!』
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